![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/160516387/rectangle_large_type_2_25689dbe1fe65a70b04649ed887a983c.png?width=1200)
オリガ・モリソヴナの反語法
米原万里さんの小説。舞台はチェコ、ロシア、時代は1990年代、1960年代、1930年の3つにわたる。
子供の頃チェコのソビエト学校に通った主人公に強烈な記憶として残る二人の教師。その二人の謎を解くために再び彼の地に赴き、わずかな手がかりをもとに謎解きを始める。そう、これはミステリー小説。約30年前の記憶にある、わずかな会話と、ふと見せてもらった写真をもとに調査を始める。かつての社会体制がくずれ、情報が開示されるようになったからこそあちらこちらに奔走してヒントをかき集める。
オリガ、モリソヴナは自称50歳のダンス教師。だが明らかに70歳は超えてそう。が、ダンスにかける情熱は熱く、生徒たちに反語を使って指導を続ける。反語法を使った口癖は苛烈だがその実力は本物。はじめて聴いた音楽に乗ってツイストを踊って見せたり、ソビエトで最初にチャールストンとジターバグを踊ったのは自分と語る。そんな授業を受けダンスに目覚めた生徒たちは大人になり、芸術で食べてゆくことの難しさと苦悩を知る。そう、これは教育と人の生きてゆくための哲学にも似た物語。
かつての体制を振り返る、見えてくるのはその国の歩んできた歴史。そう、これは歴史小説。
レーニン、スターリン、フルシチョフと社会主義の理想のもとに進められた国家体制は、言論統制と、激しい粛清と共にあった。アウシュビッツ収容所の話はドイツ統一と合わせて負の歴史として語られるが、内幕を見せないロシア、ソ連で起こっていたことはほとんど目にしない。本に出てくるのは疑われた本人だけでなく、妻、娘など親類縁者全てが有無も言わさず連行され、バイコヌールのラーゲリ(収容所)に3年から8年拘束される話。そこで起きることは人が人を人として扱わないことばかり。
さまざまな内容を盛り込み、テンポよく謎解きが繰り広げられる。その鍵はかつての強烈な出来事の記憶。オリガ・モリソヴナ、エレノーラ・ミハイロヴィナ、バルカニヤ・ソロモノヴナ・グッドマンと長い名前と出来事の年を記憶から呼び出してくる。ここ100年の間で起きたソ連、ロシアのポイントとなる出来事をバックボーンとして持っているともっと解像度が上がるのにと思った。
2002年発行の本を借りて読んだのだがスピンの端は擦り切れ、背表紙も大分くたびれている、それだけたくさんの人の手に取られて読まれたのだと思う。最初の50ページにつくまでに「これは面白い本だ」との確信から、重厚な歴史に巻き込まれ、友人との謎解きにページを捲ることを止められなくなる。
読んでよかった。
いいなと思ったら応援しよう!
![らんさぶ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/94470813/profile_b90af9fa346d2047c02b7e1c72be23dd.png?width=600&crop=1:1,smart)