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ラブカは静かに弓を持つ

本屋大賞の作品であることは知っているが、果たしてどんな内容なのかは事前情報を入れずに読んだ。

音楽教室著作権裁判で、実際に勤務先を告げずレッスンを受けていたことがありこれをモチーフとした話だった。主人公も、かつてチェロを習っていたことから、音楽教室に通うこととなる。そこでの先生とのやりとり、同じクラスの生徒との関わりが綴られる。

ラブカとは深海魚で、独特のフォルムをしているが、作中ではスパイの隠語として扱われている。深く暗い深海でその身をひそめ、太古から生きてきた魚は、スパイとして身を隠し、いつになるかわからない日の目を見る日まで潜伏する描写にあっている。

音楽のすごいと思うところは、技術の習得には時間がかかり、そしてそれを会得したとしても、職業にするにはそれだけでは足りないこと。しかし、同じ音楽に関わる人たちは、年齢性別を問わず、共通の認識で繋がり合えることができるところがすごい。

講師と生徒の間には、信頼があり、絆があり、固定された関係がある、それらは決して代替のきくものでは無いのだと。

音楽は人を表に出す方法の一つ。限られた言葉に変換するのはいわば、デジタルに変換するようなもので、音楽はアナログで外に発信する。一方に向けてではなく、全方向に。それを受け取る側もまた、意味が定義された言葉ではなく、すべての感覚で理解する。
素晴らしい音楽を聴いたとき人が言葉にならない感動を覚えるのは、受け取ったものがデジタル変換できないほどの情報量を受けたからだと思う。

人が歌を歌うのは歌詞にするためではなく、最も原始的な声という楽器を奏でることで自分を表現するためなのだと思う。

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街歩きがさらに楽しくなるものがあるといいな