ノーが言えない人のイエスの価値
高橋みなみさんがパーソナリティをつとめるTOKYO FMの番組「高橋みなみの『これから、何する?』」にホスト界の帝王・ROLANDが出演した。
番組内のリスナーのお悩み相談のコーナーで、「価値観の合わない人との付き合い方」という悩みにROLANDが答えた。
以下がそのやりとりの一部だ。
次の悩みは、「価値観の合わない人との付き合い方」。相談者は気持ちが通じ合わない相手の場合、反論せずにスルーをしているそうです。すると、ROLANDさんは「思っているのに言えないのはダメ」「ノーが言えない人のイエスに価値はない。嫌いが言えない人の好きには価値がない」と、相談者の対応に意見します。「“嫌い”は悪い感情じゃない。『私、なんでも食べられます』って子は魅力がないと思ってしまう。好き嫌いがはっきりしている子が『美味しい』って言ってくれたら、それは本音だしうれしい」とROLANDさんは伝えました。
この言葉に、胸に引っかかていた思いがストンと抜け落ちた気がした。
そして、心の中で「ROLAND様!」と叫んだ。
僕のバイト先には60代のおじさんがいる。
以前は企業に勤めていたそうなので、もうすぐ社会人となる僕に世の中というものを教えてくれることがある。
その中の教えの一つがどうも納得いかなかった。
状況としてはこうだ。
上司と僕、二人並んで座っているとき、上司が間違えて僕の足を踏んでしまったときどう対処すべきか。
おじさんが言うことには、
「すいません!こんなところに足を置いてしまって」
と僕が謝るべきなのだそうだ。
つまり、長いものには巻かれろという思想に近い。
きっと時代背景やジェネレーションギャップもあったのだろう。
当時は先輩の言うことがすべて正しい時代。
上司が「あのカラス、白いよな」と言えば「はい!白いです!」と答えるような時代だったらしい。
ただ、今はもうそんな時代ではない。
(と、僕は思っている。)
だから、僕は反発した。
「いや、ちゃんと『僕の足踏んでますよ』と指摘しますよ。別に上司に謝ってほしい訳ではないですが、事実は事実として言うべきだと思います。」
この時点でおじさんに反論しているので、教えは守っていないことになる。
そして、今後もそのつもりはないことの意思表示でもあった。
「いやいや、そう言わないと人間関係がうまくいかないよ」
「そうかもしれないですけど、それで壊れる人間関係なら、保っていく必要性は低いと思います」
議論は平行線をたどった。
傍から見れば、僕たちの関係にひびが入りそうだと思われたかもしれない。
誰であっても、〈人間同士〉として対等な立場でいたい。
それが先輩や後輩、あるいは経験や未経験などであっても。
考え方や価値観は十人十色だ。
誰でも目から鱗が落ちるような話をしてくれることはあるし、その中で気になったことは深くまで議論したい。
僕はそういうスタンスで世の中を見ている。
だからこそ、なんだかよく分からない上司と部下の作法に疑問を抱いた。
僕たちは同じ人間同士だから。
ただ、僕が生きてきた中で感じているのは、この感覚はあまり一般的ではないらしい、ということだ。
もう一歩奥深くまで話をしたい場面で「そうですよね~」とすべてを包み込む〈イエス〉を発せられたとき、少し寂しくなってしまう。
もちろん、人の意見を否定しない優しく褒め上手な人が多いのも事実だ。
ただ、僕は別に自分の言うことに同意してほしい訳ではないから。
あなたの腹の底からの言葉が聞きたいだけなのだ。
ROLAND改め、ROLAND様も言っている改め、仰るように、本音というのはうれしい。
僕としては、その方が褒められるよりも、もっとうれしい気持ちになる。
そして、その結果での〈イエス〉だとしたら、それ以上にうれしいことはない。
緩急のない物語に魅かれがたいように、人間には個性やムラがあるから魅力を感じるし、ときにはずっと一緒にいたくなるような感情を抱く。
普段はしっかりしてるけど、お酒が入って甘えたりされると、「ああ、この人もけっこう人間臭いとこあるんだな」と安心したりするようなものだ。
「いや、ギャップ萌えみたいなものには一理あるとは思うんですけど、こういう解釈もできると思うんだよね」
この僕の考えに対してそう言ってもらって構わない。
いや、むしろそう言ってほしいのかもしれない。
お互いの意見をすり合わせて、想像もしなかったような学びが得られることが本当にうれしいことだから。
「来月、〇〇と一緒に東京行くんだけど来る?」
「あ、行きましょ。ちょうど東京行きたかったんですよね」
僕とおじさんは仲が良い。
前日に言い合いをしていても、次の日には二人とも何事もなかったようにケロッとしている。
〈あれはあれ、これはこれ〉
周りの人から見れば、危ういバランスの上に成り立った関係に見えるかもしれない。
だけど僕たちは、〈ノー〉の中にも信頼関係を築いている。
いや、〈ノー〉の中だからこそ、かもしれない。
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