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敗戦と半島分断とウクライナ


◎太平洋戦争の日本敗戦は、ロシアのウクライナ侵攻に影を落としている?

 学生時代、韓国の大学生と対話した時、こんな質問を受けた。「日本の侵略が南北分断を招いたことをどう思いますか?」と。
 一瞬何を言っているのか分からなかったが、要は日韓併合の36年が、日本の敗戦により終結し祖国は解放された。そこへ米ソの代理戦争が朝鮮半島で勃発、半島は北朝鮮と韓国に分断され今に至る。韓国のおかげで日本の共産化は免れた。これをどう考えているかという問いであった。
 確かに日本は、アジアを欧米列強から守るためとの名目で半島や大陸に進出し、各民族の解放と独立に寄与したという独善に筆者は全く賛同できない。天皇を利用して軍部政府が暴走し、300万の尊い国民の命が失われ、原爆の惨禍を招いたこと、数千万のアジア諸国民に多大な人的被害と国土崩壊を与えた事実。これを単なる先代の過ちとして目をそらすことは出来ない。

融和から対立、加速する分断の固定化

 2019年に米トランプ前大統領を交えて、板門店での北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記と韓国ムン・ジェイン(文在寅)前大統領との歴史的対談から5年余り。韓国では保守系のユン・ソンヨル(尹錫悦)大統領が就任したことに伴い、北朝鮮は融和から一転、態度を硬化させ従来の南朝鮮という呼称を改め、憲法まで改正し「大韓民国は第一の敵国」として制定、分断の固定化を急いでいる
 この背景には様々な要因があるが、従来からの米国との駆け引き、特に大統領選挙後を睨んだ牽制がある。更には中国やロシアとの同盟関係を強調し、疲弊する国内経済打開のため、或いは核開発を推し進めるため、交渉を有利に持ち込もうという意図があるだろう。

南北スピーカー騒音合戦

 そして何よりも、キム・ジョンウン自身の独裁体制維持のためには、事実上の先進国となった韓国とのあらゆる格差が、北朝鮮国民に知られてはならないと情報統制に躍起となっている焦りが伺える。と同時に、先月の集中豪雨で鴨緑江の氾濫で大水害を被った慈江(チャガン)道へ、キム総書記が赴きゴムボートに乗ったり、避難テントを回ったりと被災者を見舞う様子が全国放映された。慈悲深い指導者像を伝える様子が垣間見える。
 北朝鮮が今いちばん神経を尖らせているのは、軍事境界線に再設置された巨大スピーカーから流れる韓国からの「対北放送」だ。韓国は最前線の北朝鮮兵士や周辺住民に対して、金正恩体制批判のみならず、韓国の経済発展(例えばサムスンがスマホ市場で世界一)や豊かな生活等のニュースやKPOPそのものを流して揺さぶりをかけている。
 実際に脱北した元北朝鮮国民の男性は、その影響が大きかったと語り、一例として毎日流れる天気予報の精度に驚き、脱北を決意したというコメントが印象的だった。ある脱北者は、北朝鮮が民心を繋ぎ止めるために恐れるのは、情報であり大衆文化であり、その影響力は核兵器を凌駕するとも語っていた。
 対する北朝鮮側はゴミ風船で対応し、南側へ投下するのがやっとで、対北放送をやめれば風船投下をやめると交渉条件を提示している。

 当然、韓国はこれに応じるはずもなく、対北放送は軍事境界線全域に拡大し、以北約20kmに韓国の現状を伝え、兵士と住民への揺さぶりが今日も続いている。
 心理戦が続く軍事境界線、最近では北朝鮮側が奇怪な内容意味不明の大音量を流して対抗措置をとっているが、それは韓国側の対北放送を自国民に聞かせないためという。一方で、その騒音は軍事境界線以南の韓国住民をも悩ませ、夜も眠れない銃声なき拡声器戦争だとBBCは伝えている。


ロシア派兵された北朝鮮軍兵士へのメッセージ


 日本でも報道されているように最近、北朝鮮軍がロシアへ派兵されウクライナとの激戦地クルクス地方へ送られている模様。更には精鋭の「暴風軍団」が派兵され、その数は計約12,000名とも言われている。この狙いは、北朝鮮が外貨獲得と共にロシアの軍事技術移転を期待していると伝えられている。
 なりふり構わぬキム・ジョンウン政権に対して、ウクライナ側は、我が国への交戦には相応の対応を取るが、他国で無為に死ぬことをやめ、投降者には温かい食事と平穏な生活環境を提供するとのSNS動画を朝鮮語で呼びかける構えだ。さらに韓国側も、ウクライナ前線に対北放送同様スピーカーを設置し、兵士の動揺を試そうとする動きがある。

 韓国当局者の分析によると、送り出した兵士の父母は万歳を叫びながら、嗚咽し心の中でキム・ジョンウンを恨んでいるという。更には、ウクライナのSNS作戦や韓国のスピーカー輸出作戦が奏功し、逆に派兵北朝鮮軍兵士が雪崩を打って投降したならば、キム体制崩壊に大きな一撃となると反作用を期待している。
 確かに今までは仮想敵に戦うぞと威勢の良かった北朝鮮兵士が、言葉もわからない離れた遠い異国でリアルに生死の帰路に立つ心境は極限に達し、果たして忠誠をどこまで誓えるだろうか?

 日本の進路が決まる日、最寄りのアジアで同一民族2カ国が分岐点に立っている。

(以下随時追記)


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