石
お父さんと、川に行ったことがある。
河原には、たくさんの石ころが、あった。
その中の、ひとつを、わたしは、手に取った。
卵より少し小さくて、平たいかたち。
ひやりと冷たくて、つるりと気持ちがいい。
にぎると、硬くて、ちょっぴり重い。
白っぽい、はいいろ。
下は、少ししめってる。
上は、お日さまのねつで、あたたかい。
それから、川のにおいがする。
「あなたは、いつから、ここにいたの?」
「いままで、あなたを手に取った人間は、いましたか?」
石は、わたしが生まれる、ずっとまえから、ここにいて、人間と話をするのは、初めてのようだった。
石よ、石。わたしの石、わたしが出会った、石。
わたしは、その石を、持ち帰ろうかとおもったけれど、やめた。
そして、しずかに、もとの河原にもどした。
お父さんのところにもどって、ふりかえったとき、もう、あの石がどこにいるのか、わたしには、見分けることはできなかった。
けれど、石は、そこにある。
わたしは、たしかに、出会ったのだから。
わたしは、いま、ここで、ひとり、本を見ている。
そして、おなじ、いま、このとき、この地球のどこかに、あの石は、あるんだ。
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