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【詩の森】606 不本意な居場所

不本意な居場所
 
世の中の理不尽さに
押しつぶされそうになって
何かの拍子に
ふいに
泣き出したくなるようなときが
君にはないだろうか
もし君もそうなら
僕はちょっと嬉しい
 
僕はあるとき
近所の小貝川の土手から
一羽の鳰を見ていた
むぐっちょとも呼ばれるその水鳥は
潜水が上手だ
小さな水輪を立てて潜ったかと思うと
しばらくして思わぬ場所に
浮かんで来る
 
僕はそれを見ていて
なんだか無性に寂しくなった
鳰見ていたきとき寂しきとき―――
そう詠んだ僕の背後に
夕闇が迫っていた
人はみな夜には自分の居場所に帰って行く
しかしそこは誰にとっても
幸せな居場所だろうか
 
原発事故によって
ふるさとを追われバラバラに暮らす人々
そこは不本意な居場所でしかないだろう
核兵器保有の野望をもつこの国にとって
原発は国民より大事な原発様である
それゆえ原発様のために
人間のほうが避難計画をつくるという
本末転倒である
 
福島第一原発事故から13年
日本政府は被曝基準を20倍も緩くして
避難者を帰還させている
チェルノブイリ原発事故から38年
かの国では周囲30km圏内は
いまでも立ち入り禁止区域である
この国の人々の命は
未だに鴻毛よりも軽いのだろうか
 
2024.3.3
 

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