おいでよ変な森!な優しい気持ちになれるフワフワファンタジーを読んだ話(『今日も絵に描いた餅が美味い』読んだ!)

描かなきゃいけない。僕は、そのために生きている。
『今日も絵に描いた餅が美味い』もちもち物質

絵に描いたものが実体化する能力。夢がある能力である。私が持ってもクリーチャーを生成するだけのような気もするが、それはそれとして一度使ってみたい能力だ。さて、この小説はそんな能力を持った少年の話である。

 絵を描くことが好きなトウゴは、両親から許されていなくても、画材を捨てられても、こっそり絵を描き続けていた。そんなある日、彼は異世界へと来てしまう。ご飯もない。水もない。帰り方もわからない。それでも彼は絵を描いた。すると、絵が実体化! その能力を使って彼は変わった森の中で暮らし始める。一角獣や天馬と仲良くなったり、精霊に間違われたり、鳥にさらわれたり(!)絶滅したドラゴンを復活させたり! お絵描き大好き少年による異世界ふわふわ成長譚、それが『今日も絵に描いた餅が美味い』だ。

 読むとにこにこしてしまうような、優しくてかわいらしい世界観と、好きなものを好きでいること、それを周囲に認めてもらうことの楽しさ、難しさ、に正面から悩む主人公のまっすぐさがとてもまぶしい作品だ。現実も、異世界も優しいばかりではないけれど、自分の大切なものを守りながら生きていこうとする主人公を応援したくなる。ついでにあんまりにも楽しそうに絵を描いているものだから、絵が描きたくなる。

 この作品の魅力の一つがふわふわ主人公の一人称であることだ。

〈空腹は最高のスパイスってよく言うけれど、それは食品があるからこそスパイスが生きるのであって、スパイスだけあってもお腹の足しになってくれないんだよ。単なる刺激物でしかない〉
〈たとえ死ぬとしても描く。描けなくなるんだったら死んでやる。けれど……うん。できるだけたくさん、描きたいから……。気を付けます。〉

といった具合に、思わず微笑んでしまうような文章がそこここにある。章を追って、話が進むと親友が出来てなんだか気安い感情を吐露したりしていて……一人称からも彼の絵に対する思いや成長が感じられて、なおかつかわいいので読んでいて楽しい。
 
メモ:ウェブ版では完結済み。都会のお姉さまが自然に触れて困惑する、とか、戦うしか能のない騎士がおかん化する、とか、つんつん女子とふわふわ男子、とか、托卵系主人公、とか、微妙にコミュニケーションが取れない人外、とか、有能な人のネーミングセンスがひどい、とかに心当たりがある方はぜひ。

 
『今日も絵に描いた餅が美味い』もちもち物質 TOブックス 令和三年 978-4-86699365-2  

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