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言葉にできない悩み


私にはずっと言語化できないことがあります。

1年ほど前、わが家の玄関先に飛んできた葉。

朝の散歩に出かけようと、玄関の扉を開けた時でした。

あ、……。

その不思議な秋の模様と存在感に、私は感動していました。

この葉がどんなに面白くてステキか……。私はとなりの夫に伝えようとしましたが、うまく言葉になりません。夫にはこの葉が見えません。

紅葉した葉、まだら模様、ツヤツヤしてる、黄色に緑とオレンジ、ツノガエル ヤドクガエル、錦繍、宮本輝、螺鈿、玉手箱……。

私の口から出てきた言葉はとりとめもなく、「何を言っているのかわからないよね……」と、ずっとモヤモヤしながら一緒に散歩に行き、黙ったままこの葉がある玄関に帰ってきました。

秋は大好きな季節。色が混ざり合って賑やかで、空は凛として遥か。
秋を言葉にしようとすると、この葉の連想ゲームのように実物からどんどん離れてしまいます。

散歩から戻り、もう一度葉を見てやっと夫に言えた言葉は、「お隣の庭から柿の葉が飛んできたよ」。間違いないのだけど、もっとステキな表現で感動を伝えたかったと胸がチクチクしました。

あなたなら、この葉をどう伝えますか? 




朝、犬の散歩をするのが夫と私の日課です。

夫はロービジョンなので、私は一緒に歩く時、見えるものを実況中継しながら歩きます。

慣れた道は足元の案内はそこそこに、季節を感じるようなものを見つけては1人でしゃべっています。ただ、犬連れで歩く時は流れる景色が速すぎて、言葉にするのが間に合いません。特に秋は。

言語化の瞬発力がないから、出てくるのはただの単語や独り言ばかりです。できることはひたすらに、犬の表情や仕草から、犬語を代弁しています。

夫が私の独り言を聴くことについて、本当のところはどう思っているのか聞いたことはありません。

でも、自分がもし、モヤがかかったように境目もあやふやな中を歩いていたら、きっと周りの状況が知りたい。

だからいつも勝手にしゃべっています。




さて、あの葉。

秋を凝縮したような色彩にとても感動して、伝えたかったのにうまく伝えられなかったあの葉。

子どもの頃から言語化が苦手でした。頭の中の世界はとてもカラフルで感覚的。ただこれを言葉にできなくていつも悔しい想いをしていました。

言葉にしようとすると、頭の真ん中にポッカリ深い穴が現れるんです。

言葉が出てこない。暗い穴があるのがわかる。だっていつもこれが邪魔しているって知っている。ずっと戦っている。ピッタリの言葉が見つからない。

頭の中で色々なものが縦横無尽に絡まり合っているけれど、繋がらない。

繋がらないのがデフォルト。繋がるとすごくうれしいし感動する。

だから私は、何かと何かを繋げるのが好きで、繋がることに喜びを感じます。




この葉に出会ってもうすぐ1年。

あの時言えなかったモヤモヤした気持ち、感動を伝えられなかった悔しい気持ち。子どもの頃からの伝えられない切なさを思い出して、胸が熱くなります。

そんなに?って大袈裟に聞こえるでしょうか。

この葉は、私がずっと言葉で表現することを渇望していたんだと気づかせてくれました。

1年経って、諦めずに言語化に取り組んでいます。いいえ、本当は言葉を話し始めてからずっと挑戦している気がします。


もっとうまく、感動を言葉にできるようになったら、私は夫に季節を伝えられるし、私が気づく世界の素晴らしさを伝えられるでしょう。


もっとうまく、伝わる言葉を伝えられるようになったら……。
見えるとか見えないとか、見ているとか見ていないとか関係なく、必要な人に、季節や感覚、感動を言葉で届けられる。私はそうなりたいです。


あなたなら、この葉をどう伝えますか?

正解はないけど、新しい表現を見つけられたらうれしい。





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