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心底惚れるって、その人だけが例外になっちゃうってことなんですね。映画「窮鼠はチーズの夢を見る」
映画「窮鼠はチーズの夢を見る」。
もう9月には公開されていた作品だったが家のそばの映画館にやっと来た。やっとなのに気がついたら2週間ぐらいたってて終わってしまうところだったから慌てて観に行った。
この映画の原作を読んでいない。関ジャ二∞の大倉忠義くんが主演していて、そのポスターの顔がとても素敵だった、たったそれだけで行くことにした。
(今回アドベントカレンダーのために加筆修正しました)
観たら「流され侍」と言われる女好きのクズ男と、このクズを巡って嫉妬にかられてる重いオトコの話だった。
と、これはわざと悪く書いていて実はまた見たいと思わせる作品だった。
この作品で大倉くんはかっこいい。ひたすらかっこいい。でもひたすらに優しくてクズなんだ。(以下ストーリー書いているので見たくないかたは読まないで下さいね)
しかし大倉くんはだれが隣に立っても絵になる。妻の女性、仕事先のキャリアウーマン風の女性、仕事の部下の女性、同性の恋人。とにかくたたずまいと目の演技が凄い。スクリーンに寄りの場面が続き、少し年齢的に枯れてきてそれが大倉くんの色気に繋がっているのだろう。
大倉くん演じる大伴恭一の中身は何もない。何もないから相手の言われるまま相手の望むことを与えようとする。でもその場だけを上手く泳ぐことしか出来なくて、うわつらの優しい関係の中で過す。
妻に好きなようにさせているし、信じていたという。だけど帰宅し
「ただいま」といいながらシャワー中の妻にドアを開け声を掛けると妻はその場にしゃがみ込む。
この場面でふたりは大分前からからだの関係はないのだろうと予測がつく。
それでも妻との関係を壊さないようにし、誕生日にはプレゼントを買いに付き合い、店を予約し外食もする。
その一方で奥さんがいてもいいからと言われて仕事先の女性と不倫を続ける。
妻が探偵事務所を使って大伴が不倫していないかと調べさせるのだがそこで調べていたのが大学時代の後輩成田凌演じる今ケ瀬渉だった。
今ケ瀬渉は大学のサークルに入った時にひとめぼれしてから7年もの間ずっと大伴を好きでいた。
「流され侍」大伴の性格を分かっているから、不倫現場の写真をネタに関係を迫る。
妻との関係を続けるため仕方なく一度だけ言うことを聞くことになったのだが、結局不倫を清算しようにも「流され侍」の大伴にはできず、妻に調査続行を命じられた今ケ瀬に再度ゆすられることになる。
ここでも流されてしまう訳だが、結局妻には
「そうやっていつも私がなにかいうのを待ってるのが、もう気持ち悪いの」
と泣かれ離婚することになる。妻には一年前から付き合っている相手がいた。そんなことも気がつかないくらい妻にも無関心だと物語っている。
晴れてひとりぐらしを始めたところに押しかけ女房のように今ケ瀬が転がり込んでくる。もちろん「流され侍」はそのまま受け入れる。
結局大伴という男は究極の優しさと虚無感を併せ持っている。
だれのことも大伴の中にはないのだろう。だから誰もが彼を好きになり側にいたいと思うのかもしれない。届かないから自分のものにしたくなる。
今ケ瀬との生活は大伴にとって快適で楽しいものとして描かれている一方、夜中に目ざめると自分のスマホのチェックを淡々とする今ケ瀬がいる。
ここでそんなに疑うのか?と声を上げる訳でもなく黙ってみている大伴に自分でもウザい奴だと思われていると思う今ケ瀬。
好きになったらどうにも出来ない粘着気質。
見てているなぁこういうヤツ、と思う。
今ケ瀬は「分はわきまえているつもりです」とはじめは言っていたはずなのだが一緒にいてもいつ裏切られるかという嫉妬心で苦しくなっていく。
今ケ瀬の中では、この人はいつか女性の元に去ってしまう存在だと思っている。
彼らの関係は今ケ瀬の一方的な片想いに大伴が付き合っているという関係で大伴の方は男同士のセックスは受け入れていない。
(まぁ奉仕はされるわけだけど。)
この後大伴の大学時代の元カノと三人でのシーンでどっちを選ぶか迫られた時
「俺はお前を選ぶわけにはいかないよ」と言うセリフから分かる。
だがそう言い残して席を立つ大伴は元カノとベットに入るが出来なくなってしまう。
家では大伴の帰りを悶々としながら待つ今ケ瀬が観ている映画はジャン・コクトーの「オルフェ」。
こんなところで私が好きなオールドムービーが使われているとは!!と思うが、ジャン・コクトーと主演のジャン・マレーも恋人同士であったなぁと思う。このなかで流れる字幕とふたりの場面がシンクロしているのも凄い。
今までの楽しい中学生みたいな同居生活を壊す勢いで今ヶ瀬が
「俺と寝て下さい。これ拒まれたら、もう二度と、触らない」
と言う。この時初めて大伴から今ケ瀬に対して行動を起こす。
私はここはいったいどんな気持なんだろう?とよく分からないでみていた。
ふたりの生活はとても快適で、最初はベットの横に勝手に入ってくる今ケ瀬をウザがっていた大伴だったが、いつの間にかいないと帰宅する音を聞いてわざわざ場所を空けて背中を向けて寝たふりしているシーンなどもあり、確実に大伴の中で今ケ瀬の存在は大きく特別になっていっているのだがそれ以上に感じられなかったから。
大伴恭一という男は究極な自己中男だ。
誰にでもやさしくそつがなく仕事も出来てかっこいいがその瞳は何を見ているのかわからずその表情も仮面をかぶっているようで本心が見えない。彼からは全く熱を感じない。どこか疲れて見えるところがミステリアスに見えそこが人をひきつけもする。
今ケ瀬は真逆で情熱をぶつけまくっている。本人のしゃべり方は淡々としているが、瞳が語っているしそのセリフひとつひとつの大伴に対する熱量が半端ない。
(このふたりの性格はそれぞれの部屋でも表現されている。ふたりの部屋の共通点としては誰かと一緒にいる生活感がない。だから後から大伴の部屋に付けられたカーテンについて語るシーンはカーテンだけが生活感を主張しているからでたセリフなのではなかろうか。)
あの場面で今ケ瀬の腕をつかんだ大伴は一体なぜなんだろうか?相手のことを思って流されたのか?
それは否だと思う。
自分は同性を愛することはないと思っていた最初から大伴の中で何かが変わった。
でなければ「あいつを悲しがらせることは出来ない」と言うようなセリフが元カノとのベットで「出来ない言い訳?」と言われた時に出ないだろう。
自己中男だったはずなのに事の最中に今ヶ瀬の気持ちを思いやってそうなったのだと思わせるセリフから自分の大切な存在に気が付いたのだろう。
翌朝のふたりの行動を見ていて、関係が出来てしまうと同性というのは何も隠さないのかなと思った。
男女の間では下着くらいはつけるのだろうと思うのだが、起き上がると今ヶ瀬は全裸でキッチンに立つし、「シャワー浴びてくる」と言う大伴も全裸で向かう。急にふたりが近づいたことが感じられる。
しかし折角想いは届いたというのに永い片想いの不幸体質な今ケ瀬はそれでもこころに不安を抱えていた。
喪服にファンデーションがついていることを発見して
「貴方じゃダメだ」と出ていくことになる。
これには訳があるがそんなことはもう今ヶ瀬の耳には入らないし大伴の方も言い訳をしない。相変わらず優しいが流されている。
お互い好きな気持ちがありながら今ヶ瀬が出ていく。
大伴はやっぱり自分ではダメなのだと言われたから別れ、再婚を考える。
それでも今ヶ瀬を忘れることが出来ない自分がいる。淡々と日常をこなしながらある日ゲイの集まる店に行く。
なぜここに来たのか?
唐突過ぎてよく分からなかった。周囲を見渡し突然号泣する。この涙はなんなのか?(でもこの号泣シーンが好き)
今まで感情をおもてに出してこなかった大伴が初めて大きく感情を出している。
彼は真性の同性愛者ではない。それは今ヶ瀬渉という人間を求めていたという説明なのだろうか?そして泣きながら夜の街を歩くシーンが続く。
再び日常が戻っていたある日今ヶ瀬が突然現れる。大伴が結婚することを伝えると
「邪魔はしない。月にいっぺん会ってくれるだけでいい」と言って泣くが
「お前はもういらない」と言われる。
泣いて探した相手に対してこのセリフはどんな真意があるのだろうか。
今まで嫉妬で自分ひとりのものにしておきたいと独占欲が強かった今ヶ瀬が独占出来なくてもいいからと変わったことに対して’’そんなお前じゃ嫌だ’’という意味だろうか?
ほんとうは二人とも離れられないはずなのに…。この場面でそう思った私に答えはすぐ明かされる。
結婚の準備が進み婚約者が選んだカーテンが家に届くが開けることもなく置いてある。
このなにげない状況に婚約者たまきは傷ついている。彼女には分かっている。
大伴のこころには自分がいないと言うことを。
この婚約者は大変可愛らしいし、賢く健気な人に描かれている。
女性の私からみても好感が持てる。この子と一緒になったらいい家庭が作れると思うような女性だ。
彼女はカンがいい。
家に訪れると大伴が掃除機をかけている。
何かがおかしいと感じている。
大伴は煙草を吸わないので部屋が汚れることはないだろう。そのくらい頻繁に訪れているのだろうし、彼女が来るようになってから掃除機をかけることもなくなったのかもしれない。
彼女がキッチンで食事の準備をしている時、窓の外を眺めながらうつろな顔をしている大伴が映る。
キッチンの下を見ると今ヶ瀬の灰皿が置かれ煙草といつも使っていたライターがある。
この時点でふたりがヨリを戻したことが説明されている。
この灰皿は婚約者のたまきが大伴の家に来た時
「前の彼女さんは煙草を吸うクールな人だったんですが?」
と聞いたからだ。大伴は
「この灰皿だけは置いておいてくれって言ったんだよ。こんなことしないでも忘れるわけないのに…」
聞かされた方にとってはひどいセリフだ。
大伴恭一はいつもことばのはしばしに自分が酷いセリフを言っても相手は自分を愛してくれるかということを嗅ぎ分けているような人物だ。
食事をした後泊って行かないのかというセリフにたまきは帰ると答える。
明らかな灰皿の異変に気がついたからだが、それなら洗い物もしないでいいと家からすぐ追い返す大伴は以前の「流され侍」とは少し違う。
この時すでに大伴は決めたのだろう。
バス停にたまきを送るとその足で今ヶ瀬の乗っている車の前に立つ。
「今日は泊っていかないって」
そしてふたりは部屋に帰り抱き合うのだがこの後大伴から今ヶ瀬に
「一緒に暮らさないか」と言う。
「そんな、隠れて付き合うんでいいんですよ」と今ヶ瀬は言うが
はっきりとこころが変わった大伴はもう大人だし一番自分に合う相手と一緒にいたいと思うようになったのだ。
クズだったけれど、何が一番大切か分かったのだ。たまきとはきちんと別れると言う。
しかし翌朝今ヶ瀬は姿を消す。灰皿をダストボックスに捨てて。
今ヶ瀬は粘着質で不幸体質なので自分が好きな人とずっと幸せに暮らせる自信がない。幸せが怖くて逃げだしてしまう。
たまきが以前
「相手を好きになり過ぎると自分のかたちが保てなくなって壊れてしまう」
と言っていたがこれ以上深入りすると自分がもっと傷つくと思い逃げ出したのだろう。
逃げ出してもまた元にもどるだろうことは想像されるシーンが最後にあるが。
さて「流され侍」がもう流されなくなったのはもう一度たまきと会い
「もう君とは会わない」
とはっきり告げる。
今までは誰かを傷つけることを嫌がった。
悪い人、自分のせいという事を嫌った。
だけど恋愛は三角関係に陥ってどちらかを取らなければならい時必ず傷つける方が出る。
それを厭わなくなった。ずるずるとした関係を止める覚悟をしている。
相手は戻って来たがまたいなくなったというのを聞いてたまきは
「(戻るまで)そばにいちゃだめですか?」と言う。優しいクズ男にどうもみんな弱い。
しかし今回は、
「(今ヶ瀬が戻るのを)待ちたいんだよ」
と言い去っていく。
本当に相手のことを考えるなら、きちんと振ることで相手が次に行くことを促さないとならない。
その時自分は悪者になる。
それが最後の相手へのやさしさなのだ。
それはまた自分をずっと待っていた者に対しての配慮でもある。
ここにきてやっと大伴は出来るようになった。
その後ひとりになった部屋でいつも今ヶ瀬が膝を抱えて座って自分のことを考えていた椅子に座り、にっこりとほほ笑む大伴が映る。(この時の白いシャツがまっさらな気持ちを表しているようでいい)
果たして彼らのこれからはどうなるのだろうか。
少なくとも大伴恭一はしっかりとした自分を持った。
今ケ瀬渉がたった一人のかけがえない存在だと気がついた時、能面の様な表情をした空っぽな大伴恭一は変わった。
この映画はマイノリティの話を前面に出しながら根底に流れるのはひとりの人間の成長物語だったのではないだろうか。
因みに私はこの映画で大倉くんの演技を知った。演技なのか?と思うくらい自然だった。
多分本人も同じように自然とモテるんだろうな。アイドルだからだけじゃなくて大人の男の色っぽさがある。
タイトルにある言葉は劇中今ヶ瀬が言ったセリフ。
世の中異性愛がメインだと思われているから大伴は今ヶ瀬を選ぶわけにいかないと考えてしまう。
言葉で(婚約者の言葉とかも)無意識に人は縛られていると言うことも描かれているのだろう。
私達は無意識にマイノリティを差別している。考えさせられる場面が点在した。
R15なので濡れ場が多いのがダメな方は見ない方がいいかもしれない。
濡れ場には音楽が入らないので息使いやキスする音などが入り生々しく感じるかもしれない。
アイドルと人気俳優のラブストーリーだと言う色眼鏡だけで観るとなんか違うなと感じる。
キレイだとか萌えるとかそんなことだけで観てはこの映画に携わった人たちが可愛そうだ。
映画の本質はそれではないのだと思うので
そちらにばかりに気持ちが向き過ぎると
説明があまりされてない分
考えないとならないから
映画に置いてかれてしまう。
だから何度か観ないとならない作品なのだ。
これもとても良かった作品。若き日のディーン・フジオカ主演。(同性愛作品ではない。初恋の甘酸っぱい作品)
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