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Turtle's letter/1万7千年の時を超えて響く音とは
Turtle’s letter では、様々な人の視点、思考の奥にある個人の物語や語りに耳を傾け、共有していくプロジェクトです。社会をより遠近感を持って捉えるきっかけとなるようなエピソードをキュレートしてお届けしています。
Today’s Quote
博物館のコレクションに80年以上も保管されていた貝殻が最近になり楽器であったことが判明した。1万7千年前の楽器から聞こえる音はどのようなものだろうか。この出来事を詳しく取り上げたNYtimesの記事を紹介したいと思う。
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1931年、南フランスの研究者によってピレネー山脈の麓にあるマルスーラス洞窟の入り口で大きな巻貝が発見された。一見すると何の変哲もないこの巻貝であり、飲用の食器として保管され、長らくの間忘れられていたが、80年以上の時を経て、2016年、洞窟の住人の暮らしを解明するのに役立つと、マルスーラ洞窟とそこに描かれた絵画を研究してきたトゥールーズ大学の考古学者キャロル・フリッツ氏がこの巻き貝殻の研究に着手した。
最新の画像技術を用いて、再分析したところ、この貝殻は角笛に変えるために、意図的に欠けさせたり、穴が開けられていたということがわかった。なお、現在も貝殻から3つの音(ド、ド♯、レ)が出るという。下のリンクから聞くことができるのでぜひ聞いてみると良いかもしれない。
用途としては、儀式の間に演奏されたり、集会を召喚するために使用されていたことが予想されているという。また、貝には洞窟の壁に見られる印と同じ赤い点で装飾されているといこともあり、洞窟の中で音を増幅させ奏でられていた可能性が高いことも指摘されている。
Dr. Fritz said it was incredible to hear Dr. Court play the conch. Its music hadn’t been heard by human ears for many millenniums, which made the experience particularly moving, she said. “It was a fantastic moment.”
何千年も前から人間の耳によって聞かれてこなかったものである巻貝の演奏を聞くのはとても信じられないことであり、感動的なものだったとフリッツ氏は述べている。"それは素晴らしい瞬間だった"と。
参考・引用:https://www.nytimes.com/2021/02/10/science/conch-shell-horn.html?referrer=masthead
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Turtle's view 🐢
私たちには知らない世界がある。それはいまだ訪れたことのない土地であったり、はたまた未来のことや過去のことでもある。
私は子どもの時、「巻貝に耳を当てると海の波の音が聞こえてくる」という話を母から聞いた。形状として巻貝の穴の先がどのようになっているのかを目で追うことができないということもあり、私は大きな巻貝に耳を傾け螺旋の先にある海の音を想像していた。
1万7千年前の音。そこから想像できる人々の暮らしを、巻貝の音色を通し解き明かしているというこのニュースには何とも言えないロマンがある。時間を超え、同じ景色は見れないけれど、同じ音を聞くことができるのだから。テクノロジーの発展や考古学のアプローチにより、想像にも及ばなかった遥か昔の時間や文化、そしてそこにあった生活が紐解かれていく。
巻貝から聞こえる素朴な音が過去、そして現在との間をつないでいるのだ。
時代が変化していく中で私たちの生活や文化はどれほど残され、また消えていくのだろうか。そしてどのような存在(上の記事では巻き貝)がわたしたちの痕跡を再び解き明かし、時間を超えたつながりを作っていくのだろうか。考えてみるだけでワクワクする。巻き貝が鍵となったのだから、 もしかしたらテクノロジーの技術によって残されたものではなく、意外と身の回りにあり自然で素朴なものなのかもしれない。
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今回はここまで。
高いビルから全体を俯瞰することも大切ですが、時に一軒一軒のドアを叩き、様々な物語と出会ってこそ気がつくことや見える光景があるのではないでしょうか。
次回以降も奥行きのある小さな物語や語りをキュレートし、考察を添えNoteで共有していきます。
また、これからフィールドワークを通し様々な土地に根付く個人の記憶を拾い集め、この場でアーカイブ、共有していけたらと計画を進めております。
お楽しみに。
ではまた来週🐢
温