都庁安倍課~土曜日はみんな一緒~
「相変わらず古藤さんは遅れているなあ。」
安部は貧乏ゆすりをしながら、盆踊りに使う広場前で皆の点呼をとっていた。
「まあまあ、主任、古藤さんは準備時間開始には現れますよ。」
ADHD吉川は場の雰囲気に気を配る。
要領がよければいいってもんじゃねえ!再び叫びたくなる阿部であった。でもまあ、今週の勤務態度はまあまあであった。
今回の祭りの目標は
「怪我なく、事故なく、そこそこ楽しく。」
ミッションの達成の為、火は極力使わない。段差を無くし、お年寄りや小さな子供の安全に配慮する。お店は整理整頓を心掛け、配置は仕掛けなどせ分かりやすさを第一とする。お祭りにつき物のテキヤは入れず、町内会のみでお店を出す。ただし例年と変化をつけるため、ゲームセンターに協力をあおり、プリクラを設置する。
「あんまりわくわくしないわねえ。」
古藤さんがぶつぶつ言いながら現れる。
「こ、古藤さん、聞こえますって。」
吉川は焦る。安部の無言の怒りが背中から伝わってくる。欝の小川は
「ごちゃごちゃしていると、気が滅入ってくるからこれぐらいがいいです。まるで僕の部屋みたいだ。何もない……。」
それはフォローになっているのだろうかと、古藤と吉川は顔を見合わせる。
「おお、吉川君、すまない、道を広げるためすこし屋台をずらしたいのだ。飛び跳ねるくらい元気な君だから頼む。古藤さんは来場者に案内を頼む。君の説明は要領を得ているから頼もしいよ。」
山田課長の指示で場の雰囲気が和み、皆準備を開始した。
お祭り中はトラブルが起きないよう、監視するので持ち場は離れられない。とはいえ、綿飴をなめている子供や、孫のシャテキを嬉しそうに看ているおじいさんが居ると、なんとなく心がなごむ。更に、例の募金集団に社会復帰の訓練として、お祭りの誘導係のバイトをさせることになった。
「大丈夫ですかねえ。」
吉川は不安そうだ。同じ配置の井上は励ます。
「大丈夫、なるようになる!」
「井上さんは気楽だなあ……。」
吉川は不安そうだ。だが段々とお祭り全体をやさしい空気が包んでいった。ゲーセンでスリルを味わっている若者も、たまにはこういうのもいいか、とのんびりした空気を感じ取り、恒例の乱闘騒ぎ(神社の階段で酔っ払いが女性に絡む、など)も今年は無かった。町内会というより子ども会のような雰囲気で、お祭りは特にトラブルもなく終わりを迎えた。
翌朝、アンケートを集計していると意外にも評判がよかった。毒のない出し物は子供や家族連れ、そして実は有暇人口の多数を占めている老人の出足を広げた。更に例の募金集団はお年よりに感謝された事に感動し、介護の道に進もうという人が数名出てきた。
「進路が決まってよかったですね。」
弱者を考慮したお祭りがいい方向にまとまったのだ。そうなのだ、どんな人でも結構使い勝手はあるのだ。
「それじゃあ、打ち上げといくか!」
阿部は威勢よく切り出す。
「でもアルコールは欝には……。」
小川がつぶやく。
「じゃあ、無印良品のレストランで食べようよ!」
古藤の提案で即決した。なんとも打ち上げにふさわしくないが、これでいいか。そういえば今日はノー残業デーだ。
さて、出るか、職場を。