たこ焼き器で米を炊く
常々思っているのだが、世の人々は炊飯について重要に考えすぎてやしないか。
やれ高級な炊飯器を使うと味が全然違うだとか、やれ土鍋が至高であるとか。かと思えば品種がどうのとか、炊き方がどうのとか、各々がこだわりを持っているようである。
私はかれこれ10年ほど炊飯器を持たずに生活しており、必要なときはフライパンやら鍋やらで適当にお米を炊いているので、ご飯を愛し崇拝する民のことはよくわからないのだが、文献を調査した結果一般家庭には10合炊きの炊飯器があるのが当然らしい。
別の文献では炊飯器を手にしたものは「生活が変わる」とまで表現されている。なおこの作品の主人公である明日ちゃんフウコは炊飯器に「ター君」と命名している。アニミズムである。
さらに調査を続けていった結果、最近の炊飯器はやたらと機能が充実しているらしい。様々な料理を作るためのノウハウも蓄積されているようで、たこ焼きを作ることができるレシピすら見つかった。
ここにきて私はある確信を得た。炊飯器でたこ焼きがつれるなら、逆もまた然りである。
こだわった米をこだわった道具で炊くのもよい。日々の主食が美味いというのはひとつの人生の喜びであろう。
だが適当なありあわせの道具で米が炊けるというのを示すことにも意義があろう。
今ここに、たこ焼き器で炊飯した記録を皆さんに共有しようと思う。
用意したるは安物のたこ焼き器。我が家に存在する調理家電は、低温調理器と湯沸かしポットと、このたこ焼き器のみである。三種の神器だ。
くぼみの容積から計算して、米と水をひとつずつ詰めていく。
せっかくなので、キノコの炊き込みご飯にしてみることにした。
余談だが、このマッシュルームと醤油だけのシンプルな炊き込みご飯が非常に美味い。意外な組み合わせに感じられるかもしれないが、癖のない香りと強い出汁。炊飯してもキノコがべちゃべちゃにならず、適度に歯触りが残り、これだけで食べてもよし、おかずと共に食べてもよしの我が家の定番メニューだ。
もはや、これを作るためだけに米を買っている。
蓋をして炊飯。10分かけて沸騰させ、沸いたら弱火にして10分。火を止めてさらに10分蒸らすというのが我が家の炊き方だ。
炊けた。なんか普通に炊けた。
綺麗にたこ焼きの形になっている。たこ焼き型にへばりついてぐちゃぐちゃになってしまうことも懸念していたのだが、気持ちいいくらいするりと取れてくれた。
味は鍋で炊いたときと変わらない。食感も悪くはなく、美味しく食べられる。「ご飯が丸い」というだけでいつもと違う感じがするし、口に放り込める楽しさをくわえると、美味しさも1.2倍くらいになる。
とはいえ、たこ焼き器での炊飯は万人には勧められない。準備と片づけが面倒くさいばかりで、楽しい以外のメリットは皆無。
試す場合は自己責任でお願いします。