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毬衣
2020年12月22日 15:44
恋をした。今日もその人に会いに行く。 話したことはない、が、目が合うことはある。いつも微笑んでいる。 私は耳を研ぎ澄ます。あの人から音が聞こえるわけではない。聞こえるのは雑踏である。雑音だ。ふたりだけの音になればいいのに、うるさい。 あの人はひとりだ。いつもひとりだ。紅茶を飲んでいる。必要というわけではない。なくても困らないものを、当たり前に飲んでいる。私は、のどが渇いている。 あの人には
2020年12月21日 19:29
図書館の隅の方。誰も座らない。そんな席がある。近くの窓から射す光には包まれず、ひっそりと佇んでいる。 ひとりが、その席を見つめている。寒そうな席だと思った。ゆっくりと歩きだす。もうその人はその席のことを忘れている。 しばらく経った。人が来た。地味な服を着ている。黒無地の靴下をはいている。5本の指には赤いネイルが塗られている。プラスチックを爪に塗る、この無意味さに笑いながら塗った。近くの本をと