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【読書メモ】『屈辱と歓喜と真実と―“報道されなかった”王ジャパン121日間の裏舞台』(著:石田雄太)

出典:大谷翔平選手のインスタグラムより(2024年2月1日頃)

なんというか、事実無根なことを真正面から一刀両断、「一平さん夫妻はこの様な事実は一切ありません」「事実とは異なる報道が多数ありますので皆さまご注意ください」とは、相当に逆鱗に触れていると思いますが、、ますます日本のオールドメディアには出てくれなくなるのではないかなぁ、まぁ、自業自得でしょうけど。

でもまぁ、本人の言葉できちんと発信ができるのはここ10年くらいでの大きな変化だよなぁ、ともあらためて。そんな中ふと思い出したのが『屈辱と歓喜と真実と―“報道されなかった”王ジャパン121日間の裏舞台』との一冊。

2006年の春、当時生後一ヶ月くらいの息子を膝に抱えながら生中継で観戦した、第1回 World Baseball Classic(WBC)・決勝戦、キューバ vs 日本。本当に面白い試合で、始終ドキドキしていた覚えがあります、文字通り手に汗を握りながら。

先手こそ日本がとれたものの、後半のキューバのギアの上がりようが凄かったです、、投打問わず。その時の解説者・野村さんの「キューバ相手にセーフティリードは無い」との言葉は今でも思い出せます。

特に鮮明に思い出せるものとして、川崎選手とキューバのキャッチャー・ペスタノ選手のクロスプレーがあります。文字通りの鉄壁に侵入経路を塞ぐペスタノ選手と、その合間をつこうと右手でかいくぐるようにホームベースに指先を伸ばす川崎選手が交叉。見た瞬間はアウトか!と思いましたが、(横飛びで確認していた)主審の判定はセーフ、その後のリプレイ(ESPNの国際映像だったかな)で確認すると、確かにセーフでした。

大会当時、それまでの恣意的な誤審も物議をかもしていましたが、この判定に関しての質の高さはさすがベースボールの国とも思いました。最後の最後で心地の良い試合を観れたのが嬉しい記憶になっている第1回WBCでの「日本代表」の裏話を集めた内容となっています。

「屈辱」と言っているのは、韓国に連敗したこと、ボブ・デイビッドソンの誤審に振り回されたことでしょうか。「歓喜」と言っているのは、崖っぷちから不死鳥のように復活し、見事に優勝できたことでしょうか。では「真実」とは、、何を伝えようとしているのでしょうか。

2006年の第1回大会、結果としては「初代王者」との最高の形で幕を閉じましたが、そこに至る道は決して楽ではありませんでした。

・続出する出場辞退者、決まらない代表メンバー
・選手間の「温度差」、危機感の無いコーチ陣
・盛り上がらない国内一次予選リーグ
・アメリカを初代王者にとの予定調和的な運営方針 etc...

冒頭は2007年1月、イチロー選手と王監督の再会の場面より始まります、六本木の鮨屋にての。そこから徐々に「屈辱」と「歓喜」をない交ぜにしながら螺旋のように、当時の話が展開されていきます。

参加に至るまでの紆余曲折、韓国相手の二度の敗戦を機に徐々に「代表」としてまとまっていくチーム、メンバー。そして、戦いの場をアメリカ本土に移してからのヒリヒリとするような緊張感、絶望、そして歓喜。

時には過去の五輪代表のエピソードも交えつつ、その頃から時限爆弾のように潜む問題点も浮き彫りにしながら、同じく五輪時代の「日本代表」から連綿と引き継がれてきている「想い」もまた、見出すかのごとく。

そこには、著者・石田さんの「野球」に、そして「ベースボール」に対する溢れんばかりの愛情が感じられます。ふと、鮨屋での王監督や王監督に懐いているイチロー選手の様子が綴られているのも、心地よかったりも。

そんな流れにハマりながら読み進めていくと、この書でラストシーンとなっている「風のイタズラ」が、日の丸に包まれながらの二人の交流が、幻想的なまでに美しいと感じます。

なお帯に刻まれている「日の丸の誇り、重みが、ここにある」とは、発売当時(2007年)に日本代表監督であった星野仙一さんの言葉です。本文の中でも幾度となく取り上げられている「温度差」を、意識してのことなのでしょうか。そして星野さんはこうも仰っています、「選手たちに頭を下げてまで出てもらわなくてけっこうだ」と、「野球界のために日の丸を背負って、子供たちに夢を与えるんだという選手たちに集まってもらう」と。

アイツら、みんな(野球に関しては)考えてない。でも、まとまってきたらホントに強い。向こうのチームに合わせないで、自分たちの野球をしっかりやろう。向こうがたいしたことなくても、オレたちはたいしたことあるんだ。グラウンドに入った瞬間、アイツらを見て『すげえな』って思ったら勝てないよ。別に力の差はないんだから、見下ろして行け。今日を、歴史的な日にしよう(イチロー選手、アメリカ戦前:2006年3月12日)

出典:『屈辱と歓喜と真実と―“報道されなかった”王ジャパン121日間の裏舞台』

憧れるのを、やめましょう。ファーストにゴールドシュミットがいたりとか、センターみたらマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたりとか。野球やっていれば誰しもが聞いたことがあるような選手たちがいると思うんですけど、今日一日だけは、やっぱ憧れてしまったら超えられないんで。今日、超えるために、トップになるために来たんで。今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。さあ、行こう!(大谷翔平選手、アメリカ戦前:2023年3月22日)

出典:「野球日本代表 侍ジャパン 公式(2023年3月22日ポスト)」

そしてそれは、2023年の第5回 World Baseball Classicにて、見事に結実されました、これが「野球(ベースボール)」かとの、震えるくらいの醍醐味と共に。そしてまた、それぞれのチームの顔ともいうべきイチロー選手、大谷翔平選手お二人の言葉が、時代を超えても驚くほどに似ているのには、一流選手の心意気とはこうかと、こちらもまた身震いするくらいの興奮とともに。

ちなみに2006年生まれの息子(野球・サッカーは小学校の体験会だけでフェードアウト)、ミニバスから始まり中高とバスケ漬けの日々を過ごしていましたが、2023年のWBCは日本ラウンドから決勝ラウンドもずっと、注目して楽しんでいたようです、さすがに2006年当時のことは覚えていないでしょうけど、感慨深いものです、、閑話休題。

121日間、長いような短いような、そんな2006年の路程を、熱風に包れて浮遊する一冊、、そのうち2023年第5回大会の内実も石田さんの筆でまとめられたのが読みたいなぁ、とか思いながら、『野球翔年』の続編に期待ですかね、もちろん、野球(ベースボール)の今以上の発展も!

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