【読書メモ】『恩讐の彼方に・忠直卿行状記 他八篇』(著:菊池寛)
「青の洞門」とのフレーズで思い出したのが『恩讐の彼方に』の一編、大分県で語り継がれる青の洞門伝説をベースとしたノベライズで、実際に名称は使われておらず、登場人物の名前も異なっています。
成り行きで“主殺し”の罪状を負った、了海(市九郎)。そのまま逐電し、追いはぎにまで身をやつします。罪を重ねていた最中、ふとしたことで自身と向き合った彼は、仏門に帰依し、自身の罪と向き合いながら全国行脚に。
そんな彼が、ふと立ち寄った町の難所(岩壁)を見て、湧き上がるように“大誓願”を建てたのが、洞門を掘ること。といっても、掘削機器も何もない江戸時代の半ば、文字通りに槌一本で事業を始めます、、周囲には狂人扱いされながら。
1年2年で終わるような事業でもなく、結果から言うと、20年以上の月日が流れます。その20年が過ぎての終盤、大願成就も間近かと思われたその時に、かつて殺害し逐電した主人の息子、“実之助”があらわれます。
親の敵として了海を追い求めていた実之助、彼もまた大願を果たすために旅を続けていたのですが、、了海の大願に取り組む様子を見た実之助は、さて。
話としてはそんなに長くなく、さらっと読めます。
実際の逸話をベースに“人の心”を織り込みながら、そのうつろいも映し出しながら、、罪を消すことはできないが、赦すことはできる。“恩讐の彼方に”とは、上手い題名だとあらためて。
戦前の教科書には“青の洞門”が掲載されていたようですが、最近の教科書にはないのかな、なんて感じた一冊でした。