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【読書メモ】『恩讐の彼方に・忠直卿行状記 他八篇』(著:菊池寛)

大分県中津市本耶馬渓町の景勝地「青の洞門」から山国川を挟んだ対岸で、青いネモフィラの花が田を一面に彩っている。

出典「「青の洞門」近くに青いネモフィラ80万本…大分県中津市・本耶馬渓町」
(『読売新聞』2024年4月11日)

「青の洞門」とのフレーズで思い出したのが『恩讐の彼方に』の一編、大分県で語り継がれる青の洞門伝説をベースとしたノベライズで、実際に名称は使われておらず、登場人物の名前も異なっています。

成り行きで“主殺し”の罪状を負った、了海(市九郎)。そのまま逐電し、追いはぎにまで身をやつします。罪を重ねていた最中、ふとしたことで自身と向き合った彼は、仏門に帰依し、自身の罪と向き合いながら全国行脚に。

そんな彼が、ふと立ち寄った町の難所(岩壁)を見て、湧き上がるように“大誓願”を建てたのが、洞門を掘ること。といっても、掘削機器も何もない江戸時代の半ば、文字通りに槌一本で事業を始めます、、周囲には狂人扱いされながら。

1年2年で終わるような事業でもなく、結果から言うと、20年以上の月日が流れます。その20年が過ぎての終盤、大願成就も間近かと思われたその時に、かつて殺害し逐電した主人の息子、“実之助”があらわれます。

親の敵として了海を追い求めていた実之助、彼もまた大願を果たすために旅を続けていたのですが、、了海の大願に取り組む様子を見た実之助は、さて。

話としてはそんなに長くなく、さらっと読めます。

実際の逸話をベースに“人の心”を織り込みながら、そのうつろいも映し出しながら、、罪を消すことはできないが、赦すことはできる。“恩讐の彼方に”とは、上手い題名だとあらためて。

戦前の教科書には“青の洞門”が掲載されていたようですが、最近の教科書にはないのかな、なんて感じた一冊でした。

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