心も髪も軽く柔らかく
唐突に、変えたいなと思った。休日の気持ちの良い朝、歯を磨いて、顔を洗って、髪の毛を梳いているとき。真っ黒な自分の髪が、急につまらなく思えた。せめてもの、と思ってかけたゆるめのパーマも、なんだかしおれて見えた。
生まれてこのかた一度も染めたことがなくて、かといって黒髪を特別気に入っているわけでもなくて。大学に入るときとか、就職するときとか、染めるタイミングはあったんだろうけれどそれを全部逃したら、もういいや、となってしまった。
でも、今がまさにそのタイミングな気がした。周りからなんで染めないの?なんて聞かれていた頃は、頑なに一生黒髪が良い、なんて言っていたくせに、人間ころっと気が変わるものだなあと思う。
最近の私は、前より積極的になっているというか、少しでもやりたいと思ったことを行動に移せるようになってきた。こんな状況になってからというもの、出来ていたこととか、やりたかったことが出来なくなってしまったせいもある。あとで、あのときやっておけば良かった、なんて後悔はもうしたくないから。
ちょうど美容院に行く予定があったので、思い切って「カラーをお願いしたい」と頼んだ。店長さんはこっちが笑っちゃうくらいノリノリで、どんな髪色にしようか、と見本を見せてくれて、おすすめの色や明るさを教えてくれた。
決まったのは、ミントベージュ。髪色に疎いということもあって、全くぴんとこなかった。でも、ミント色は爽やかでかわいい色なので好きだ。私の持ち物にもミント色のものは多い。乗っているアルトラパンの色もフレンチミントだし。でもミントチョコは苦手。あれは歯磨き粉の味がするから。
何はともあれ、色も決まったし、あとは染めるだけだ。ひんやりした重い液体がべったり髪に塗られていく。どきどきしたり、うたた寝したり、ぼんやり考え事をしたりして待つ。あとは、猫がいる美容院なので丸まって寝ているところを見て和んだり(気が向くと膝に乗ってきてくれる)。
仕上げにシャンプーをして、乾かして、最後はアイロンでくるりと外はねさせておしまい。劇的な変化はないし、すごく明るくなったわけではないけれど、柔らかい印象になった。なかなか悪くない。ふんわりした格好も、カジュアルな格好も、どちらにも似合いそうで、自分にぴったりな色だ。
黒髪は嫌いじゃなかったけれど、こんなふうに暖かい季節になってくるとちょっと重たい感じがしていたんだろうな。落ち着いた柔らかい色合いに、心も軽くなったような気がする。
今からみんなのびっくりした顔が楽しみだ、なんて思いながらお店を出た。