【特別支援教育関係者向け】イヤーマフができない聴覚過敏の子の支援と対応
感覚過敏という言葉をご存知ですか?
歯磨き粉や液体歯磨きのCMでは、知覚過敏なんて言葉があります。
実は感覚過敏にはいろいろな種類があります。
例えば、
聴覚、触覚、嗅覚、視覚、味覚などなど
今回は取り分け日常生活の中で、困ることが多い『聴覚過敏』について、
しかも、イヤーマフが使えない子どもへの支援や対応について、事例を交えながらお伝えしていこうと思います。
聴覚過敏とは?
そもそも、聴覚過敏とは何でしょうか?
「聴覚過敏」とは、他の人が気にしないような特定の音、大きな音などに対して、過敏に反応したり、不安を感じたりする状態のことをいいます。
聴覚過敏の聞こえ方は、千差万別ですが、
聴こえる音に不快感(黒板を引っ掻く音を聞いている状態、ジェット機のエンジン音を耳元で聞かされている状態)や恐怖感(銃声を聞いている状態、命の危機を感じるような音が聞こえている状態)を感じているとのこと。
さらに、音の種類でも感じる感覚が変わってきます。
•人が沢山いる場所のザワザワした音
•バンドやオーケストラなど複数の楽器で演奏されている音楽
•泣き声
•車のエンジン音
•電車の発車音
•迷子のお知らせなどの放送の音
などなど…
苦手な音とその音によって感じる感覚についてはその子独自のものがあります。支援者としてしっかり見極めて行くことが必要です。
聴覚過敏の原因
結論から言うと、原因はわかっていません。
脳の情報処理が起因している可能性がある程度です。また、ストレス性の副腎疲労が原因という話もありますが、定説にはなっていません。
今のところは、原因不明です。
聴覚過敏を軽減するためのツール
現在、この聴覚過敏に対応するためのツールがあります。
イヤーマフ
耳栓
聴覚過敏周りに知らせるキーホルダー など
Amazonで検索してみると、これらの中でも多種多様なツールが開発されているようです。
https://www.amazon.co.jp/聴覚過敏/s?k=聴覚過敏
性能や感触を確かめて一人一人に合ったものを選びたいですね。
イヤーマフや耳栓でも活動が難しい子へ対応
ここから具体的な事例を2つ挙げて、聴覚過敏の子への対応をまとめてみました。前提として、イヤーマフや耳栓をしていても「行動面」が表出する事例になります。
【事例①Aさん 音楽がかかる場面や大人数での活動が難しい】
◆行動面
・Jpopや校歌、クラシック音楽など曲がかかっている場所で活動することが難しく、耳を塞いでその場から離れていく。
・音楽がなっていない場面で、突然曲が流れると、耳を塞いでその場所から走って出ていく。
・Aさんが活動している場所に、人がどんどん入っていくと、その場所から出ていく。
・活動場所へ入ろうとするが、中に人が大勢いると耳を塞ぎ、入ろうとしない。
◆対応
まずは上記行動面がなぜ表出するかたくさんの仮説を立ててみました。そのなかでたどり着いた根本的な原因は「聴覚の過敏性」ともう一つは「自分の気持ちの伝え方の未熟さ」といものでした。
「聴覚の過敏性」を克服するのはとても時間がかかる上、本人のしんどさも増えていくと考え、「自分の気持ちの伝え方」を場面に応じて身につけていく方向でアプローチの内容や場面を考えしていきました。
かかわりの中で、一番感じたのは、今まで聴覚過敏であることについて我慢を強いられてきたように感じました。なので、この「聴覚の過敏性」を認めて関わることで、本人に安心感が芽生え、より自分の気持ちを伝えていこうという意欲がでてきたと考えています。
また、一緒に関わっていた仲間との交流を意図的に増やしました。すると、自然とAさんの音の苦手さを周りが受け入れ、「Aさん、音楽かけるよ!」や「(Aさんが部屋に入らないなら)私も外に行って歌うよ!」という形になりました。
◎変容
自分から「外にでます。」と伝えられる。音楽が鳴っていても活動に取り 組める場面が増加。音楽が鳴りながらも、仲間と一緒に活動できる場面が増加。
【事例②Bさん 音楽や放送、泣き声を聞くとパニックになる】
◆行動面
・音楽や運動の時間に音楽がなるとその場から走りさる。
・同じ曲でも自分で選んだ音楽は聞けるが、他人がかけた音楽は聞くことが難しい。
・施設内や駅などの放送や発車ベルがなるとパニックになる。
・人の鳴き声や大声を聞くとパニックになる。
・合奏は自分が得意な楽器ならさんかすることができる。
◆対応
Aさんと同じように、様々な仮説を立てて行動面が表出する原因を探っていきました。その結果「聴覚の過敏性」と「活動の見通しのもちにくさ」に対して支援のアプローチをしていこうということにしました。
Bさんはすでに一日の予定には見通しがたっていました。そこで、各活動の流れを個別に提示することと、音楽がいつのタイミングでなるかを(可能な限り)音量のマークで示しました。
Bさんへ個別に予定を提示したところ、音がなるときに自分から外に出ようとしました。その場面を捉えて『外に出る時は伝えてね。』と伝えました。繰り返し取り組むと、音のタイミングで言葉で伝えて外にでることが出来るようになりました。さらに、好きな音楽のときは、同じ場所で活動することができるようになりました。
【2事例の支援の方向性】
各事例の支援の方向性についてまとめてみました。
【Aさんのケース】
・聴覚の過敏性を周りが認める環境をつくる。とくに、周りにいる友達に 理解を促し巻き込むことで、本人がより聴覚過敏であることに安心感を感じるようになります。
・自身のしんどさを伝える方法を考える。
聴覚過敏によるしんどさを周りに伝える方法が意外と身についていない子が多いです。なので、しんどさを伝える方法が逃げるかパニック、他害などの不適切な方法になりがちです。なので、しっかり言葉での言い方を場面を捉えて行うと、本人が『いつ』『なんというか』わかり、不適切な行動が減っていきます。
【Bさんのケース】
・活動といつ音がなるかの見通しが持てるようにする。
聴覚過敏の子にとって突然苦手な音が鳴ることほど恐ろしいことはありません。そのため、その見通しが立たない環境は、私達にとって戦場に放り込まれたような感覚になります。
なので、音がなるタイミングを伝えることで、安心感がでて、活動に参加することができます。
今回のケースも同様に、しっかり視覚的にいつ音が鳴るのかを提示したため、安心して活動できました。
まとめ
今回の事例だけでなくイヤーマフや耳栓でもなかなか活動に参加できない子はたくさんいると思います。
いずれにせよ、その子の聴覚過敏による困り感をいかに見極められるかがカギになります。また、無理に慣らそうとするのは、本人と支援者との関係性が悪化するだけで、出来ないことが増えてきてしまう可能性があります。
聴覚過敏は脳機能の特性なので、周りに認められる環境設定や本人が自分で環境を整えていけるように支援していくことが重要です。