崩された一年間の余韻『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』
ライダー・スーパー戦隊の放送終了後に製作されるVシネマ、期間限定の劇場公開が恒例になってきましたね。大好きな作品の続編がソフト発売より早く観られる反面、あくまでVシネマなので劇場版クオリティを期待すると消化不良を起こしやすいのが難点か。まぁ、本作はそれ以上に、根深い問題を抱えているのですが。
桐生戦兎が創造した新世界で、人々は記憶を失い、平和に暮らしていた。しかし、ある日、万丈龍我はなぜか旧世界の記憶を持つ女性、由衣と出会う。さらに、白いパンドラパネルから新たな地球外生物キルバスが現れ、かつてエボルトに奪われたパンドラボックスを取り戻そうと、エボルトの遺伝子を持つ万丈に襲い掛かる。ついに復活したエボルト、そして旧世界の記憶を取り戻した仲間たちと共に、最強の敵に立ち向かう。
『仮面ライダービルド』は、桐生戦兎と万丈龍我がいかにベストマッチであるかを一年かけて視聴者を説き伏せるような、エモーショナルな作品だった。無実の罪で投獄され、秘密結社ファウストの人体実験を受けた元ボクサーである万丈龍我は、仮面ライダービルド=桐生戦兎に救われ、己の潔白を証明するために戦兎らと行動を共にする。初めこそ、自分の無実を晴らすために行動する自分勝手な面が目立ったが、ビルドとして人々のために闘う戦兎、悲しくも散った恋人の香澄の姿を見て、愛と平和のために闘う仮面ライダーとしての正義に目覚めていく。桐生戦兎がいたからこそ今の万丈龍我があるという構図は、他者が入り込む隙のない唯一無二の関係性を見せつけてくる。
同時に、桐生戦兎にとっても万丈龍我は無くてはならない存在だ。佐藤太郎の容姿をした葛城巧という、エボルトによって創られた存在ゆえの不確かさに幾度となく悩み挫ける戦兎を奮い立たせてきたのは、いつだって万丈だった。戦争兵器としての仮面ライダーを造りだしてしまった過去に囚われた戦兎にとって、兵器としての在り方に染まらない仮面ライダークローズの姿は、きっと救いになったはずだ。何者でもない桐生戦兎を「桐生戦兎」として肯定し、共に闘ってくれる最高の相棒。桐生戦兎にとっての万丈龍我とは、そういうかけがえのない存在だった。
そんな二人が到達した、エボルトもスカイウォールもない新世界を舞台にした続編が、『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』だ。やや特殊な形での客演だった『ジオウ』1~2話や『平成ジェネレーションズFOREVER』と異なり、正真正銘TVシリーズのその後を描く一本。
白いパンドラパネルから現れた地球外生物キルバス。彼は故郷のブラッド星を滅ぼした存在であり、あのエボルトの兄だという。キルバスは奪われたパンドラボックス奪還のため、万丈を強襲する。弟エボルト以上にテンションの高くアクの強いキャラは、たった1話きりの出番ながら強烈なインパクト。新世界で対峙する最初の敵が蜘蛛モチーフなのも、初代仮面ライダー1話の敵怪人が「蜘蛛男」だったことのオマージュだろうか。
身も蓋もないことを言ってしまえば、本作の見どころは「エボルトの復活」「万丈との一時的共闘」にある。強大な力を持つ地球外生物にして、全ての元凶。そのあまりの凶悪さゆえ、エボルトが存在しない世界を創り出すことでしか真の平和は訪れないという、平成ライダー史でも稀な結末を迎えたラスボスだった。とはいえ、遺伝子を自由に操れるエボルト、散り際に復活に向けて仕掛けを施したであろうことは、すぐに予想がつく。そのため、新世界にてどのようにエボルトと決着を付けるかが、事前の期待されるポイントであった。
※以下、本作のネタバレが含まれます
だが結局のところ、復活したエボルトはキルバスを倒した後、力を蓄えて戻ってくると宣言し、宇宙へ旅立っていく着地を迎えた。結局、新世界でもまたエボルトの侵略に晒される危険性を抱えたまま、物語が終わるのだ。
多くの人たち、そして仲間たちの犠牲を払い、二人ぼっちの孤独に耐えながらも、ようやく手にした平和。そこに大きな爆弾を残していった結末は、一年間番組を見守ってきたファンにとっても大打撃だ。キルバスを倒すためとはいえ、万丈の命さえ脅かすかもしれないエボルトの復活を、あの桐生戦兎が決断するだろうか。それならば、もっと葛藤のドラマがあってしかるべきで、二人ぼっちの世界を共に生きてきた唯一無二の相棒を失うという恐怖を、本作の戦兎からまるで感じられなかった。あのビターな最終話をビルドした武藤将吾が書き上げたとは思えぬ、いろんな意味で衝撃的なラスト。
そもそも、今作の戦兎の言動は色々と不可解だ。「仮面ライダーが必要ない」世界を望んでいたはずなのに、「クローズドラゴンより高性能な変身アイテム」の蜘蛛型ペットロボットを造りだし、それをフリーマーケットに売りに出す(案の定キルバスに奪われ、新たな仮面ライダーを”創り出して”しまう)。違うでしょ、戦闘兵器を造った責任を一人で背負いこみ、戦争を終わらせるために自分を犠牲にし続けたヒーローがビルド=戦兎なわけで、何もかも矛盾している。しかも、万丈のピンチに駆けつけず、新アイテムをヒロインに預け、自分は部屋から出ようとしない。演者の都合もあるのだろうか、万丈の生死の危機ですら消極的で、自ら動こうとしない戦兎、万丈が憧れたヒーローとしての姿は見る影もない。結果として、エボルトが生還している以上、ようやくの思いで辿り着いた新世界を自らの手で「仮面ライダーが必要な世界」に変えてしまうという、ひどく残酷なオチが待っていた。
さらに、メインキャラクターに旧世界の記憶が残り続けるという、これまた物議を醸すオチまで付いてくる。平和な世界でそれぞれの人生を生きてきたのに、パンドラボックスの復活によって旧世界の記憶を取戻し、戦兎の元に集う。農家として暮らす一海も、政治家として生きる幻徳も、グリス/ローグとして戦線復帰する。視聴者の人気に応えての復活という事情が背景にあったにせよ、彼らも新世界で得たはずの平穏を捨て去る結果となり、非常に後味が悪い。「仮面ライダーグリスやローグの活躍は観たいが、新世界は闘いのない平和な世界にしてほしい」という支離滅裂な思考・発言を抱いていることに、本作で気づかされた。ちなみに、新世界での二人はネビュラガスを受けていないので変身できないのでは…??という疑問も付け加えておく。
桐生戦兎の思考、キャラクターの記憶とエボルトの在り方について、いわゆる「公式との解釈違い」に陥ってしまった本作。何はともあれ、先日発表されたVシネマ第2弾があるため、そうした設定も続編を創り出すための布石に過ぎなかったのだろう。シリーズ完結編となるらしい『グリス』にて真の平和が訪れるのか、エボルトの脅威が去った世界を創り出せるのかの答えを、首を長くして待つことにしたい。