いつでも見守っているから。『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』
ABBAの名曲を題材にしたミュージカルが映画化されたのが2008年、その続編が2018年公開と、およそ10年越しの再会が果たされた。初報を聞いた時は信じられなかったが、いざ劇場に足を運んでみれば前作のキャストが再集結しており、軽快な音楽とダンスと共に、新たな青春の1ページが開かれていた。
舞台はギリシャのカロカイリ島にあるホテル。オーナーであるドナの娘ソフィは、母親の日記を盗み見て知った3人の父親候補を自分の結婚式に招待。父親候補のサム、ハリー、ビルが島に来ると知らずドナは動揺するも、ソフィは「3人の父親」を受け入れ、ドナはサムのプロポーズに応える。
そんなハッピーエンドから10年。ソフィは島で自分のホテルを完成させ、オープニングパーティの日が迫っていた。ドナの親友ロージーとターニャも島にやって来て、再会を喜ぶ。しかし、夫のスカイからニューヨークで一緒に暮らさないかと誘われ、ソフィは母の願いとの間で葛藤する。
本作は、大人になったソフィのドラマと、母ドナの若かりし頃のエピソードが並行して語られる。ドナはいかにして3人の男性と出会い、島で生きることを選んだのか。妻として、経営者として、そしてドナの娘として様々な想いを抱えるソフィは、幸せを見いだせることができるのか。
家族や仲間同士の愛と絆を描く物語や、ABBAのヒットナンバー自体のパワー、ダンスの多幸感は健在で、登場するキャラクターは誰もが魅力的だ。現代編はアンディ・ガルシアとシェールが参戦しさらに華やかに、過去編では若かりしドナを『ベイビードライバー』『高慢と偏見とゾンビ』のリリー・ジェームズが演じ、繊細かつパワフルな歌声を披露。前作のハッピーで陽気な作風に惚れ込んだ方なら、問題なく本作もノれるはず。
とはいえ本作は、映画の構成としてやや特殊である。現在と過去のエピソードは文字通り“並行”であり、分断されているのだ。過去のドナのエピソードを知るのは映画を観ている観客だけで、ソフィはそこから何かを学んだりしないし、成長のプロセスは不明瞭だ。それこそ「日記帳」という印象的なアイテムがあるのだから、それを読むことでソフィが母の過去を知り、その愛に気づく、といった展開だって出来たはずなのに、それをしなかった。
日本での宣伝や予告ではあえて伏せられているが、10年の間でとあるキャラクターに大きな変化が起こっていて、まずはその衝撃に備えなくてはならない。母の大きな愛を「受け継ぐ」物語であるはずなのに、ソフィはドナの実態を知らぬまま、母としての自覚をいつの間にか悟り、大団円へと進んでいく。狙いと演出がチグハグで、巧くないのだ。
それなのに前作ファンがハンカチで目元を拭わずにはいられないのは、やはり名優が名優たる所以、圧倒的な「メリル・ストリープ力」に他ならない。クライマックスで彼女に与えられた大仕事は、観客が抱いているフラストレーションを驚きに昇華させ、娘を包み導く愛の深さを短いシーンで表現するというもの。これだけの課題を、わずか一曲のみで成し遂げてしまう歌唱力と演技力。
何せこのクライマックスが素晴らしいため、これまでの不満が帳消しになるほどの大逆転が発生。落涙はおろか嗚咽寸前にまで持ち込まれてしまった。ズルい。ズルいよメリル。こればっかりは感情なので抗いようがなく、本当に不意を突かれ号泣してしまった。
ファンの多い作品の続編となれば期待も不安も大きくなるのだが、本作は「観たいもの」をちゃんと用意してくれた。前作同様、底抜けにハッピーで選曲も素晴らしく、島民全員で踊る「Dancing Queen」のシーンは問答無用でアガる。現代編の主題が「ホテルのオープニングパーティ」である以上、映画の後半30分は実質打ち上げのようなもの。「ザ・ダイナモス」の復活や(本当の意味で)全員集合のエンドロールなど、最後まで観客を幸せな気持ちにしたまま、送り出してくれる。
続編として、これだけのものを披露していただけたのだから、文句を言ったらバチが当たる。前作の復習は必須で、鑑賞後はサントラが欲しくなる、元気をくれる最高のミュージカルだった。