映画『牙狼〈GARO〉-月虹ノ旅人-』はじまりの男の帰還、シリーズ集大成の黄金の輝き。
出会いは、雑誌「宇宙船」の表紙にて。金色の狼の姿をしたNEWヒーロー「黄金騎士ガロ」の煌びやかさに一目惚れし、当時現役だったVHSで深夜放送の第1話『絵本』を録画し、翌朝に視聴したのが全ての始まりだった。
ハイパーミッドナイトアクションホラードラマ『牙狼-GARO-』が放送されたのは2005年。当時小学生の背伸びをしたい年頃だった自分にとって、『牙狼』とは最高のタイミングで出会うことができた。何と言っても、「テレビで女性の裸を観る」というのが初めての経験だったからだ。子どもながらに、これは「大人向けの特撮」なんだと瞬時に理解し、仮面ライダーやスーパー戦隊を一時卒業していた自分を特撮に引き戻すには充分なインパクト。ワイヤーやCGを駆使した過激なアクションも相まって、これまでのテレビ特撮とは一線を画すゴージャスさに、強く惹かれたことを憶えている。
そんな牙狼シリーズは最初のテレビシリーズと前後編に渡るTVスペシャルで一旦は完結したかに見えたが、2008年のパチンコ化によって爆発的に認知度を高め、初の劇場版『RED REQUIEM』が公開。さらにシリーズは裾野を広げ、様々な続編やスピンオフが次々に製作され、いまや10年を超えて愛されるコンテンツへと成長。ほぼ毎年、何かしらの形で『牙狼』の新作が観られるなんて、10年前の自分では到底考えられなかった。
そうしたシリーズの歴史の出発点に立つ、偉大なる黄金騎士たる冴島鋼牙。その息子である冴島雷牙の活躍を描いたテレビシリーズ第4期にあたるのが2014年放送の『牙狼-GARO- -魔戒ノ花-』であり、その初の劇場版が今作『月虹ノ旅人』である。古の魔獣・エイリスとの死闘を終え、生まれ持つ優しさと心滅獣身をも克服する芯の強さを持ち合わせた最強の魔戒騎士である雷牙の、新たな闘い。劇場版ならではの現実離れした世界観を舞台とした旅路は、やがて「冴島」の一族にまつわるある因縁との対峙を余儀なくされる。
そんな時、雷牙を導く者とは誰なのか。「冴島雷牙シリーズ集大成」と銘打たれた本作のラストに辿り着いたとき、その言葉の本当の意味に、ファンは必ずや涙するだろう。
本作もまたシリーズの例に漏れず、冒頭からハイスピードなアクションが展開される。一見甘い顔立ちの中山麻聖演じる雷牙だが、日常シーンと戦闘時の表情のギャップが素晴らしく、柔和な表情をキッと引き締めた横顔がとても格好いいのだ。蠱惑的な容姿の女ホラーとのワイヤーを駆使した激しいアクションでは、目にも止まらぬ体技と殺陣で魅せ、ホラーが正体を現してからは黄金騎士ガロとなって豪華絢爛なCGバトルへシームレスに移行。
闇夜に輝く黄金の鎧は、やはり暗闇のスクリーンでこそ映える。無類の強さでホラーを屠るガロの姿を序盤で示しつつ、とある障害によって鎧が召喚できない状態に陥れられた雷牙が、己の身一つでさらわれたマユリを取り戻すために単身で謎の列車に乗り込んでいくことで、本作の物語が動き出す。
この「鎧が召喚できない」というギミック自体、牙狼の劇場版シリーズでは恒例と言ってよいほどに繰り返されたシチュエーションで食傷気味に感じつつも、やはり今回は生身の雷牙であることに意味があるのだ。いわゆる「黄泉の国」へと続く列車に乗り込んだ雷牙は、案内を買って出た謎の少年バデルと共に最前車両に向けて歩を進めて行く。
その道中、しきりに雷牙に列車を降りることを促すバデルだったが、マユリを救う一心でそれを撥ね退ける。二度と現世に戻れない危険性を背負いつつ、それでもマユリを救いたいという雷牙の優しさは、TVシリーズから何一つ変わっていない。その優しさと愛情を以て心滅を乗り越えた雷牙の強さの源は、両親から受け継ぎしものに違いない。その決意を見届けたバデルとの別れをもって、本作は思わぬ方向へシフトしていく。
※以下、本作の重大なネタバレが含まれます。
マユリを救うべく車両を降りることなく前へ進む雷牙、その事実を何者かに報告するバデル。その相手とは、あの冴島鋼牙だ。
ホラーの始祖メシアを打ち倒し、黄金騎士ガロとして数えきれないほどの陰我を断ち切ってきた、『牙狼』始まりの男とも言うべき存在。我々ファンにとっても伝説的な存在であり、雷牙との親子共闘を望む声も多かったはず。そしてついに、大スクリーンでそれが果たされた。感無量の一言だ。鋼牙の顔がアップになった瞬間の、劇場全体が息を飲むあの瞬間の昂りを、文字に起こすのは難しい。
『牙狼』ユニバースは、アニメ版や道外流牙シリーズといった形で広がり続けてきた経緯があるが、やはり「冴島家」の系譜が紡がれていくことにこそ、特別な感慨を抱いてしまう。長く続くシリーズものにおいて「一作目」とはとかく神格化される傾向にあるが、牙狼においても例に漏れず、やはり鋼牙の帰還は格別の喜びなのだ。時空の狭間に囚われた雷牙の母カオルを救うために旅を続けてきた鋼牙も、同じく愛する者を救う旅に出た息子の雷牙を見守り、ついに並び立って闘う時が来たのだ。
それと呼応するように、マユリをさらった仮面の男・白孔も真の野望を露わにする。その正体とは、暗黒騎士キバとして鋼牙と激戦を繰り広げてきたバラゴその人であった。闇を彷徨い続けたバラゴは、雷牙の産声によって復讐を思い立ち、死人として現世を彷徨い、ついに雷牙と邂逅。彼を英霊の塔へ誘い込むことでその力を奪い、黄金騎士の系譜に連なる全ての英霊の名を汚すがごとく、塔を破壊しその力を吸収。
鋼牙役の小西遼生氏に続き、京本政樹まで牙狼ワールドに帰ってきた。ここにきて本作が、「冴島雷牙シリーズ集大成」という枠を超えて冴島家、ひいては全ての英霊たちへと連なる黄金騎士ガロと最強の暗黒騎士キバとの最終決戦を迎えるという、『牙狼』ユニバースの総決算とも言うべき作品であったと、誰もが気づかされるのだ。
バラゴの復活によって窮地に立たされる鋼牙と雷牙。しかしそこに現れたのは列車で別れたはずのバデル。しかししてその正体は、先代ガロである冴島大河だった。言うまでも無く、雷牙の祖父にして鋼牙の父であり、バラゴによって命を落とした因縁のある男。親子二世代を超え、三大に渡る黄金騎士の血脈が、ついに同じ画面に収まるのだ。もはやエクスタシーだ。涙でスクリーンが見えなくなるほどに、嗚咽が止まらない。
このクライマックスバトルでは、全てがファンサービスの大洪水。シリーズ第1期を彩ったキャストの復活に加え、BGMや細かい台詞に至るまで、あらゆる要素でこれまでの『牙狼』シリーズを追ってきた歴史を肯定し、涙腺をぶん殴ってくるのだ。こんなキャラクターがいた、こんなバトルがあった、そうした思い出を想起させる仕掛けが随所に施され、半ば生理的に泣かされてしまう。やはりこれだけは、シリーズファンならではの醍醐味だ。
一方、雷牙への想いを託した花を届けるために英霊の塔を目指すマユリや、彼女を塔へ送り届けるべく奮闘するクロウ、それを見届けるゴンザなど、「想い」をリレーする様も胸を熱くさせる。かつてカオルの想いが翼人という奇跡を起こしたように、ソウルメタルは人々の心の在りようを反映するものだ。道具であったマユリに芽生えた、確かな愛情。それに呼応するように、彼女を塔へ導いたのは御月カオル、そして未来の―。
そうして届けられた「花」こそが、新たな奇跡を呼び起こす。ガロの鎧を取り戻した雷牙は、その鎧を父・祖父にリレーすることで、三人の騎士の力でバラゴと対峙する。CR機にて先行登場していた鷹皇騎士・王牙の鎧をまとったバラゴをも圧倒し、全ての英霊の力を結集して、最大の闇を打ち払うのだ。TVシリーズ1期を思えば、太河はもちろん、あの鋼牙も英霊の一人に数えられるだけで、こちらは万感の思いで胸いっぱいなのだ。
束の間の共闘を果たした冴島家の三騎士、受け継いだのは守りし者としての使命や鎧だけでなく、愛情そのものであった。息子と孫の顔を見届けて英霊の間へと帰る大河、そして「必ず帰る」と再び約束を交わし、旅立つ鋼牙。誓いを果たすべくガジャリを呼びだした雷牙は、そこで父のより深く大きな愛を知り、涙する。そして父の元へ行くために、自身も旅を決意する。並んで歩くマユリのお腹には、新たな愛の結晶が育まれていた。「系譜」こそをテーマとした本作ならではの、美しい幕引きであった。
まったくもって、凄まじい映画だった。よもやこれでシリーズ完結か!?と思わせるほどに、シリーズの総決算としてあらゆる要素を詰め込んだ、ファンサービスの極致のような一作だったからだ。エンドロール、雨宮監督からのメッセージとして、一緒に作品を創り上げた仲間たち、シリーズを応援してくれたファンへの「感謝」の言葉で締めくくられるのだが、それはこっちの台詞なのだと強く言いたい。長きに渡りダークで規格外なスケールの世界観を楽しませてくれた挙句、10年分の感謝をイッキに浴びせてもらえて、こちらこそ感謝の念でいっぱいだ。『牙狼』を観てきて、本当に良かった。その言葉に尽きるのである。