2020年にもなって『AKIRA』を初見する。
炎上覚悟で罪を告白したものの、炎上はしませんでした。が、「NetflixかHuluで観られるよ!」ってすかさず連絡が来て、他者の沼落ちを確信したときのオタクの嗅覚って本当に恐ろしいですね。
AKIRA、観なきゃいけないとずっと思ってたし、観てて当たり前くらいの知名度のタイトル。でも本当にミリしらで、東京オリンピック延期が報じられた際はAKIRAを触媒にSNSで騒がれ始めるので、スポーツ選手のお話だと思ってたくらいでしたが、実際は世紀末SF冒険譚というとてつもないカルチャーショックを受け、鑑賞後3時間寝込みました。鑑賞中のメモを頼りに、その衝撃がいかなるものかを振り返っていきましょう。
1988/7/16 世界は核の炎に包まれた
まぁ後に核じゃないとわかるのですが、北斗の拳みたいなスタートで開幕から盛り上がってまいりましたね。
2019 NEO TOKYO
ネ オ 東 京 !?!?これぞクールジャパンですよ。こういう情緒が理解る人に国を治めていただきたいものです。ネオ都知事とか、ネオ総理とかいうんでしょうか。かつての災厄からわずか30年でブレードランナーめいた都市群が復興してるのも驚きですが、この国のセンスも捨てたものじゃないなと驚嘆する次第です。
ネオ渋谷の元ネタってこれか…
失業者の群れが暴動を
Netflixで字幕再生していたせいか細かい台詞まで聞き取れるのですが、ニュース報道の情報量がエグい。煌びやかに復興したかに見えたネオ東京だが、街には失業者が溢れ日夜デモ活動が起こり、警備隊と交戦してるという。また、反政府ゲリラも存在するらしい。世も末ですけど、わりと他人事じゃないリアルがそこにはありました。
都市版マッドマックス
そんなネオ東京に暮らす不良少年の金田、山形、甲斐、鉄雄らは、オートバイで街を走り回る日々を送っている。彼らは警察からは暴走族として扱われ、別のグループである「クラウン」と抗争を繰り返していた。
ここのバイクチェイクシーンのアニメーション、動きが本当に気持ちがいいですね。素人目にも、作画枚数が多くキャラクターがヌルヌル動く会館が伝わってくる。街を疾走するバイクの軌道がライトの光の揺らぎで描かれ、それが力強く躍動し鋭く止まる。キビキビとした動きが本当にカッコイイです。『レディ・プレイヤー1』に登場したバイクが主人公機だったとは。
んで、このネオ暴走族の抗争の様子が、完全に怒りのデスロード仕様。重火器のような野暮なものは使わず、その辺のバールとかで相手の転倒を狙うため、ヘタしたらマッドマックスより物資が乏しいかもしれない。
X-MEN
ティーンが盗んだバイクで走りだしている頃、男と少年が警察の包囲網から逃れるように足早に歩いている。だが見つかってしまい、男は容赦なく撃ち殺されてしまう。男の死を確信した少年…やけに顔が老いている異様な姿だ…は、その叫びと共に周囲を破壊した。
この辺りでようやく察しがついたんですが、ミュータントのお話だったんですねコレ。この時はまだ冒頭の東京崩壊が核によるものだと思っていたため、放射能を浴びて強制進化した新たな人類の物語かと。あと余談なんですけど、「きょうせいしんか」で変換したら「今日精神科」になってしまい、PCに異常性を見抜かれている気がして大変コワイですね。
老いた顔の超能力少年タカシはあてもなく街を彷徨う中、抗争を終えてバイク吹かしていた鉄雄が彼と接触。すぐさま来た保険会社ならぬ警察によってタカシと鉄雄は連れ去られてしまう。ここで金田くんたちも「危篤のママに会いたくてバイク走らせてて、そしたら因縁つけられてカッとなって、そしたらエヘヘ」みたいなクソガキムーブかましてくるのがかわいい。
拘置所(体育館)
拘束された金田たちは警察の事情聴取を受けるのだが、その場所がどう見ても学校の体育館。これアレですか?ゲリラや暴走族が多すぎて警察署もキャパオーバーで、学校施設を押収しているとかそういう類のディストピアなんですか??なにはともあれ、金田はケイちゃんという女の子(実はゲリラ)に一目惚れし、鉄雄くんのことは忘れておうちに帰りました。…アキラって人はいつ出てくるんですか??
堂々と女殴りやがった
警察に捕まった鉄雄は、タカシとの接触を機に♰能力♰に目覚めたらしく、謎の施設で実験体として扱われることに。物が突然動き出したり、悪夢にうなされるそんなエブリデイに疲れた鉄雄は、施設から脱走を図ります。
まんまと脱走に成功した鉄雄は、盗んだバイク(金田の)でガールフレンドのカオリちゃんとデートへ。カオリちゃん、恐ろしいくらいに作画コストが節約された私服で、色とか無いし常に薄着。大丈夫かな?と思ったら案の定暴漢たち(チームクラウン)に破かれて、あられもない姿にさせられてしまいます。しかも思いっきり顔面殴られます。こういうの、アニメで観てもイヤな気持ちになりますね。
お気に入りのバイクを盗まれた金田はすぐさま鉄雄を追い、窮地を救う。だが、それが気に入らなかったらしい鉄雄。彼は彼でコンプレックスの塊で、金田から子ども扱いされることに鬱屈をため込んでいた、よくあるティーン強がり現象に苛まれていました。そこを突くように、♰能力♰が彼の闇堕ちを促していく。その脳裏にフラッシュバックする「アキラ」の名前…。どうやらアキラとは人の名前であり、一種の概念を指すらしい。とここまでわかったところで、またしても軍に連れていかれる鉄雄。
またしてもこの辺りでピンときたのですが、思い出したのがオールタイムベスト青春映画の『クロニクル』のこと。ふとしたきっかけで超人的な能力に目覚めたティーンの一人が、思春期特有の自意識と身体性の拡張との折り合いに悩み、やがて闇堕ちする様を描いた大傑作。なんかもうほぼオチまで幻視してしまったのですが、後年の海外映画にまで多大な影響を『AKIRA』が与えていると判明。
違法集会を解散しなさい
鉄雄が再び捕まり、超能力者の存在を知る金田たち。一方、軍部ではかつての東京崩壊の原因となった「アキラ」の解明とコントロール掌握のため日夜研究が進められていたが、膨れ上がっていく予算に対し最高幹部会は難色を示す。軍の最高指揮官である大佐は、それでもアキラ研究こそがいずれ来るであろう二度目のカタストロフを防ぐために有効であると主張を曲げない。その時の予算審議会での一幕がコチラ。
「前総理の税金政策の歴史的失敗の尻拭いを、われわれ国会議員が頭を下げて国民のみな様に我慢していただいているこの時期にだよ? なんだね? どこにそんな金があるんだね?」
「来年はオリンピックだよ。もう戦後は終わったんだ。いつまでそんな幽霊のようなものに金を出さなくてはならんのかね?」
風刺が濃すぎて息でけへんわ。
同時期、金田は警察に追われるケイを救うも、彼女が反政府ゲリラ組織の一員であると知る。なし崩し的にゲリラに入隊することになった金田は、ゲリラと共に鉄雄が囚われているラボへ向かうことに。
しかし、ゲリラの主導者でもある根津はネオ東京の政治家の一人。彼はゲリラを利用して「アキラ」を自らの手で掌握することを狙う。その根津とゲリラメンバーの竜が、荒廃するネオ東京の夜の風景を眺めていた時に警官が叫ぶ一言が最高。「違法集会を解散しなさい!」これですよ。AKIRAはソーシャルディスタンスさえも予言していた。密です。
オリンピック会場地下にそんなもん埋めるんじゃあない
鉄雄が連れ戻されたラボには、タカシの他にも超能力者の子どもたちがいた。マサルとキヨコ。彼らもまた老いた顔をしており、能力を得た代償があるらしい。その中でも未来予知能力に長けたキヨコは、大佐にいずれくる大崩壊を予言する。
なんでも、オリンピック会場地下に封印された「アキラくん」が蘇り、街は崩壊したくさんの人が死ぬという。あの、オリンピック会場って何千人も人が集まるんですよね。その地下に核爆弾に匹敵する何かを埋めますかね普通。
何はともあれ、大佐は「アキラ」の覚醒を防ぐべくオリンピック会場建設予定地にある秘密基地に向かう。同時期、覚醒した鉄雄のパワーは増大し、時折脳裏に現れる「アキラ」のイメージに苦しめられ、そこから脱却するためアキラの居場所を突き止めようと活動を始めます。
アキラって絶対のエネルギーなんだって
説明タイム入ります。キヨコの精神介入を受ける形で、ケイの口から語られる「アキラ」とは。以下引用。
アキラって絶対のエネルギーなんだって。
人間ってさ、一生の間にいろんなことをするでしょう。
なにかを発明したり造ったり。
家とかオートバイとか橋や街やロケット。
そんな知識とエネルギーってどっから来るのかしら。
猿みたいなものだった訳でしょう。人間って。
その前は爬虫類や魚。
そのもっと前はプランクトンとかアメーバとか。
そんな生物の中にも凄いエネルギーがあるってことでしょう。
そのもっと前の水や空気にも遺伝子はあるのかしら。
宇宙の塵だってそうでしょう。
もしあるとしたらどんな記憶を秘めているのかしら。
宇宙のはじまりの
そのもっと前の
だれでもそんな記憶を持っているのかも知れないわね。
もし何かの間違いで順番が狂ってそんなアメーバみたいのものが人間みたいな力を持つことになったら。
アメーバは家や橋を造っておくれないわ。
ただ自分の周りの餌を食い尽くすだけ。
昔、その力をコントロールしようとした人たちがいたの。
政府の要請を受けてね。
それが失敗して, あの東京崩壊が起こった。
あの力は私たちにはまだ…
人類が本来その身に宿すはずの無かった、宇宙をも創造するほどの強大なエネルギー。生命を造り出すことも、滅ぼすこともできる、途方もなく大きな力。今の人間が制御できるはずもないテクノロジー。そういったものの象徴が「アキラ」なのでしょうか。
山形…
鉄雄はアキラを探す過程でキヨコらの精神攻撃を跳ね除けるほどに能力を覚醒させ、次第にその力に酔っていく。肥大化する自意識は留まるところを知らず、ついにはかつての溜まり場のバーの店長を殺害し、そこに居合わせた甲斐と山形にも、まるで王であるかのような振る舞いを見せる。そして、ついには山形をも殺害。悪態をつくのでした。甲斐はなんとか抜け出すことができ、山形の死を金田に伝える。
山形くん、実は初期メンバーの中でもお気に入りだった山形くん、あえなく殺されてしまった…。金田もそうなんですが、世紀末的に狂ったこのネオ東京で、金田も山形も甲斐も悲観的にならず、むしろお調子者のような振る舞いがとても可愛らしかったんですよね。あとツッコミのセンスもあったよね。全然勉強する気もないくせに「今日自習だってよー」って言われた時の返しがめっちゃすきでした。ご冥福をお祈りします。
モンスター鉄雄
アキラを目指してオリンピック会場に降り立った鉄雄。市井の人々も鉄雄こそを「アキラ」として神格化し、デモの勢いは増すばかり。しかしそんな民の声に応えることなく、軍も市民も見境なく街ごと葬っていく鉄雄。そして彼は、アキラが封印された基地の奥地にたどり着く。
そこで待ち受けていたのは、軍の調査研究によって体をバラバラにされ、冷凍保存された「アキラだったもの」が収められたカプセルでした。アキラはすでに死んでいた。軍の大人たちはアキラの強すぎる力を制御できず、切り刻み保存することで科学技術の進歩に未来を託したと語る大佐。そのために無残にも殺された、子どものアキラ。
そこへ(これまた盗んだのか)ビーム銃を持った金田が現れ、鉄雄との一騎打ちへ。「さんを付けろよデコ助野郎」って、AKIRA出典だったんですね。今度使ってみます。
一時は金田優勢に見えた一騎打ちだが、ビーム銃のエネルギー切れによって万事休す。だが、大佐によって稼働した超巨大レーザー発射衛星兵器SOLが会場を打ち抜き、鉄雄は右腕を失い撤退。そんなもん保有してんのかこの日本。核よりヤベぇ。
傷心の鉄雄を癒すようにやってきました、破かれる前と全く同じファッションのカオリちゃん。この娘、こうやって幸せになれない方向に人生の選択肢を誤っていくんだろうな…。もうちょとマシなおべべ着せてあげてよ。
傷ついたカレの心を癒してあげゆ💛なカオリちゃんが見たのは、力を制御できなくなり機械と肉塊の化け物と化した鉄雄。ムクムクと肥え太っていく鉄雄はついに自分を抑えられなくなり、会場にやってきた金田とカオリを飲み込んでしまう。そしてカオリは肉塊に押しつぶされて圧死。Oh…。カオリちゃんだけに当たりキツすぎません??
AKIRA降臨
鉄雄に飲み込まれる直前、金田は鉄雄の「助けて…」という叫びを聞きます。もう戻れないかもしれない、それでも鉄雄のために死地に飛び込んだ金田。その姿を見たタカシ、キヨコ、マサルは、3人で「アキラ」に呼びかける。
その声に応える形で、カプセルが割れ、甦った実験体28号=アキラが放った光が、ネオ東京全体を包んでいく。その光の中で金田は、鉄雄の記憶に触れる。よそ者としてイジめられ、それを金田に助けられたこと。鉄雄の中に宿る金田への劣等感の裏側にあった、本当の気持ち。そしてキヨコらは、人々の中に宿るアキラの力の目覚めが始まっていることを告げ、アキラの力によって鉄雄共々別世界へ転移していく。金田はケイの呼び声によって目覚め、彼らを送り出すことに。
生き延びた金田は、鉄雄が旅立ったことをケイと甲斐に語り、鉄雄との別れを悲しむと、崩壊したネオ東京に向けてバイクを走らせる。そこに被せられる、鉄雄の声。
完走した感想
めちゃくちゃ面白かったです。どこかで観た展開だなと思わなくもなかったのですが、後年の創作がいかに『AKIRA』に影響を受けているかの証左として、改めて本作の偉大さに気づかされる結果に。
オリンピックを控えた首都東京の在り方、無秩序状態となった市井の人々、相次ぐ抗議デモは現代を映す鏡のよう。意図せずしてタイムリーなものに見えてしまうのは、未知の疫病によって生活が脅かされ、オリンピックは延期、さらには中止の危機に瀕し、政府の対応には批判が集まっているという、2020年の日本を生きる私たちにはまるで他人事とは思えないそれが、1988年公開の劇場アニメにあまりに色濃く描かれていたから。秩序が崩壊した行く先を、ありがたいことに30年前のアニメが示してくれているのだから、最悪な未来は避けたい。
だが、首都崩壊を招いたのは、あくまで人間である、ということも忘れてはならない。(鑑賞後に知ったのだが)アキラを始めとした超能力を持つ子供たち(番号で呼ばれるためナンバーズという名称がある)は、軍の実験によって生まれたものだという。大人たちのエゴによって望まぬ超能力を与えられてしまった子供たち。その上大人たちの手に余れば、アキラのように殺されてしまう。言うまでもなく児童虐待のおぞましさが描かれているではないか。
人間が生み出した、使い方を誤れば大災害を引き起こすかもしれない存在。その恐ろしさを肌で学んだあの日から、来年で10年が経ちます。いったいどこまで警鐘を鳴らし続けるのか、このアニメは。観てよかったです。