希望も絶望も、受け入れて生きてゆく。『仮面ライダーウィザード』
先日から『仮面ライダー鎧武』『烈車戦隊トッキュウジャー』を続けざまに観たことで、10年前のことをぼんやり考えることがある。あの頃はまだ学生として無限にも思えるモラトリアムを過ごしていたが、今や社会人として、ある程度の責任を課せられる立場になってしまった。
これを喜ぶべきか悲しむべきか、その受け取り方は日によって反復横跳びを繰り返している。でも結局のところ時は戻せないのだから、成人として見なされる以上付随するメリットもデメリットも、受け入れながら生きていくしかないということからは、逃げられないのである。
そんな今から10年……と少し前に放送され、毎週日曜日に欠かさず観ていたのが『仮面ライダーウィザード』だった。様々な指輪を切り替えては闘い、ローブをたなびかせながら華麗に舞う、魔法使いのライダー。郷愁にかられ1話を再生したが最後、放送当時以来に再見をしてしまった。先日の『鎧武』と同じ流れだが、週1放送とイッキ見では見える景色も違ってくるし、歳を取ったことで物語への受け取り方も変わってくる。
そんなわけで、まずはTVシリーズ51話までの“一応の”最終回までを振り返っていきたい。
何はともあれ、『ウィザード』を語るならまずは1話、1話は欠かせない。年季の入ったライダーファンなら「好きなライダー作品は?」「好きな最終フォームは?」といつ何人から聞かれようと即座に答えられるよう定型文を用意しているはずだが、「好きなライダーの1話は?」と聞かれたら、私はウィザードの名前を挙げるようにしている。
『ウィザード』の1話は完璧で、何が完璧かと言われたら作品のテーマや通年のルールが24分の尺に過不足なく詰まっているからである。謎の怪人「ファントム」は魔力を有する人間「ゲート」を絶望させ同族を増やすことを目的とし、それに対抗する魔法使い「ウィザード」はファントムを倒し、絶望しかけたゲートの精神世界「アンダーワールド」に潜って彼らを救う。それらの設定を台詞と実際の映像で語ってくれるため、押さえるべき用語が多くともすんなりと脳にインプットされてゆく。
そして白眉はオープニングのアクション。凛子ちゃんや警察官たちを襲うファントムに、バイクに乗った男が現れ、その場でターンして銃を撃つ。放たれた銃弾は魔法によって制御され、吊るし上げられた凛子ちゃんをかわしてファントムの身体に着弾する。余裕の表情でキザな攻撃を繰り出したこの男こそ、本作の主人公であり魔法使いの操真晴人だ。
怒ったファントムは晴人に向かって火球で攻撃するのだが、その炎が不思議な魔法陣に吸い込まれ、現れたのは仮面ライダーウィザード フレイムスタイル。彼が指輪の魔法使いにして、絶望に堕ちる人間たちの最後の希望。唖然として立ちすくむファントムを前に、決め台詞が開幕のゴングを鳴らす。「さあ、ショータイムだ」
そこからの流れは、上掲した公式チャンネルでの1話冒頭をぜひ観てほしい。主題歌をバックに、クルクルと回り握手を求める謎の武器を使いこなすウィザードの姿は、今観ても格好いい。必殺技を放ち、主題歌の〆と共に番組ロゴ、そしてヒーローのアップ。これに痺れない者がいるだろうか。
何よりも目を引くのがエクストリームマーシャルアーツ(XMA)を導入し回転しながら闘う独特のアクションで、「今年は1年これで行きますよ」という宣言として最高のパフォーマンスが視聴者に提示される。XMAをご担当された杉口秀樹さんとレジェンド高岩さんとの連携により、仮面ライダーウィザードは華々しいスタートダッシュをキメた。何度観ても完成度の高く、番組のプレゼンテーションとしても惚れ惚れする出来栄えである。
そんな『ウィザード』の物語は、アクションに新規性を持たせつつ、人間ドラマに腰を据えて描く構えを見せている。
前述の通りファントムはゲートを絶望させ新たなファントムを生み出すことを目的としており、ゲートにはそれぞれ誰にも言えないような秘密や葛藤、悩みを抱えている。晴人や凛子、瞬平たちはゲートの人となりや心の支えとしているものを調べることで「どうやったらこのゲートは絶望するのか」というゴールが定まり、ファントムはそこを突こうとするし、晴人らはそれを防ごうとする。
『電王』以降ひとつの型となった2話完結のいわゆる「お悩み相談」フォーマットを基調としつつ、各エピソードを象徴するゲートと出会い、その人間の絶望を目指すファントムとの闘いが描かれる。ファントムはゲートを直接攻撃することもあるが、基本的にはゲートの大切なものを壊したり、夢を果たせなくしたりといった方向に刃を向ける。
対する魔法使いサイドは、時にはゲートの大切なものを守り切ることが叶わないこともあれど、晴人はその人に残された希望を信じて言葉を紡いでいく。絶望は一転して希望になることもあり、その二つが別個のものではなく裏返しであることは、本作の通底したテーマと言える。
今回の再視聴で気付かされたのは、失ったものは二度と戻らないという考えが全編に渡り徹底されていることである。
まずもって、絶望しファントムを産み出したゲートはその時点で死亡しており、ウィザードがどんなにファントムを倒しても元の人間は帰ってこないという、実はエゲツない前提がある。晴人やコヨミが人生を一変させることになった日食の日「サバト」では、フェニックスやメデューサ、無数のファントムの元となった人物が消失していることになり、遺された者たちの悲しみが稲森真由を通じて話題に上がることもあった。
そうした大惨事を目の当たりにして、望まずして魔法使いとなった晴人はしかし、ウィザードとして人々を絶望から救う役目を引き受けるのである。そんな彼が、自分が空っぽの人形だと絶望し死を選ぼうとしたコヨミを思い止まらせた言葉が「今を受け入れて、前に進もうぜ」である。
かつて両親と共に不慮の事故に合い、自分だけが生き残るという過酷な経験をしながらも、自分が生きることこそが両親の希望であるということを胸に秘めて生きる晴人は、大切なものを突然失う恐怖や絶望を知り、それでも両親の希望を紡ぐために生に食らいついてきた人物だ。だからこそ、彼は人々に希望を灯すことが出来るだけの説得力を持ち、コヨミだけでなく瞬平や凛子ちゃんといった無数のゲートを絶望から這い上がらせてきた。誰かの「希望」となれる人は「絶望」を知る人でなければならない。
絶望をも受け入れて、生きてゆく。いまだ未曾有の大災害の傷跡が生々しい2012年、明るい作風を志しライダーのデザインから涙ラインを廃した『フォーゼ』の後番組に、このメッセージを打ち立てる。そこには並々ならぬ覚悟があっただろうし、あの日以前にはもう戻れないということを受け入れて、それでも前に進む気持ちを鼓舞するためのヒーロー、ウィザード。
魔法は何でも叶えてくれるわけではないけれど、ゲートたちは皆希望を抱いて物語から退場していく。その姿は、「こうあってほしい」という制作陣の切なる願いが込められたものではないかと、今さらになってそう思うのだ。
物語が佳境を迎えるにあたり、絶望を受け入れた魔法使いと「そうなれなかった」者たちとの闘いは、激しさを増していく。
自身の生きる希望であった愛娘の暦を失った笛木は、かつてサバトによって無数の人間を生贄とし、さらにはフェニックスやメデューサを騙す形で魔法使いとなれる素質を持つゲートを探させ、暗躍していた。娘の命を蘇らせることは、自分にとっての希望を取り戻すこと。犯した罪の重さは計り知れないが、自分と同じように家族を失った苦しみを味わった相手を、晴人は否定しなければならない。それはかくも辛い闘いだっただろう。最後に引導を渡したのがグレムリンであったことが、よもや救いであったのでは、と思うくらいに。
そして、グレムリンこと滝川空。彼もまたサバトの被害者であり、人間・滝川空としての心を持ったままファントムという化け物に変容してしまった彼もまた、理不尽な運命に苛まれた人物だ。その目的は、コヨミに埋め込まれた「賢者の石」を奪い、人間に戻ること。
かつて自分を捨てた交際相手の女性と同じ特徴の持ち主を次々と殺害する凶悪犯罪者である空は、物語上の落とし前を考慮するのなら、救われるべき人物ではないだろう。人を殺すということは、その人本人や周囲の人々の希望を奪うことであり、魔法使いとは正反対の存在と言える。だが、愛する人に捨てられ、希望を失くし絶望した人間を見捨てるのも、どうにもやり切れない想いがある。
晴人は、笛木や空という自分のif―もし自分も絶望していたら、こうなっていたかもしれない、という可能性と闘うことを余儀なくされていた。その苦しい激闘の末、なんとか導き出せた答えが、この台詞なのだろう。
他者の命、すなわち“希望”を奪ってまで自分の願いを叶えようとする者を、晴人は否定する。自らの絶望を抱え込んで、苦しみを耐え抜いて、それでも生きようとする人を救うのが、晴人のヒーロー論だからだ。絶望を知り、希望をも知る晴人ならではの思想であり、これこそが本作における善悪の分水嶺となっているように思える。
クライマックス、晴人はコヨミの「静かに眠りたい」という願いを尊重し、ホープリングを自分の指にはめ、一人旅立っていく。コヨミを失った悲しみを背負い、コヨミの希望を叶えることが自分にとっても新たな希望となることを知って、人知れず去っていく。
まさに「ロンリー仮面ライダー」なカットで締めくくるが、寂しさだけでなくどこか希望を残したエンディングに感じられたのは、晴人がこれまで結んできた縁があるからだろう。希望の守り人は、今日もどこかで、誰かを絶望から救っている。
TVシリーズ第52話・第53話
第51話できれいに幕を下ろした後、突然始まる次回予告。続々登場する歴代の平成ライダーとテンションの高い田口トモロヲ、そして井上正大ボイスのディケイド。おのれディケイド!クライマックスの余韻もお前によって破壊されてしまった!!!
この特別編、『ウィザード』の最終回であるはずなのに、どうしようもなく春映画、ひいては『ディケイド』のテンションで進行していく。第52話では、制作のリソースが次番組に注がれている影響か戦闘時のCGは極力配され、終盤にクロックアップが使われなくなった『カブト』の味が染みてくる。が、続く53話では響鬼紅やフォーゼロケットステイツ、ブレイドジャックフォームなどの意外な人選が最後の大花火を上げてくれる。それにしても、夏映画ではなくここが初お披露目の鎧武、佐野岳くんがすでにアフレコが上手い。
そして物語は、仮面ライダー論、というか石ノ森章太郎論へと発展してゆく。仮面ライダーと悪とは表裏一体であり、元を辿れば同じ存在であるということ。ライダーの力の源を「クロス・オブ・ファイア」と名付け、それを奪うのではなく“取り戻す”と表現する敵が現れるなど、もうやりすぎである。
ただ、このエピソードの脚本を担当したのが、惜しくも『ディケイド』のメインライターを努め、前半で降板することとなった會川昇ということを踏まえると、アマダムの掲げる思想こそが当初予定されていた『ディケイド』の敵、ひいては風呂敷の畳み方だったのではないかと、そう思ってしまう。他所様の番組で例のBGMと共に敵に説教をかますのも、不遜な通りすがりらしくて自然と飲み込めてしまう。
晴人は、この世界におけるコヨミを守ろうとし、自身が怪人になるのではという絶望を、ライダーと怪人は同じであることから、自分もライダーになれるかもしれない、と希望に転じさせた少年を救う。その少年の名は、ハルト。士の言う、「ウィザードの世界」とは、ウィザードが救った世界であり、後にウィザードになる男の世界、という意味を含んでいたのかもしれない。
それにしても、「助けて」の声を聞きつけて駆けつけたという鎧武だが、後に彼はミッチを助けるために二度も地球に戻ってくることになる。それを思うと、とても運命的なものを感じずにはいられないのだ。
『劇場版 仮面ライダーウィザード in Magic Land』
夏の劇場版。TVシリーズと連動した正史の一部とされる劇場作品も珍しくなくなってきたが、今回は異世界を舞台にした番外編に割り切っている。
舞台は、誰もが魔法を使える魔法の国。通貨は存在せず、魔力を支払うことで物の売買が行われ、ファントムが出現すれば警察だけでなく民間人もメイジに変身して戦える世界。自分(と仁藤)だけがファントムを倒せる存在として気負っていた節のある晴人も、ここなら自分の魔力を戦闘に温存せずコヨミに注げられるとして、いい世界だと評する。
だがその実態は、魔法が使えないことを世間に隠しながら生き続けることを余儀なくされたマヤ大王の孤独と鬱屈が全魔法使いを死に至らしめる凶悪な計画を推進させ、さらにそれをオーマ大臣=ドレイクファントムが新たなファントムを生み出すために利用しようとしていた。その実態を知り、全ての元凶に挑む晴人と仁藤。別世界の瞬平や凛子、晴人らに助けられた少年シイナも、余所者である二人を信じ闘う。
本来ならば、誰もが魔法を使える世界で、ただ一人魔法が使えないというマヤ大王の孤独を癒やし、彼の絶望を希望へとひっくり返すのが『ウィザード』の定石であるはずだが、尺の都合かソーサラーという強大な敵とのバトルに比重を置いたせいか、その要素は薄い。フィニッシュストライクウィザードリングの出所も不明で、勝利のカタルシスもあまり感じられない。
ただ、面影堂でお留守番をしている印象の強かったコヨミが外に出て、晴人と出歩いている場面を観ると、TVシリーズで描かれたデートのシーンを想起して、ほっこりした気持ちになる。この二人の関係性に惹かれるものがあるのなら、外せない一本なのは間違いない。
『仮面ライダーウィザード 約束の場所』
タイトルを聞いてもピンとこない方もいらっしゃるかもしれないが、こちらは恒例の冬映画『鎧武&ウィザード 天下分け目の戦国MOVIE大合戦』における、ウィザード編の名称。TVシリーズのその後を描く、もう一つの最終回と呼んで差し支えない仕上がりになっている。
コヨミの「静かに眠りたい」という希望を叶えるため、ホープリングを納める場所を世界中を旅しながら探していた晴人。そんな彼の前に現れたファントム・オーガは、自身が最強となるためにウィザードラゴンを取り込むことを企て、晴人を絶望させようと非道の作戦に乗り出していく。
数多のゲートを救ってきた晴人自身が、今度はターゲットにされるという展開。その手法も、奪ったホープリングからコヨミを再生させ、晴人がコヨミを倒すか、コヨミが街や周囲の人間を襲い続けるかという、どちらに転んでも晴人の心をズタズタに引き裂く作戦であり、オーガの『ウィザード』の物語に対する理解度の高さに戦慄する。サバトを生き抜いた晴人にとって、白い魔法使い(笛木)からコヨミを託され、彼女を守り抜くという目標が生じたことは、彼にとっても心の希望となったはずだ。
そんなコヨミが、晴人の最も望まない形で帰って来る。魔法使いとして、闘いの場に駆り出された彼女を見て、晴人の心は張り裂けそうな痛みに襲われただろう。だが、晴人はオーガの思惑をも凌駕していく。変身を解き、魔法使いの姿のままのコヨミを抱きしめる晴人。操真晴人が人間として、魔法使いとして誰かの希望で在り続けるための晴人自身の希望が、他の誰でもないコヨミだったのだ。その言葉に心を取り戻したコヨミは、再び指輪の中へ還っていく。
オーガは奥の手として、レギオンの能力を用いて直接晴人のアンダーワールドへ向かう。瞬平の指輪が起こした奇跡により、もう一人の晴人もそれを追ってアンダーワールドへ向かう。両親と別れることとなった病室、サバトの現場となった海岸、自ら死を選ぼうとしたコヨミを抱きとめた海辺。晴人の魔力の源、すなわち希望の象徴には、常に他者との繋がりがあった。
コヨミとの思い出を背景に、最後の闘いに挑むウィザード。演出やエモーショナルの方向性としては『オーズ&ダブル feat.スカル MOVIE大戦CORE』のオーズパートのクライマックスに近いものがあるが、そのリベンジの意図があるのではという気もする。晴人とコヨミの思い出に溢れた世界を、写真や実際の風景(演者による再演?)によって構築し、ウィザードがオーガに勝利するロジックへと繋げていく。最後の最後までツンデレなウィザードラゴンの愛嬌もたまらない。
『ウィザード』の物語の着地として、これ以上のものは思いつかない。晴人は、ホープリングを自分のアンダーワールドの中にいるコヨミに託す。そこが“最も落ち着ける場所“と信じて疑わない晴人も、指輪を受け取って満ち足りた表情をする奥仲麻琴さんの演技も、とにかく凄まじい。お互いが希望で在り続けた二人の関係が、例えコヨミが肉体を失っても、晴人の心の中で廻り続ける。それこそが操真晴人がこれからを生きていく希望になる。あまりの美しさに、再見した際にも涙腺が緩みっぱなしになってしまった。
『小説 仮面ライダーウィザード』
『約束の場所』が香村さんの手掛ける『ウィザード』もう一つの最終回とするのなら、きだつよし氏によるそれが本著になるだろうか。晴人の中のコヨミにホープリングを託した後、彼の前に現れたのは、もう一人の晴人だった―。
笛木の魔道具が納められていた倉庫から見つかった古代の「鏡」が、もう一人の晴人を出現させた。この晴人はあくまで“本人”であり、抑圧していた晴人の内面を反映した存在となっている。晴人が魔法使いとして、ヒーローとして在り続けるために押さえつけていたエゴのようなものを白日の元に晒していくもう一人の晴人によって、仲間たちにも緊張が走る。
常に他者の希望になるべく闘ってきた男も、すり減って摩耗していた。たとえ自分の中にコヨミがいても、彼女の空白は胸に残り続ける。その空白を埋めてくれた凛子に対して、仲間以上の感情が芽生えつつ、魔法使いという過酷な運命を背負った自分にその資格はないと、自分の気持ちに蓋をしていた晴人。凛子を一人の女性として求め、しかしその生々しい感情を隠してきたことによる破綻は、彼もまた完全無欠のヒーローなどではなく、一人の人間であることを意識させる。
本作で晴人が直面するのは、自分の弱さを受け入れる、ということ。コヨミの希望を叶える形での別れをしたとはいえ、心のどこかでコヨミを助けられたのでは?という想いがあり、それが具現化したのが漆黒の魔法使いこともう一人の晴人である。あの時の選択は正しかったのか、お前が弱かったから諦めたんじゃないかと、見ないふりしていた後悔が自分の姿と声で迫ってくる。それに取り乱し、平常心を失う晴人は、TVシリーズには見られなかった人間らしい姿であり、この小説は操真晴人=魔法使いウィザードを徹底的に追い詰めて、解体する。
そうしてぐちゃぐちゃになった晴人の心を、瞬平や輪島のおっちゃんが繋ぎ止める役目を果たす。真由や仁藤も、晴人が闘えない合間を埋めるように漆黒の魔法使いに挑む。全てを背負い込んで闘ってきた晴人の周りには、いつしかこれだけの頼れる仲間たちがいる。彼は孤独ではなかった。本作をもって『仮面ライダーウィザード』とは、一人傷つきながら闘うヒーローが、助け合える「家族」を得るまでの物語として、締めくくられてゆく。
最終決戦にて、晴人は魔法使いになってからの生き方、すなわち「絶望を受け入れて前に進んでいく」ことを己の強さとして表明し、もう一人の晴人をも受け入れていく。醜い感情も、コヨミへの後悔も、全部引っくるめて受け入れて、明日を生きていく。その歩みを祝福するように、コヨミは凛子に晴人を託し、彼の命を未来へ繋いでいく。コヨミもまた、自らの安らぎが得られる”暖かさ”を見つけられたのだ。そしてそれは、これから芽生える新たな「家族」の中にある。指輪が円を描くように、循環する人と人との繋がりの中で、コヨミは生き続けるのだ。
『仮面ライダー平成ジェネレーションズ』
新旧2作品のライダーが共闘する『MOVIE大戦』シリーズが、そのレンジを広げ『平成ジェネレーションズ』にレベルアップした記念すべき一作目に、レジェンドの一人として選ばれたのが我らが操真晴人/ウィザード。医者、高校生、刑事、神様、そして魔法使い。改めて、とんでもないパーティーが結成されてしまった。
映画そのものは何度も見返しているけれど、『約束の場所』と小説版を経た上での晴人として見ると、気負うこと無く伸び伸びと魔法使いをやれてるな、という印象を受ける。大人としての余裕、そして色気すら漂わせる晴人の存在感は、まさにレジェンド。財前美智彦らを取り押さえに来た警察官たちを魔法で避難させつつ彼らの施設に潜入。タケルと永夢を招き入れた後は、ライダーの一人として闘う。
坂本浩一監督の著書『映画監督 坂本浩一 全仕事 ~ウルトラマン・仮面ライダー・スーパー戦隊を手がける稀代の仕事師~』には本作の裏話も書かれているが、『フォーゼ』以降の自身が携わっていないウィザード・鎧武・ドライブをメインに据えつつ、おなじみの猛勉強の成果が結実したアクションシーンは何度観てもいい。『Life is SHOW TIME』に乗せて『MEGA MAX』よろしく基本4スタイルを次々と切り替えながら、宙を舞うウィザード。ついでに、バナナアームズ久しぶりの登板となった鎧武、タイプテクニックに変わる際にちゃんと動きを止めてクールになるとか、ドア銃のギミックも一瞬ながらしっかり入れてくる所、本当に信用できる。
白石隼也氏の晴人としては現状これがラストアクトなのだけれど、先輩ライダーの代表として堂々たる風格と、変わらぬキザな一面を惜しみなく披露してくれて、公開当時も思いもよらぬサプライズだったけれど、『ウィザード』を通しで観てからの『平ジェネ』のこの満足感は、何ものにも代えがたいご褒美だ。
『仮面ライダージオウ』EP07・EP08
全平成ライダーの歴史を総括し整備しようとして「出来ませんでした……なぜなら平成ライダーの歴史は芳醇なので」をやってのけたアニバーサリー問題作『ジオウ』にも、ウィザード回はもちろん存在する。そしてこちらは、永瀬匡(現:タスク)氏の仁藤攻介、ラストアクト。
まず前提として、序盤の『ジオウ』はタイムジャッカーが王として擁立させようとするアナザーライダーを倒しつつ、主人公・常磐ソウゴが後に「最低最悪の魔王」となる未来を阻止しようとゲイツやツクヨミが彼を監視し、同時にソウゴが各時代のライダーと出会いその力をライドウォッチとして継承していく旅が描かれる。アナザーライダーが生まれると原典のライダー、今回で言えば晴人や攻介がライダーだったという事実そのものが消えるのだが、その辺りは『ジオウ』本編をご参照いただきたい。
今回アナザーウィザードに選ばれたのは、早瀬という男。彼は客足の途絶えたマジックハウスで裏方として働いていたが、タイムジャッカーのウールと契約し、魔法の力を得る。魔法によるショーは評判を呼び、ハウスを再興させようと奮闘する早瀬だが、彼が思いを寄せるハウスのオーナー「お嬢さん」が結婚することを知り、怒りを募らせ彼女を襲うようになる。
今回の脚本を手掛けたのは、『ジオウ』のメインライダーである下山健人氏。『ウィザード』本編の担当実績はないものの、かなり研究を重ねての執筆であることが伺える。というのも、早瀬を『ウィザード』におけるゲートとして見なすと、大筋が読み取りやすくなるからだ。
早瀬はアナザーウィザードに選ばれてから六年間(2012→2018)、お嬢さんこと木ノ下香織(演じるのはヒートの女こと八代みなせ)への想いを胸に秘め、マジシャン長山に代わり尽力してきた。彼にとっての希望が、マジックハウスの存続であり、香織の存在である。しかし、早瀬の想いが成就しないことは、その先の未来を知っているタイムジャッカーであれば当然知っていて、それで彼を選んだことは想像に難くない。いわば早瀬は、「確実かつ簡単に絶望させられるゲート」として選ばれた節がある。
『ウィザード』はゲートとなった人物の人生に関わる物語であったが、今回は『ジオウ』ではあってもそのスタイルを踏襲した作りになっている。故に、ソウゴは晴人に代わって、早瀬に「希望」を灯す役割を果たすのである。アナザーウィザードの騒動が一段落したところで、ソウゴは時空を跨いで通話できるファイズフォンⅩを用いて2012年と2018年の早瀬を会話させる。未来の早瀬は、過去の自分にお嬢さんに想いを伝えるよう説く。
2012年の早瀬はその後、勇気を振り絞り、お嬢さんに告白する。無論、早瀬の想いが成就することはなく、その点においては何も変わらない。だが、早瀬自身が失恋という絶望を乗り越え、魔法の誘惑にも負けず未来へ歩き出すきっかけを作ったのはソウゴであり、最低最悪の魔王になるはずの彼は早瀬の未来を希望あるものへと転換させてみせたのだ。物語の着地として『ウィザード』の余韻を受け継ぎ、タイムトラベル要素を内包する『ジオウ』のギミックが、それを自分同士の会話という手法で実現させる。レジェンド俳優の存在に頼りすぎず『ウィザード』を2018年に再演する意味では、巧すぎて惚れ惚れしてしまう。
そのため、お楽しみの仁藤の客演自体は、それほどの尺を割り当てられていない。ビーストへの変身も披露されるが、あくまでライドウォッチを託すに値するかゲイツを試すための軽いもので、ウィザードライドウォッチを預けて物語からは退場する。アナザーウィザードの出現により歴史が書き換えられた世界では、キマイラに魔力を与える必要もなく、より気ままに考古学に没頭できたのかな、なんて妄想してしまう。
仮面ライダーゲイツ ウィザードアーマー、下半身にはウィザードを象徴するローブがあり、背中からは魔法陣を模したと思われる意匠の装備があって、ゲイツにゴージャスな印象を足しているのが良い。メイン武器のジカンザックスが斧状の武器なのも、アックスカリバーを彷彿とさせる。これでゲイツがXMAの殺陣を披露し、ソウゴがこれに驚く、といったシーンも観てみたかったが、それにしてはスーツが重そうだ。