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『HiGH&LOW THE WORST』はアクション映画としても青春映画としても一級品だからみんな観てくれ

ドッドパッ ドッドドッパッ

BGMです。こちらを再生しながらお楽しみください。

 かつて、『HiGH&LOW』という総合エンターテイメントがオタク界隈を騒然とさせた。EXILE主導による歌唱と不良モノが一体となった世界観、オラついた画面とそもそもの食わず嫌いにより一時は避けられていたが、明らかに常軌を逸したアクションと解像度が高すぎる漫画的世界観の三次元置換の完成度、キャラクター同士の関係性を推した画作りはかえってオタク層の琴線に刺さりやすく、瞬く間にLDHの虜となり、統率が取れていた。ある者はLIVEに参戦し、またある者は二次創作に精を出し…ハイローは着実に暴力系エンタメを好む者たちに浸透していった。(CV:立木文彦)

HiGH&LOW THE WORST とは

 『HiGH&LOW』とは、EXILE有するLDHグループがお届けする総合エンターテイメントにして、顔がよくてめちゃくちゃアクションできる俳優や歌手を総動員して不良漫画の世界をこの現実に降誕させるという凄まじいプロジェクトであり、その試みは大成功を収めている。5つのチームが支配するS.W.O.R.D.地区を舞台に、己の理想や夢を追うため、あるいは愛する街を守るために闘った若者たちの信念と拳がぶつかり合うアツい物語。

 そうした世界観を構築するため、LDHの潤沢な予算をドバドバつぎ込み、それぞれの役者が本気でキャラクターと向き合い、それぞれが持ち寄った技術と情熱を注ぎこんで一本の映像作品に収め…ようとして時に暴走したり演出過多になりすぎたりもしたが、やはり唯一無二のコンテンツになったのは言うまでもない。

 そんなシリーズの最新作『HiGH&LOW THE WORST』は、S.W.O.R.D.地区のOこと、鬼邪高校をメインとしたスピンオフ作品である。S.W.O.R.D.地区の中でも治安が悪く、「5留して一人前」の高校生(成人済み)の集団で、全国から集まった荒くれ者の巣窟となっている。そんな鬼邪高校は頂点(アタマ)を決める争いが勃発する戦国時代状態であり、生徒たちの内乱が絶えなかった。そんな中、定時制の現トップである村山は「今後一切SWORDの争いに全日制を巻き込まない」という宣言を行い、定時制と全日制は完全に分断されることに。

 統率を失った鬼邪高校。そこに現れる、最強の殺し屋軍団・鳳仙学園。不良漫画の金字塔と名高い『クローズ』『WORST』とのコラボレーションがついに実現し、頂上決戦が始まる……というのがこの『HiGH&LOW THE WORST』、通称「ザワ」である。

 と、ここまで長く語ってきたが、おれは『クローズ』『WORST』を全く知らないし、ハイローも履修してわずか一か月のLDH赤ちゃんだ。そんな赤子からここまで読んでくれたみんなにできるアドバイスは、「これまでのシリーズやWORSTを予習する必要はない」「過去作全部観てから映画館に行こう…などと思うばかり劇場公開が終わってしまうくらいなら、今すぐ観に行け」「丸腰で構わない」ということだ。信頼できるコンテンツライターのazitarou氏も同様のことを言っているから、このアドバイスは信用していい。今すぐ映画館に行け。

アクション映画としてのザワ

 ハイローのいいところは、「出し惜しみが無い」ということに尽きると思っている。TVシリーズの頃から、その時々で出来ること、やりたいことを全力でやり切ること。キャスト・スタッフの熱量が画面から伝わってこそのハイローであり、役者のアドリブや現場のライブ感によって形作られていくキャラクター像や殺陣の構築がハイローを人気コンテンツに押し上げたといっても過言ではないだろう。

 そうした姿勢がとくに反映されるのがアクション面である。ハイローシリーズは、TVシリーズの時点で邦画としては規格外のアクションを披露してきた。RUDE BOYSのパルクールに500人を総動員した大乱闘戦などがいい例で、物量と役者の身体能力で物言わせないスタイルがLDHマネーの証であった。

 本作では村山VS轟といったタイマンから、鬼邪高VS鳳仙の乱闘まで、対決のバリエーションが細かく用意されている。極めつけはクライマックス、「団地」というロケーションを活かした、歴史大作でしかお目に掛かれないような攻城戦が繰り広げられる。その場にあった物を活かす系のアクションにせよ、ここまで身近なものしか登場しないアクションがあっただろうか。日本アクション史に名を刻む前代未聞のバトルは、ご自身の目で確かめていただきたい。

 さて、不良漫画の実写版といえば殴る蹴るの応酬で、画面も役者の寄りがメインだったりする場合が多いが、ハイローはもはや「銃を使わなければ何でもいい」くらいのフリースタイルで、プロレス技や大跳躍からのキックなどやりたい放題。それを引きのショットで捉えたり、ドローンを用いての空撮、あるいはカメラマン自体をワイヤーで吊って撮影することで、これまでの邦画では観たことのないアングルでのアクションが楽しめる。最近の流行であるワンカット長回し手法をとっても、本作のそれは段違い。百人を越える人数が闘うシーンでもカメラと役者が接触せず、それでいて観客が動作をじっくり見られるよう近距離で迫力のある絵を撮り続ける。一見粗暴に見えて計算され尽くしたアクションシーンの完成度は、やはり突出した出来栄えである。

 また、ハイローにおけるバトルシーンは特撮の文法で創り上げられており、活躍するチームのテーマソングや見得のカット、助っ人乱入の絶妙なタイミングが合わさって、盛り上がりは常に最高潮。オタクが悦ぶツボを熟知した、おそらく同類がスタッフにいる(たぶんHIRO大先生)ことは確定的に明らかなので、日曜朝に早起きするタイプの人は絶対ハイローが刺さります。観に行こう。

青春映画としてのザワ

 ここからは、ややシリーズファンに向けたお話。ネタバレは避けるが、事前の知識はこれ以上必要ないから、気になったら今すぐにでも席を予約してほしい。

 本作の物語は、花岡楓士雄が鬼邪高校全日制に戻ってきたことで幕を開ける。この楓士雄という男、正統派すぎるくらいに漫画の主人公タイプで、「(もっと強いヤツがいると聞いて)ワクワクするな~」とか言っちゃう男の子。しかし、その真っ直ぐさや胸に秘めた信念が、いつしか彼を鬼邪高全日のトップに押し上げていく。

 過去作を予習する必要はないと言ってはみたものの、時間に余裕がある方は前日譚ドラマ『EPISODE.O』だけは目を通しておいてほしい。鬼邪高戦国時代を戦い抜くことになるキャラクターたちのことを知れば、本作がより楽しめることは間違いない。Huluで配信中だ。

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 そのエピソードの中で楓士雄は、愛する祖父との別れを経験している。目標も夢もなく、ただのんびりと日常を謳歌していた楓士雄は、祖父から「井の中の蛙大海を知らず」のことわざを学び、何でもいいから自分がトップになること、その情熱を思い出し、鬼邪高に帰ってくる。そうしたバックストーリーがあるからこそ、楓士雄が鬼邪高を引っ張っていく展開に胸が熱くなるし、彼の人情に厚く優しい心の持ち主という一面は、「人望」という見える形で集約されていく。

 一方で、ハイローにおいては最強がリーダーとして最高であることは決してイコールではない。それを象徴するのが轟洋介という男である。間違いなく鬼邪高のトップを狙える実力の持ち主でありながら、村山に一度も勝つことが出来ず、クールで独善的な性格ゆえに慕う者も少ない。轟はボスにはなれるが、リーダーにはなれない。そんな限界に直面した轟を変えるのが、楓士雄という男である。鬼邪高に舞い戻った風雲児は、止まってしまった轟の価値観に風穴を開ける―という読み解きができるの、純粋にアツくて最高。

 そうしたアタマ争いから一抜けしちゃったのが、定時制トップの村山良樹その人である。本作において、鬼邪高のトップを狙うという行為はハッキリと「ガキ」の行いであると断言されてしまう。社会とは鬼邪高の外にあって、大人になるためにはその社会との関わりあいを避けられない。すなわち、いつまでも同じ場所にはいられない、ということ。これはハイローシリーズが一貫して掲げる価値観に繋がるもので、永遠のものなど存在せず、変わり続けることを肯定し、その背中を押す物語が常に根底にあった(そのことを受け入れられなかったのが琥珀さんである)。村山は、九龍との闘いでその事を学び、鬼邪高に在籍し続けることでは何も進まないことを、悟ってしまったのである。

 留年が当たり前とはいえ、鬼邪高校も立派な高校であり、いつかは「卒業」するものである。それはそのまま、俳優・山田裕貴の『HiGH&LOW』からの卒業を意味することになる。すでに村山は労働で対価を得ることを経験し、喧嘩の強さが自らの立ち位置を保証することにはならない世界を知りつつあった。少しでも大人になろうともがき、苦労しながらも先輩との絆や大人の世界に触れ成長していく。そんな中、「レッドラム」の蔓延を知り、九龍に関わったケジメとして最後の喧嘩に挑む。かつての日々を懐かしむように、いつもの調子で定時制を率いて参戦するも、この闘いこそ村山良樹最後の花道である。

 いつまでもこのままではいられない、だからこそ出来るだけ派手に、仁義を通して、後輩へ道を譲る。シリーズを初期から支えてきた先輩からのエールを受けて、若手俳優たちが思う存分に決闘へ繰り出す様子が、こんなにも涙を誘うとは。こんな素敵な先輩がいてくれて、鬼邪高は本当に最高です。

結論:ザワを観ろ

 まだまだ言い足りないことがあるし、肝心の鳳仙についてまったく文字数を割いていないが、それはもう小田島に堕ちたオタクの皆さんに任せます。決して完璧とは言えないし、荒削りなところも多いが、過去作に比べてめちゃくちゃ「映画」としての語り口が改善されているし、何より盛り上がりの瞬間最大風速に関しては全エンタメの中でも最高クラスの一作に仕上がっているのは間違いない。

 『HiGH&LOW THE WORST』は少しでもアクションや特撮に親しみがあるなら観るべきだし、食わず嫌いで見送るには大変惜しい一作だ。これを大スクリーンで浴びれるのはハッキリ言って精神衛生上良すぎるので、四の五の言わず観に行ってほしい。どうしても萌え語りとかアクション談義がしたくなったら、おれが付き合うから、頼むからザワを観てくれ。

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