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コイツが堕ちればアメリカはもう駄目。『エンド・オブ・ステイツ』

 みんな大好きマイク・バニングが帰ってきた。『エンド・オブ・ホワイトハウス』『エンド・オブ・キングダム』と二度に渡りアメリカ大統領の命と国家の危機を救った最強のシークレットサービス。ジェラルド・バトラーにとってもレオニダスに続く当たり役として、その無茶苦茶すぎる強さと犯人への「脅し」のキラーワードが映画ファンの心を掴んで離さない。

 ところで、本作の原題は『Angel Has Fallen』とのことで、じゃあ天使って誰さと言えば、もちろんこの男のこと。なんとも物騒な天使である。

 そんなわけで、ついに敵の標的が国ではなくマイク・バニング個人へと移った本作。マイク自身もこれまでの激闘の後遺症から目まいや偏頭痛に襲われており、最も弱った状態が描かれる。その上、アーロン・エッカート演じるベンジャミン・アッシャー大統領は任期を終えたのか本作には登場せず、副大統領だったトランブルが大統領に就任しており、シリーズファンからすればマイク自身のモチベーションが低下していないか、心配になってしまう。

 だが、それらは全て杞憂であることが段々明らかになっていく。マイクは敵を殺す度に元気になっていくし、前半しつこく表れていた後遺症もどうやらすっかり治ったご様子。おまけに、トランブル大統領との関係性も良好で、いくら容疑者扱いされたところで大統領の信頼を勝ち得ているマイクはアメリカ国内において無敵である。むしろ大統領の盾になる必要のないシチュエーションが多い分自由に暴れまわれるので、実質ノーハンデの状態で敵を銃殺し刺殺していく。マイクが強すぎるあまりサスペンスが成り立たないのは本シリーズのお約束なので、安心して観ていられる。

 とはいえ、敵の殺意も並々ならぬものである。冒頭から大量の小型ドローンによる爆撃でシークレットサービスを無慈悲に爆殺するのだが、その火力・破壊力は尋常ではなく、「今後戦争の主体はドローンになっていく」という評論家の予想も頷けるレベルの大虐殺。前2作と比べて大規模なロケーションが無くなり予算低下を感じさせるが、その分CGよりも火薬に予算をつぎ込んだのか、ちょっとどうかと思うレベルで川岸が爆破されていく襲撃シーンは物凄いことになっている。

 ドローンと訓練された兵士による一対多の闘いを強いられるマイク、ついに敗北か―と思われたその時、まさかの人物が参戦する。マイクの父親である。

 名優ニック・ノルディが白ひげたっぷりに演じるクレイ・バニングという男、かつての従軍経験で心を病み音信不通となっていたらしく、久しぶりの親子再会となるのだが、それを邪魔する追手をどう排除するかといえば爆殺である。いったいなんのためにそんなことをしたのか、心を病んだばかりに誰かに襲われる強迫観念が働いたのか、あらかじめ森中に仕込んであった爆弾を加減なくぶっ放し、森林破壊もいとわぬ大爆殺シーンにお目に掛かれる。

 それにしても、「マイク・バニング」という最強の国防兵器への信頼度は本作でもうなぎ登りだ。FBI総動員で追いかけていたのに大統領との-KIZUNA-によってあっさり無罪放免となり、いきなり大統領防衛の指揮を執りだすマイク。すると誰もが彼への態度を一変させ、「コイツがいれば安心」みたいな空気感が漂うのも面白い。

 実際、今回の敵の中でマイクに一矢報いたキャラクターは皆無だったため、彼がいなければ大統領は殺され米国はロシアとの戦争に突入していたことになる。すでに大統領の命だけでなく、米露合せて数億人の命がマイク一人の肩に背負わされている。マイク無しではアメリカはもちろん、世界が危ぶまれるレベルにまで達しているのだ。……ってこの話どこかで観たなと思ったら、今年公開の『ハンターキラー』がありましたね。米露、しょっちゅう全面戦争の危機に瀕するので、心配になってきた。

 爆弾じじいによる度を越した大爆発、そして相変わらず強すぎるシークレットサービスのマイクと、ジャンル映画としてのお楽しみをきっちり盛り込みつつ、人間マイク・バニングの過去や葛藤に焦点を当てるなど、新たな試みがなされた本作。暗闇のシーンが多く観づらいしアクションのカット割りなど気になる点も多いが、クライマックスでは大統領とマイクが別行動のまま籠城戦というシチュエーションもあり、ようやくこのシリーズでハラハラさせられる展開が楽しめる。

 どうやら作り手もシリーズを継続する意思があるらしく、マイク・バニングとも近いうちに再会できるだろう。次に堕ちるFallenのはなにか、とても楽しみだ。

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