最後まで演じきれるか。『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』
『ゴールド・ボーイ』『ラストマイル』と、2024年は岡田将生の年(ご結婚おめでとうございます!!)だったわけだが、もう一人、彼に熱視線を送る映画監督がいた。『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督である。
いやぁ、岡田将生さん、ここ最近、ダーティで薄汚れたキャラクターもノリノリで演じられて超最高っていうか、「自分の顔が良いことも織り込み済みで振る舞うちょっと軽薄に見えるが実は奥深いキャラクター」を演じると、色気が増していいなァ、って思うんですよ。ハイ。
ちなみにこちら、原作はマ・ドンソク主演の韓国ドラマ『元カレは天才詐欺師 〜38師機動隊〜』で、岡田将生が演じた天才詐欺師役は、原作だと『オオカミ狩り』の極悪非道な犯罪者ジョンドウ役を演じたソ・イングクさんでした。つまり『オオカミ狩り』を日本でリメイクするとしたらAKIRAさんと岡田将生のW主演映画になります。観たいですよね。殺した相手にとてもここでは書けないような尊厳破壊行為をする岡田将生の殺人鬼。
すみません、本題に入ります。
公務員と詐欺師が手を組んで、脱税王を騙す。ラストに打ち上げシーンがあるように、本作は初期の『ワイルド・スピード』を彷彿とさせるカラッとした陽性なタッチで全編楽しめる。『オーシャンズ』ほどにゴージャスではない、というところもポイントかもしれない。
上田監督作の中でもかつてない程の豪華俳優陣が揃う本作は、「演じて騙す」が商売の詐欺師ならではの、芸達者揃い。とくに、真面目な税務署職員にして主人公の熊沢を演じる内野聖陽の、怒りを内に留めて笑顔を貼り付けたような表情を見せるシーンは、絶品だった。屈辱的な仕打ちを受け、しかし家族や生活のことを考えて、グッと堪える。そんなパパも、家庭では頼りなく慕われてもいないのだが、詐欺師グループと出会い自身も“騙す側”へ転じることで活力を取り戻し、充実感に満たされていく過程を表現している。まさに、演技力一本勝負だ。
脱税王・橘に逆襲するために上流階級の人間の“フリ”が様になっていく熊沢はもちろんのこと、元役者という設定でどんな人物にもなりきれる役に森川葵、普段はカタギではないのにビシッとスーツを着こなして商談に応じる真矢ミキなど、普段の姿と詐欺を実行する際の落差が目に楽しい。そして岡田将生演じる氷室は、その甘いマスクと誠実そうな見た目を武器に、若手の不動産会社社員に華麗に転身。作中の台詞にある通り、イケメンというのは詐欺においても有利なのかもしれない、とそう思ってしまう。
架空のキャラクターを演じ、現実の人間を騙す。ちょうど『地面師たち』が好評を博したこともあり、地面師詐欺の仕組みが大勢に知れ渡った上での公開タイミングというラッキーにも恵まれ、氷室をリーダーとするチームは橘を、観客を、そして時には味方をも欺き、華麗に勝利する。その背景には復讐、つまりは「怒り」が込められていて、理不尽にはやり返してもいいというメッセージや、不正がキッチリ暴かれ観る者の溜飲を下げてくれるところには『半沢直樹』のDNAもあり、観客を笑顔で送り出してくれるところは上田監督の持ち味と言っていいのかもしれない。
『カメラを止めるな!』がそうであったように、演じること、つまりは「虚構」を最後まで演じきった者が報われ、幸せを掴む。『スペシャルアクターズ』も題名の通り演じることが主題であり、詐欺師を題材にした今作も姉妹作のように、これらの作品と同じ棚に収まるだろう。 演じることの力を信じ、演じることで救われる人物を描き続ける。それは、ホームレスになるほどに様々な苦難を経験し、それでも映画監督になることを諦めきれなかった上田慎一郎監督にとっての人生をかけたテーマなのだろう。
次はどんな俳優の「名演」を届けてくれるだろうか。今からとても楽しみだ。