いま最もアツいユニバースに乗り遅れるな。『PATHAAN/パターン』を観てくれ。
インド映画のいい所は、「スターを立てる」ということに全力投球である点だと思う。見目麗しくて、筋骨隆々で、整った顔立ちのスターが、どのように動けば映えるか、より魅力的に感じられるかを、映画に携わった全員が分析し、それをフィルムに焼き付けんとする。インド映画を観れば好きな俳優がどんどん増えてしまうのは、致し方ない、ということなのだろう。
というわけで
うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
つい先日まで『K.G.F』のYash兄貴に萌え萌えしていたのだが、今回改めて「顔が良い……??顔が良い……」となってしまったのが、本作で主演を務めるシャー・ルク・カーンである。サルマーン・カーン、アーミル・カーンと並んで3強と彼が称されているのはインド映画ファンなら最初に習う基礎中の基礎だが、4年ぶりの主演作となる本作を観て再確認するのはその圧倒的な「華」である。
御年57歳にもかかわらずイケイケの水着美女と並んでも違和感を覚えさせない若々しいご尊顔は“甘いマスク”のwikiがあれば事例として写真を載せたくなるし、折り目正しく整った腹筋は収納棚の多い新品の家具のようだ。何を言っているかわからないと思うかもしれないが、それくらい彼の腹筋は“整い”が凄くて、作り物のようにすら錯覚するほどにシックスパックが美しく整列している。基本的に彼が着るシャツはボタンが最上部まで閉じられることはほとんどないし、長髪を結った姿のなんとも言えぬ艶めかしさに笑ってしまう。これは持論だが、今作でのカーン兄貴の出で立ちは「よりセクシーになったジェイソン・モモア」を思わせる。ジェイソン・モモアは元よりセクシーな男だが、その配分をより過激にするとこうなるのかもしれない。ちょっとギャルっぽい装いが出てくるところも共通している。
過剰な色気を撒き散らしながら世界を救うパターンことシャー・ルク・カーンだが、他のキャストも魅力的だ。この世で最高の映画の一つであるところの『トリプルX:再起動』にも出演したディーピカー・パードゥコーンは多彩なアクションとダンスシーンの双方でもう一人の主演と呼べるほど活躍し、本国でもセクシーすぎると評判だったダンスシーンではカーン兄貴と彼女の鼠径部がIMAXの特大スクリーンで繰り広げられるため、とても凄いことになっていた。
宿敵ジムを演じるジョン・エイブラハムも、これまた鍛え抜かれたボディがつい目を奪う、タイトルロールに負けず劣らずの存在感を放つ。実に悪役映えする、イイ顔の俳優さんだ。こうしてどんどん「好きな顔」が増えていくのがインド映画を観る楽しみだったりする。
忘れてはならないのが、本作の監督がシッダールト・アーナンドである、ということだ。今年も監督作の一つ『バンバン!』が数年の時を経て日本公開され話題を呼んだが、私の言い方だと「夢女製造機」「○○とデートなうの名匠」がしっくりくる。本作とも同一ユニバースでありリティク・ローシャンを心に縫い付けられた名作『WAR ウォー!!』に続き、シャー・ルク・カーンをいかに魅力的に撮るか、あるいはシャー・ルク・カーンに見惚れる者の視点を巧みな計算の元に打ち出した本作の映像やシチュエーションに、クラクラするような陶酔が得られるはずだ。ちなみに次回作は“再びリティク・ローシャン、ディーピカー・パードゥコーンと組んだ『Fighter』で、インドで2024年1月公開予定。”らしい。たすけてくれ。
さり気なく「ユニバース」という言葉を用いたが、実は本作、とある壮大な映画ユニバースの内包される一作であり、後付とはいえそのクロスオーバーを本格化させた一作でもある。
インドでも最大規模とされる映画スタジオ「Yash Raj Films」は、これまで製作したスパイ映画をシェアード・ユニバース化すると発表。「YRFスパイ・ユニバース」と呼ばれるそれは、2012年『タイガー 伝説のスパイ』とその続編『Tiger Zinda Hai』、前述の『WAR ウォー!!』を束ね、本作『PATHAAN/パターン』で本格始動。今後も複数の作品が予定されており、タイガー、パターン、カビールという伝説のスパイが「RAW」という諜報機関に集い悪と闘う、かなり大掛かりな展開が水面下で進行している。
本作中にも意味深に口ずさまれる「タイガー」「カビール」といった名称は、本作単体では意味がわからず、その意味では事前知識を要するため不親切とは言えるのかもしれない。ただ、知ってさえいればこれほどにワクワクさせてくれる企画はこの世にないだろう。MCUを経てユニバースに慣れきった身体に、サルマーン・カーン、シャー・ルク・カーン、リティク・ローシャンと顔のいい男三つ巴のスパイ映画が今後何作か拝める、ということだ。全世界に夢女を量産しながら肥大化してきた本作が、より巨大化して数年構想のユニバースとして我々の元に供給される。
それらを日本語字幕のついた映像をスクリーンで、かつ本国からなるべく遅れずに観られる国にするためには、まずは本作がヒットしてもらわなければならない。ここまでほとんど映画の物語に触れずダラダラと2,200文字を費やしてきたが、要は今回の陳情は「パターンを観てくれ」ということだ。これ以上の事前知識は不要、スパイ映画の名作は『ミッション・インポッシブル』のみにあらずということを、大スクリーンで体感してほしい。荒唐無稽さと主演の華を兼ね備えたスパイ映画ということで、往年の『007』が恋しい方にもきっと肌に馴染むはずである。お願いだから、パターンを観てくれ。数年後に訪れるであろうスパイ版アベンジャーズが大ヒットする時に古参顔するチャンスだ。乗り遅れるな、このビッグチャンスに。