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観た映画の話『シャイロックの子供たち』『WORTH 命の値段』『アントマン&ワスプ クアントマニア』

 久しぶりに複数の作品を劇場でハシゴしたので、備忘録として。
 ※それぞれネタバレを含みます。

『シャイロックの子供たち』

 もうすでに「池井戸潤」がジャンル名になったような浸透具合を感じます。シュワルツェネッガーとかセガール映画みたいに、倒すべき悪い奴がいて、そいつ等を一網打尽にしてスッキリさせてくれるだろう、というジャンル映画のお約束への期待。

 ところが、本作は『半沢直樹』『七つの会議』のような水戸黄門型エンターテインメントというよりは、むしろ監督×原作者のタッグとしては前作にあたる『空飛ぶタイヤ』寄り。ただ悪い奴を倒せば終わりという話ではなく、一つの不正が会社組織(今作であれば銀行)のルールや習慣の不完全さ、人間の弱さを浮き彫りにし、最終的には誰もが綺麗な身ではいられなくなるという、身も蓋もない「リアル」を描いた作品。その普遍性ゆえに、鑑賞中ずっと胃が痛くなるような、厭な悪寒が付きまとう羽目に。 

 きっかけは、100万円の現金紛失事件から。観客には犯人が誰か、動機が何なのかは早々に明かされるためミステリーではなくサスペンスなのだけれど、札束を束ねる帯紐が思いもよらぬ使われ方をすることで銀行という狭い世界の中で生じる人間関係の歪みが顕在化する、序盤から中盤にかけての地獄っぷりが凄い。この時点でかなりお腹が痛いのに、一つの不正を隠すために嘘を重ねていき、次第に崖際に追い詰められるエリート行員役の佐藤隆太さんに冷や汗は止まらないし、その裏でひっそりと精神を崩していく忍成修吾さん演じる若手融資担当はとてもビターな結末を迎える。銀行も融資という名の「商品」の売上に一喜一憂しなければならない、サラリーマン社会と一切変わらないという実態が描かれる。

 そんな中、探偵役にして主役たる阿部サダヲ演じる西木も、その身が潔白ではない、という背景もアンチ『半沢』の大きな要因になっている。常に融資先にベストな選択をしつつ銀行内に巣くう悪に「倍返し」するのが半沢なら、自分がもうその座に戻れないと知っているからこそ「真の銀行マン」がどうあるべきかを知り、そこから転落した者にそれを諭すかのような姿勢を見せ、飄々としたキャラクターにも哀愁を感じさせるのが西木。人懐っこい優しさゆえに破滅していく西木は最後の良心として銀行の浄化に動くも、結果としては彼も耐震偽造の建物を横流しして利益を得たに過ぎず、そこから分け前を貰った時点で彼もまた銀行員ではいられなくなっていく。勝ったのに後味は苦く、俺は銀行員にはなれないな、という意識を改めて抱くことになった。サラリーマン的な「忖度」のリスクが、尋常じゃないもん。

『WORTH 命の値段』

 続いては、またしてもお金にまつわる映画。2001年9月11日の同時多発テロに際し、被害者に対する補償金の算出を請け負った弁護士ケン・ファインバーグの実話を基にした作品で、主演はマイケル・キートン。

 これ、凄く難しい話で、アメリカ政府としては「航空会社が訴訟を受けるリスクを防がなければならない」、被害者サイドは「生活が立ち行かないから早々に補償金が必要」という対立軸を当初想定していたのだけれど、次第に「後遺症が発症するタイミングがまちまち」「州によっては同性愛が認められないので補償金が受け取れない」「お金よりも夫の最期や安全の不備について公表してほしい」などなど、制度の不備と個々人の要望が降りかかってくる。なればこそ画一的なルールを厳守する必要があるというファインバーグに対し、面談を担当する部下との人道的なすれ違いが明確化してくる。

 対象者が多く、前例もない。そんな状況だからこそ、迷わないためにルールが必要というファインバーグの考えもまっとうだし、とはいえ収入や地位によって補償金が異なるという冷酷な仕組みに対する拒否反応もわかる。そのため映画全体が、答えのない禅問答をずっと繰り返すような内容になっている。結論としてはルールを捻じ曲げても被害者の立場に寄り添って柔軟に補償内容を決めることを決断したファインバーグの心変わりを描くのだけれど、現場レベルとしては地獄よな……という徳の低い感想しか出てこない。本当に頭が下がります。

『アントマン&ワスプ クアントマニア』

 みんな大好きMCUのフェイズ5の幕開けにして、今後のアベンジャーズの宿敵たる征服者カーンの顔見せ興行。『アントマン』シリーズはMCUの中でも箸休め的な、いい意味で小さい話をしている前2作だったけれど、今回は舞台がずっと量子世界だし敵が敵だしととにかくスケールが大きいのが特徴。

 それが面白いのか?と言われると、なんとも不思議な気持ちが去来してくる。量子世界の摩訶不思議な見た目としての面白さ、どこか『スターウォーズ』っぽいシチュエーション、ポール・ラッドのとぼけた表情から繰り出されるユーモアと、平均値は高い。その一方で突き抜けたものがないというか、カーンとマルチバースに関する説明に時間をとられ『アントマン』的な身体を縮める/大きくすることのワンダーが目減りしていて、あれは日常風景の中で起きるからこそ面白いんだな、という発見がある。それと、ルイス役マイケル・ペーニャの不在はあまりに痛手じゃないでしょうか。

 あとはまぁ、知識不足ゆえに言及すべき資格はないと思うのですけれど、スコットの娘キャシーが最初投獄される羽目になったのは「ホームレス立ち退きに対する抗議」が前提としてあって、カーンによって故郷を奪われた民が量子世界にて登場するのは近頃のMCUが得意とする社会問題とエンターテインメントとの融合の部分なのだけれど、征服者=弾圧する者が黒人のジョナサン・メジャース、そこから人々を救うのは白人のポール・ラッドという構図、なんか誤解を生みそうだな……という要らぬ心配を抱きました。この問題を肌の色に帰因して語る時点で私の中にも無意識的な差別意識があるのかもしれないな……。


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