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『仮面ライダー 平成ジェネレーションズFINAL』迸る愛で語る、平成二期ライダー圧巻の総括。

 “平成”が終わる―。天皇陛下の退位も19年4月末と決まり、時代の大きな変化を余儀なくされる今、元号の変化を最も意識させた映画が本作である。一つの時代の転換期を前に、移りゆく恐怖と正義の姿を描き続けてきた平成ライダーシリーズ。その総力を結集し、今考え得る最高のクロスオーバーが実現した『平成ジェネレーションズFINAL』は、私のような一ファンにとっても最高のクリスマスプレゼントだった。


【レジェンドライダー、集結!】

 新旧2大ライダーが共闘する、冬の恒例行事『MOVIE大戦』シリーズ。その流れを汲んで2016年冬に公開された前作『平成ジェネレーションズ』では、“旧”の範囲を広げてより以前の作品からもライダーを演じた俳優が復活し、現行ライダーと共演を果たす新機軸が採用された。そして、2作目にして奇しくも『FINAL』と銘打たれた本作では、昨年を超える豪華キャストがライダーの現場に復活する。

 仮面ライダーゴースト=西銘駿、仮面ライダー鎧武=佐野岳、仮面ライダーフォーゼ=福士蒼汰、仮面ライダーオーズ=渡部秀、そしてアンク=三浦涼介。二度とライダーを演じることはないだろうとファンが諦めるほどにスターになったレジェンド俳優たちの復活。長年シリーズを追いかけてきたファンにとっては、出演陣の発表の時点で100点満点を叩き出すほどの異例の事態であり、その歓喜を物語るこの動画はいつ観ても涙ぐんでしまう。

 中でも別格の扱いを受けているのは『オーズ』の火野映司とアンクの関係性の描写であることは、すでに鑑賞された方なら異論はないだろう。TVシリーズ最終話で消滅したアンクの復活は、2011年公開の『MOVIE大戦MEGAMAX』一回こっきりの“禁じ手”と言ってもいいほどにデリケートな案件。ファンの注目を集める反面、下手すればあの最終回の感動を無に帰してしまう、もろ刃の剣であった。

 しかし結果から申せば、その不安も杞憂であった。何せ、渡部秀という世界最強の仮面ライダーオーズオタクが三浦涼介の参加を希望し、アンク関連のシーンにはかなりこだわり抜いたであろう、針の穴に糸を通すかのような繊細な仕上がりに、涙せずにはいられなかった。「手を掴む」という作品を象徴する動作を主軸に、TVシリーズ最終話の立場を逆転させた「映司がアンクを救う」復活シーンでは、映像の美しさや演者の技量とが幾重にも重なり、観ている者に有無を言わせぬ説得力を与えていた。

──何よりです。ではまずこの「仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー」で、渡部さん演じる仮面ライダーオーズ / 火野映司と、三浦さん扮するアンクが復活するに至った経緯を伺えればと思います。レジェンドライダーキャストの復活は、各プロデューサーからのオファーで実現したのでしょうか?

渡部 もちろん僕やほかの方々はプロデューサーさんからお話が来てると思うんですけど、りょんくんに対しては僕から直接お願いしました。先日、共通の知人の結婚式用のビデオを撮るために、僕とりょんくんと高橋(一浩)プロデューサーが焼肉屋に集まったんです。そのときにオーズ復活の話をいただいたので、「りょんくんも出ちゃいなよ」って言って。その場ではまだ本格的な話ではなかったんですが、その晩にりょんくんに本気でメールしました。

──やはりお一人で出演するよりは2人一緒に、という思いが強かったのでしょうか。

渡部 単純な話、りょんくんがいないとオーズじゃないので。それだけですね。僕1人で映画に出ることはもちろん可能なんですけど、ファンの方はやっぱり2人で並ぶ姿を一番楽しみにしてくださっていると思うんです。僕もそれに応えたかった。映司の横にはいつもアンクがいたので、自然な流れでした。考えることもなく、当たり前のように僕からお誘いしました。

三浦 そういう思いでいてくれたのは、純粋にすごくうれしかったですね。このご時世ですから、自分たちがやりたいと思ってもそううまく進んでいくものばかりではないと思いますし。メールをもらってからも、まあ期待はしつつ、半分は「いつかはできればいいな」っていう思いでもあって。ただそれからはわりと速いスピードで話が進んで、制作側から正式にオファーもいただきました。

「仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL」特集 「仮面ライダーオーズ / OOO」渡部秀×三浦涼介インタビュー

 『オーズ』に注がれた愛の密度、ファンへの配慮の度合いは過去類を見ないほどで、メインターゲットが幼児であるとするなら、現行ライダーの劇場版にて6年前に完結した作品の描写にここまで注力してしまう構成は、少々歪に思わなくもない。しかしそれは、「アンクの復活」をいかに観客に納得させるか、原作の余韻を壊さずに“一度きりの奇跡”を実現させるか、その全てに全力投球した結果の現れであり、“大きいお友達”として、ここまで考え抜かれたものをお出しされては、もう抗えない。生理的に泣かされ、胸が熱くなる。ライダー映画史上、ここまで愛の詰まった喜ばしい一作は、過去類を見なかった。

 その他のレジェンドライダーの描写にも力が入っており、先輩ライダーとしての風格漂わせるタケル、人間だったころの陽気な表情が懐かしい“始まりの男”紘汰、学生から教師に成長しても変わらぬ笑顔を見せてくれる弦太朗。本映画が各作品の後日談として成立するよう設定も練られており、これまでは割とないがしろにされがちだった整合性にまで行き届いた構成にも、強いライダー愛を感じてしまう。

【ビルドのMystery!!】

 放送終了から6年後に訪れた『オーズ』もう一つの最終回としての側面がどうしても目立つ本作だが、現在放送の『ビルド』とも密接にリンク。火星から持ち運ばれたパンドラボックスから発生したスカイウォールによって三つに分断された『ビルド』世界の日本。これまでは緩いつながり(強調はされないものの劇場版などでは同じ世界観として描かれていた)が示された『W』~『エグゼイド』の世界とは相いれようもない設定が敷かれており、クロスオーバーには何らかのギミックが必要となる。

 そこで本作ではパラレルワールドの設定を加え『ビルド』と『エグゼイド』の地球が異なる世界観であることを明言しつつも、『エグゼイド』のTVシリーズや劇場版(17年夏公開の『トゥルーエンディング』)に先行登場したビルドの正体を解き明かすミステリーを描く、という珍しい構成を採用。商業的な要請で用意されたであろう客演シーンが正史として謎解きの鍵となる展開、コラボ的な意味合いの変身用アイテムが逆転の切り札になるような敵の設定など、過去のクロスオーバーお祭り映画では無視されてきた整合性を正しく意識した物語も、実に興味深い。

 そしてそれは、『ビルド』の主人公である桐生戦兎の失われた記憶やその正体とも関係しており、今後TVシリーズで明かされるであろう謎の一端が、本作にて先だってお披露目される。昨年の『平成ジェネレーション』における『エグゼイド』の主人公・宝生永夢の秘密が先行して明かされる、という触れ込みを彷彿とさせる大胆な仕掛け。『エグゼイド』から『ビルド』に二作連続の続投となる大森敬仁プロデューサーだからこそ実現した、映画ならではのサプライズも映画館に駆けつけたファンへの“お土産”として手渡されることに。

【正義の心を正しく継承する物語】

 もう一つの『ビルド』とのリンク、それは「なぜ仮面ライダーとして闘うのか」を問い直す本作の物語。『ビルド』14話と15話の間として設定された本作では、仮面ライダークローズになったばかりの万丈龍我が、ライダーとして闘う理由に悩む過程が描かれる。殺人犯の汚名を着せられ、ある意味なし崩しでライダーになった万丈は、自分ではなく他人のために命をかけて闘う動機を持ち合わせてはいない。

 そんな万丈が先輩の背中を見て学び、自ら“仮面ライダー”クローズを名乗る一連の流れは、王道にしてアツい。そしてその過程は、レジェンドライダーが経験した過去の闘い、ひいては「なぜ仮面ライダーになるのか」に想いを馳せる、ある種の走馬灯が観客の脳裏を巡る展開へとシフトする。

 命を守るために手を伸ばす『オーズ』、大切なダチを守る『フォーゼ』、生まれた星の危機を救うために帰ってきた『鎧武』、大切な人の命と心を守りきった『ゴースト』、医者として患者の命と心を救い続ける『エグゼイド』。彼らが何のために「駆けつけた」のか、なぜ闘い続けたのか。その想いはシリーズファンの心に刻まれており、万丈が奮い立つシーンはヒーローという存在の絶対的な肯定に他ならない。平成ライダーの総決算でありながら、ヒーロー論として一つの回答を示すことで、初期の作品群とは違ったライダー像を提示し続けてきた平成二期の“陽性”を肯定する、見事な総括を見せつけてきた。ただのファンサービス一辺倒の映画ならず、豪華キャストの復活も、全てはこのためだったのだ。

【最後に】

 お祭り映画としてのゴージャス感を保ちつつ、登場するキャラクター全てにリスペクトと愛を投じ、観客の涙腺のダムにライダーキックを喰らわせる、仮面ライダー映画史上最も泣ける大傑作。一本の映画として緩い部分も多く、不自然な台詞の流れや物足りない点も目立つし、同じくヒーローのクロスオーバーといえば『アベンジャーズ』を有するMCUがトップを独走しており、バジェットやスケールにおいては天と地の差が存在する。それでも、込められた情熱とこだわりが観る者を熱くさせ、平成ライダーの一つの区切りとして二度とない奇跡を最高の形で実現してくれた本作の粗を、列挙して貶すような真似は、私にはできない。

 一人のライダーファンとして、この映画に対する感情は「感謝」、それのみである。ライダーを愛し続けてくれてありがとう、過去の出演作を大切にしてくれてありがとう。二度とない奇跡に立ち会わせてくれて、本当に、本当にありがとう。エンドロールを見送り劇場に明かりが灯る時、涙でぐしゃぐしゃになった顔をハンカチで拭いながら、平成ライダーを愛してきたことを肯定されたようで、なぜだか誇らしくてたまらない。好きなものを好きで居続けた歴史そのものがバフとなって連鎖的な感動を引き起こす本作は、自分が生きてきた時代を象徴する一本として、これからも見返すことになるだろう。

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