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『仮面ライダージオウ』が面白すぎて日曜日が待ち遠しい

 平成最後の夏に始まった、平成仮面ライダーシリーズ20作記念作品『ジオウ』が放送スタートして早一か月。これを書いている頃は第6話、「フォーゼ&ファイズ編」までは放送済みで、これからも時空を超え様々なライダーとクロスオーバーしていくだろう。20周年を目前に控えたお祭り作品として事前の期待値も高かったが、それを上回る面白さに圧倒され、同時期放送の『ルパパト』も負けず劣らずエキサイティングな内容なため、近頃の日曜朝はかつてない充実感に満たされている。

 西暦2018年。王様になることを夢見る、しかしどこにでもいるごく普通の高校生である常磐ソウゴは、50年後の未来からタイムワープしてきた明光院ゲイツ / 仮面ライダーゲイツに命を狙われ、同じく未来からやってきた少女ツクヨミに助けられる。2068年の未来、ソウゴは時の王者オーマジオウとして世界を支配する最低最悪の魔王となること、そのためにゲイツに襲われたことを知るが、「最高最善の魔王」になることを宣言し、仮面ライダージオウへと変身。歴史改変を企てるタイムジャッカーが生み出すアナザーライダーと戦うことを決意する。

 全ライダーの力を持つ魔王ことジオウ。過去の平成ライダーの力を内包したライドウォッチをレジェンドから受け継ぎ、その力をアーマーとして身につけるライダー。先輩ライダーの特徴を踏まえた形態やアクションが毎回飛びだしては、歴代作品を視聴しているファンの間で毎週話題騒然となるのがお約束になっている。

 とはいえ、ビルドにはエグゼイドフォームが、エグゼイドにはゴーストゲーマーがあったように、先輩ライダーを模した形態は毎年の恒例行事と化しており、その点でのサプライズ感はもう得られなくなってしまった。そこで『ジオウ』は、そうした要素はあくまでお祭り作品としてのお約束(と玩具の販促)としてキッチリ描写しつつ、それ以外でのクロスオーバーに本腰を入れている印象を受けた。

 『ジオウ』は各平成ライダー作品の放送された年にタイムワープし、その時空に存在するレジェンドライダーやその関係者からライドウォッチを継承、その力をもってアナザーライダーを倒すことで物語が進んでいく。その際、各作品から最低一人はレジェンドとして当時の俳優が出演・キャラクターを再演し、ジオウへの橋渡しを行うのが特徴だ。

 平成ライダーお祭り作品の大先輩である『ディケイド』では、過去の平成ライダー作品そのものが「リ・イマジネーション」された、いわば二次創作された世界を旅し、原典となる作品の要素を継承・再解釈した世界を巡ることで過去ライダーとのクロスオーバーを可能にしていた。そして多くの場合、過去のライダー出演者の再演は厳選され、原典と地続きのキャラクターを演じることはレアケースだった。

 それと対照的に『ジオウ』は、オリジナルキャストによる再演を徹底し、時間軸も放送当時に設定するなど、あえて原典作品そのものにメスを入れようとしている。その上、アナザーライダーが生まれた時点で対象となるライダーは変身能力を一時的に失うことで作品世界の歴史が歪み、その力をライドウォッチという形でジオウ=ソウゴのものになっても歴史が修正されない、という設定が第2話「ビルド編」で明かされている。いろんな意味でジオウこそ二代目世界の破壊者、鳴滝さんの叫びが聞こえてきそうだ。

 そんな前提のもと唸ったのが、第6話「555・913・2003」における『555』周りの描写について。このエピソードでは『フォーゼ』のエピソードである第5話と地続きの物語で、我らがレジェンドこと乾巧と草加雅人が登場した回だ。

 まずは第5話。『フォーゼ』の舞台である天の川学園高校を訪れたソウゴら一向は、18歳のおとめ座の女子高生が行方不明になる不可解な事件を知る。そんな中、同じく18歳のおとめ座の少女・山吹カリンを調べていたところ、アナザーフォーゼが出現。ライダー部顧問である大杉忠太より授かったフォーゼライドウォッチの力でアナザーフォーゼを倒したのも束の間、アナザーフォーゼがアナザーファイズへと変身し、山吹カリンにはあの草加雅人が迫っていた。

 そして6話では、アナザーフォーゼ/ファイズとなった青年、佐久間龍一の目的が明かされる。山吹カリンと親しかった佐久間は、不慮の事故によって亡くなったカリンを生き返らせるためにタイムジャッカーと契約しアナザーライダーと化し、カリンと同じ18歳のおとめ座の少女のエネルギーを与えることで、彼女を生かし続けていた。

 誰かの犠牲の元生かされることに疑問を抱いたカリンと、その死を受け入れられない佐久間。カリンの真意を汲んで暗躍する草加と、悩める巧。なるほどこれは『555』だ!と思わず膝を打ってしまった。

 己が望まぬまま甦ってしまったカリンは『555』における怪人オルフェノクの設定とリンクし、命を巡る悲劇は『555』という作品の根幹にマッチしたものだ。カリンを失った事実を受け入れられず、他者の命を奪ってでも彼女を生かし続けた佐久間。そんな彼に対し「カリンを延命するための自己犠牲」という連鎖から抜け出せない被害者、という一面を見抜いたゲイツは、ファイズのライドウォッチの力でアナザーファイズを打ち倒し、その煉獄から佐久間を解放する。

 もちろん、カリンのために誰かの命を奪った佐久間の罪は許されるものではなく、結果としてカリンを二度も失った佐久間にとって、地獄は続いているのかもしれない。それでも、誰かを救うために誰かの命を奪い、自身は傷つき続ける。そんな「誰も救われない」輪廻を断ち切ったことで、かすかな希望が宿る。「命」を巡るドラマが展開された『555』の要素や面白さの根幹を引用・再解釈し、新たなドラマを紡いで見せた。

 その一方で、「互いを嫌っているけれど仲間」という巧と草加ならではの関係性を描く見せ場や、「流星塾」「クリーニング屋」といったワードが登場するなど、ファンサービスも抜かりない。かれこれ15年前の作品、メインターゲットである幼児~小学生の子供たちはもちろん産まれてさえいない時代の作品でも、きっちりと再演させてしまう。大きいお友達にとって、こんなに嬉しいことはないだろう。

 以前、『ジオウ』放送開始前に書き上げた『ディケイド』総括テキストにて、こんな予想を立てていた。以下、そのまま引用。

 とりわけ気になるのは、『ビルド』より桐生戦兎と万丈龍我、『エグゼイド』より宝生永夢と鏡飛彩の参戦がアナウンスされたことと、宿敵となる「アナザーライダー」の設定だ。
(中略)
 『ジオウ』では原典のキャストが登場し、その世界観に介入する、という意思表示にも思えるこの度の発表。『ディケイド』では二次創作を用意することで、(言葉は悪いが)着ぐるみとしてのヒーロー共演を果たした。あるいは絶妙にアレンジされた世界観や登場人物を通して、原典を想起させる手法を取った。
 そうなれば、『ジオウ』はより攻めたコンセプトで視聴者を楽しませてくれるのかもしれない。「本物を見せてやるぜ!」と言わんばかりに原作キャストを揃え、偽物のライダーを打ち倒す。あるいは、アナザーライダーになってしまった人物を媒介に、一体何がそのヒーローたらしめるのかをじっくり描いていく、過去作批評型の作品になるのかもしれない。決して『ディケイド』が劣っているなどと言うつもりはなく、過去の作品を視聴者に想起させるアーカイブスなヒーローとして、微妙にアプローチが異なっている点に、とても興味をそそられてしまう。

 今思い返せば、なんとも浅はかな予想だった。当初、過去作におけるキャラクターの思想や作品自体のテーマを浮き彫りにさせるために、アナザーライダーに選ばれた人物のドラマを描き、ジオウとレジェンドライダーが共闘してそれを倒す、という方式で物語が進行するものと予想していた。しかし実際は、『仮面ライダージオウ』という番組が「各作品の正史を改変」するという危険な手法を用いながらも、原典への愛と理解を持って再演を行っているのだ。

 なんと大胆、かつ怖ろしいことをやってのけるのか。ジオウ=ソウゴが、作品内世界では世界を支配するオーマジオウとして、メタ的視点では数多のライダー作品を改変する破壊者として、やがて君臨してしまうのではないかという恐怖を、未だ内包している。視聴者それぞれに、各々の想い入れがある「平成ライダー」というシリーズそのものを揺るがす大事件は、現在進行中である。一歩間違えれば炎上にも繋がりかねないが、今のところそういった様子が見られないのは、作り手の意図するところか否か…。

 物語もまだまだ序盤。2号ライダーしぐさが完璧すぎるゲイツくんについてや、アナザーライダーのデザインの素晴らしさ等々、『ジオウ』ならではの面白さはまだまだあるものの、大胆な設定が生むスリリングさに、今回は着目した。直近で言えば、12月公開の映画『平成ジェネレーションズ FOREVER』では、ライダーの力を奪ったジオウとレジェンドがいかにして共演を果たすのか、今から待ちきれない。そして一年後、番組が完結する頃、ジオウはいかなる存在になっているのか。今から楽しみだ。

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