プレゼンテーション1

それでも私は『キルラキル ザ・ゲーム -異布-』をみんなに遊んでほしい

 漫画やアニメで、「これは夢かな?」と言って頬をつねるシーンをよく見かけるが、あれを実際にやったことのある人はいるだろうか。私は2019年7月25日からずっとつねっている。頬の皮は伸びきって、口元は締まりが無く、常に何かしらを垂れ流している状況だ。ハッキリ言ってヒトの正常たる状態とは程遠い。解釈によっては何らかの法を犯している可能性さえあるだろう。

 なぜそうなっているかといえば、2019年7月25日は『キルラキル ザ・ゲーム -異布-』の発売日である。2003年に放送されたTVアニメ『キルラキル』は『天元突破グレンラガン』『プロメア』を手掛けたスタッフが創り上げた、未だ超えられることのない人類史上最高傑作アニメであり、その破天荒な世界観とアツいストーリー、どこか懐かしい風貌のキャラクターたちは、日本を越え海外でも愛され続けている。

 そんなアニメ初のコンシューマーゲームが、PS4/Nintendo Switch/Steamの多様なプラットフォームで発売されている。…されてしまった。

 そりゃあ頬もつねるし、何なら自分で自分をビンタして、これが現実か妄想かを確かめたくもなるってものだ。放送終了から5年も経ったアニメのゲームが本当に発売されるのか??ドラゴンボールや幽遊白書じゃないんだぞ??だが現にソフトはちゃんと発売日にお家に届いたし、動画サイトでは実況動画が続々アップされていて、どうやらおれだけの幻覚ではないらしい。ならば、乗るしかないこのビッグウェーブに。

 本作はキルラキルに相応しい「耐繊アクション」と銘打たれており、開発は格闘ゲームでは有名どころのアークシステムワークスとエープラス。原作を手掛けたアニメーションスタジオTRIGGERもガッツリ監修しており、すしおによる鬼の修正要求は下記リンクで確認できるし、ストーリーモードのシナリオは中島かずき描き下ろしの、堂々たる「完全新作」である。

 その甲斐あってか、原作再現度はメチャクチャ高い。キャラクターは3Dモデルだが質感は2Dアニメ調で、ムービーではそれらがグリグリと動き回る。対戦時のキャラモーションはアニメでも印象深いカットや技を踏襲しており、原作アニメを差し込むのではなく3Dモデルでそれらを再現しているのには舌を巻いた。

 また、対戦前後挟まれる各キャラクターの専用台詞は対戦相手によって細かく設定されていて、原作の関係性を崩すことなくトレースしているのも嬉しい。ストーリーモードでは澤野弘之による原作BGMが流れることで、作品の世界観に難なく没入できるのも最高だ。アニメ原作のゲームは全て原作BGMを搭載してほしいと常々思っているのだが、権利や使用料の関係で難しいと聞く。だが本作はちゃんとやってのけている。ありがとうございます。

 肝心の対戦ゲームは、アニメさながらのド派手なアクションを簡単操作で再現できてしまう優れものだ。一般的な3D対戦アクションの要領で、近距離・遠距離・ガードブレイクの3つの攻撃ボタンを組み合わせたり溜め押ししたり、方向スティックの傾けによって変化する技で敵のHPを0にした方の勝利。その他、相手との間合いを詰めるダッシュや回避と回り込みを兼ねたステップ、敵の攻撃から抜け出せるバースト、ゲージを消費する必殺技があり、スピーディかつ駆け引きのある内容に仕上がっている。一見複雑に思われるかもしれないが、裁縫部部長・伊織糸郎によるチュートリアルが実装されているため、格ゲー初心者にも安心だ(ストーリーモードも難易度調整が実装されている)。

 キルラキルならではの要素として、「血威表明縁絶」なるものが組み込まれている。始動技を相手に当てると、愚弄/挑発/罵倒の三種類からお互いが一つを選び、三すくみに勝利し相手を論破することが出来れば「血威レベル」が上昇し、キャラクターが強化されていく。逆に相手に負けるとダメージを負うデメリットもあり、発動にはゲージも消費するため使い所の見極めが要求されるが、血威レベル向上による強化の恩恵は大きく、レベル3(MAX)になると一撃必殺の「戦維喪失奥義」が使用可能となるため、大逆転も狙えるようになるのだ。

 早い話が「じゃんけん」なのだが、言い争いながら闘うシーンの連続だった『キルラキル』の雰囲気とマッチしているし、演出も飛ばすことが出来るため、駆け引きを盛り上げる要素として対人対戦ではどんどん使ってほしいテクニックだ。各キャラクターが相手を論破すべく舌戦を繰り広げるこの暑苦しさこそ、キルラキルの醍醐味である。

 本作の目玉であるストーリーモードは、前述の通り中島かずき描き下ろしであり、その名の通り「異布(if)」の物語が展開される。アニメでも描かれた壊惨総戦挙の終盤、皐月の前に現れたのは針目縫ではなく鬼龍院羅暁。なぜ羅暁が現れたのか、鮮血が抱く違和感の正体とは。原作とは異なる展開を見せるストーリーは、皐月様を操作する『こころ乱して運命かえて』と、その裏側を描く流子編『帰らざる日のために』の2つをクリアしたとき、全てが明らかになる。

 物語は3Dムービーで展開し、物語の合間にバトルパートが挿入されるという形式。キャラクターの台詞回しはさすが原作者監修なだけあって違和感なく、あのマコ劇場の新作も拝めてしまう。さらに皐月の着る純潔の最終形態「純潔神髄」が登場し、ストーリーモード限定も頷ける圧倒的性能で敵を蹂躙できるのも見逃せない。

 ストーリーモードの他にも、CPUや対人戦はもちろん、オンライン対戦モードで段位を競う「ランクマッチ」も可能。また、複数のカバーズと闘う乱戦モードや、ギャラリーモードも搭載。バトルで溜まるポイントを消費することで閲覧できるものが増えていくギャラリーには、CVキャストによるおまけボイスも含まれており、「過酷な現代を生きるあなたに向けた応援の言葉」なんてものもある。画面の前の服を着た豚!皐月様に褒めてもらえる栄誉が得られるのはこのゲーム買った者のみに与えられる特権ですよ!!

 作り手の迸るキルラキル愛、どうかしているほどのこだわりが実現した原作再現と、ちょっとした遊び心が込められたこの『キルラキル ザ・ゲーム -異布-』を遊んでの一ファンの感想は、「ちょっと手放しでは褒められねぇな…」といったところである。

 まずは格闘ゲームとして、原作再現ゆえの仕方がない事情ではあるのだが、プレイアブルキャラクターが少なすぎるのはどうしても目につく。かといってゲームオリジナルキャラクターで水増しされて雰囲気を壊されても困るのだが、四天王の極制服は全部揃っていないし、鮮血を着た皐月様やボクシング部部長・袋田とかテニス部部長・函館など、濃すぎるキャラクターたちを自由に動かしたいという欲求も無くはないのだ。

【プレイアブルキャラクター】
纏 流子(通常/二刀流)
鬼龍院 皐月(通常/二刀流)
蟇郡 苛
猿投山 渦
犬牟田 宝火
蛇崩 乃音
針目 縫
鬼龍院 羅暁
(今後の無料アップデートにて追加予定)
喧嘩部部長・満艦飾マコ
DTR(道頓堀ロボ)

 ストーリーモードでも、キャラクターモデルを用意できなかった都合か、登場キャラクターがとにかく少ない。上述のキャラクターを除けば伊織糸郎や鳳凰丸が現れる程度で、満艦飾一家やヌーデイストビーチの面々が登場しないため世界観が物凄く狭く閉じたものに見え、原作アニメの会話劇の面白さと比べるとどうしても物足りない。

 また、ストーリーモード内では「一対多数」で闘うシチュエーションが多いのだが、元の格闘ゲームが「一対一」を前提に造られており、ロックオンや対象切り替えといったものが存在していない。そのため、狙った相手を集中攻撃することも難しく、画面外からの遠距離攻撃でHPをゴッソリ削られるケースが多発して、ストレスを感じる場面が多々あった。範囲攻撃もリーチが狭く、多数を巻き込んでの攻撃が難しい(=死角から被弾しやすい)のが猶更痛い。

 良いところもあれば悪いところもある。この世の全てのゲームに言えることだが、せっかくの『キルラキル』のゲームを、万人にオススメ!ゲーム機を揃える価値がありますよ!!とまで強く言えないのは、なんだか物寂しくもある。しかもswitch版のみ調整・DLCパッチの配信が遅れるという致命的な状況が今も続いている。私が買ったの、switch版なんですよ…。

 それでも、それでもだ。私はこのゲームが世に出た奇跡を喜び、祝福し、スタッフ・キャストの皆さまのおわすところを拝み倒す気持ちでいっぱいだ。放送が終了し、BD特典の25話を観て真の完結を迎えて以来、『宇宙パトロールルル子』第7話というほんのささやかな供給のみを糧に生きてきたキルラキル難民キャンプの一人として、「ゲーム化」は悲願そのものだったからだ。しかも、2019年は再放送にBD-BOXやコンプリートサントラの発売、『プロメア』の大ヒットが重なり、現行アニメと同等かそれ以上の供給過多を受け、キルラキルのオーバードーズ状態、いつ死んでもおかしくない状況だ。

 そして何より、『キルラキル』単体のゲーム化はおそらく今作が「最初で最後」となるだろう…。だからこそ、本作を遊び倒して、楽しかった!と完全燃焼したいし、しなくてはならない。同時に、『キルラキル』を観て面白いなと感じて、偶然にも対応ハードをお持ちの方がこの文章を読んでくれていたのなら、どうか『キルラキル異布』を買って遊んでほしい。作り手のこだわり抜いた再現度が、あなたのキルラキル熱を再燃させるかもしれないし、そこにゲーム化の意義もあると思えるからだ。

 あと、オンライン対戦のマッチング率があんまりよろしくないので、マジでみんな買ってください…。駆け引き強めで対人戦こそ盛り上がるバランスだから…。


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