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俺たちが誤解されたい“ニッポン”『ニンジャバットマン』

 インド人に日本のカレーを振る舞ったところ、「これは何と言う食べ物ですか」と尋ねられた、なんてエピソードを聞いたことがある。他国の文化や食を自国向けにアレンジし取り込んでしまう、恐ろしい島国ジパング。同じアメコミヒーローで言えば、スパイダーマンも巨大ロボが登場する特撮ヒーローものとして魔改造され、知る人ぞ知る世紀の怪作は『レディ・プレイヤー1』の原作小説によって本国でも脚光を浴びた。

 その奇怪な民族に対しワーナー社はなんと、屈指の人気アイコンであるバットマンを差し出す暴挙に出た。しかもよりによって託した相手は、あの神風動画と中島かずき。ウチのバットマンをメチャクチャにしてくださいと言わんばかりのNTR根性に、120%のお・も・て・な・しで応えてしまった制作陣の生真面目さに、同じ日本人として誇りを感じる所存でございます。

 ゴリラ・グロッド(元は『フラッシュ』出身のヴィラン)の開発した時空震装置により、アーカムに収容されたヴィランたちが戦国時代の日本にタイムスリップ。それから2年後の日本に飛ばされたバットマンが目にしたのは、各国の戦国大名に成り代わったヴィランによって統治された、あるはずのない日本。DCユニバースがリアルと神話の狭間を行き来する間に置き去りにしてきた、コミックならではの荒唐無稽さに溢れるプロットに、必然的に胸が躍る。正義がどうだ、自警活動の有無がどうした、といった高尚なテーマは一旦脇に置いて、流れ込む映像と台詞をそのまま受け入れる。思考を挟んでいては付いていけないほどのイマジネーションが、本作には詰め込まれている。

 絵巻のように美麗な世界観に、和風テイストが織り込まれた人気キャラクターたち。城、刀、ニンジャ…。外国人が喜んでくれるニッポンのユニークな文化と悪魔合体させられたバットマンたちの姿も面白いのだが、そこにツッコミを挟む余地さえ与えないほどにタイトな尺とスピーディな展開は、こちらの語彙力を消失させるほどの勢いだ。ド派手なアクションとキメ画のカットは文句なしでカッコイイし、豪華声優陣がキャスティングされたヴィランたちは皆活き活きしている。

 序盤での対ジョーカー戦でお腹いっぱいになりそうなほどハイカロリーなのに、手綱を緩めることを知らない本作のクライマックスは、もう笑うしかないほどに狂ったアイデアに満ちている。「城」の概念をどうやら曲解したらしい中島かずきによる洗礼を受け、バットマンとサイドキックは「スーパー戦隊」のお約束を学ぶハメになるのだが、そのインパクトは言葉では語り尽くせない。自身の目で確かめ、呆れ、爆笑するのが正しい作法だろう。

 シンプルなプロットながら物語・映像面でもサプライズが散りばめられており、多くを語ると楽しみを損ないかねない。ゆえにこのような勿体ぶった物言いに終始せざるを得ないのだが、最近のシリアスなDC映画へのカウンターとなるような「あり得ない」の宝石箱たる本作は、コミック本来の荒唐無稽さに立ち返ったような作品で、これもまた正統派のアメコミ映画と言えるのかもしれない。クールジャパンよりクレイジージャパン。

 HENTAI王国ニッポンが世界に放つエンターテイメントは、ちょっと度が過ぎていて我々ですら理解不能な一面もあるが、それも本作の欠くことの出来ない魅力だ。これくらい頭のおかしい国だと思われていた方が、神秘的で海外からアコガレと羨望を招くのではないだろうか。きっとワーナーのお偉いさんもお喜びのはずである。

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