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#2024年映画ベスト10
出勤のない年末の朝、いつもより二時間遅く起きて、身体をほぐした後、PCを起動する。良い。毎日これくらいのんびりしていたい。
というわけで、今年も一年、お疲れ様でした。では、やらせていただきます。趣味の棚卸、映画編、ベスト10の発表。
↓推奨BGM↓
10位 『密輸1970』
リュ・スンワン監督の最新作は、海に投棄された密輸品を巡る、男VS女のコンゲームもの。女性たちの鮮やかで泥臭い計画と緊迫感を孕んだ友情が男どもの油断を刺し、最後は「海女」として生きてきたことが結実する、最高のアクションシークエンスに惚れ込んだ一作。全編のテンポの良さ、当時のヒット曲が織りなす牧歌的な雰囲気と、時折挟まれる目の覚めるようなバイオレンスなど、エンタメとしてのバランスもバッチリ行き届いている。万人におすすめできる娯楽作としての、堂々の完成度。スカッとしたい日は、これです。
9位 『劇場版 ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』
まず本作の優れている点は、劇場用アニメとして作り込まれている点だ。何を当たり前のことを、と思われるかもしれないが、「ウマ娘の映画版」ではなく「“劇場アニメ” ウマ娘」を目当てに行く、くらいの気概で臨んでも遜色ない出来であることをまず保証するためだ。
手前味噌だけれど、これに尽きると思う。『ウマ娘』のファンコンテンツとしてだけではなくて、“劇場アニメ”としてヤバいものが出てきた、という印象。芝を蹴る力強い一歩が、ウマが走り去る時の風を切る音が、勝ちたいという強い意思が、命を躍動させ、速度を増す。レースを見守る緊迫感が、勝利への達成感と称賛に変わる時、あぁ、これが競馬を観る、ということなのだと、映画館の椅子に座りながら思わされた。この体感性は、唯一無二であった。
8位 『カラオケ行こ!』
かつて“男の子”だった身として、成長の痛みや、失っていくものに怯えるという経験がコミカルでありながらも刻印された本作は、微笑ましくもあり、少しだけ、痛い。だからこそ、当時15歳の齋藤潤さんの、この日この時にしか出せない声が、魂のシャウトが、否応がなく涙を誘う。
それはそれとして、なんで俺は綾野剛と付き合っていないんですか?
7位 『劇場版モノノ怪 唐傘』
TVシリーズは未見のまま鑑賞した『モノノ怪』の劇場版、大奥を舞台にしたそれは、「これアタシだ……」の連続であった。奉公に邁進し、社会に順応するために大切なものを捨てていく。出来ない人を切り捨て、保身を重ねる。あの伏魔殿に住まう女性たちには、私の醜い心の断片が複数のキャラクターの中に織り込まれていて、時折目を塞ぎたくなる後ろめたさがある。だからこそ、その魔を切る存在と、そんな世界でも手放したくないと祈った二人の少女の友情に、眩しさを覚えた。第二章、楽しみすぎる。
6位 『侍タイムスリッパー』
幕末時代の会津藩士が現代に!?というあらすじから想像される全てのイベントをこなし、山口馬木也演じる主人公、新左衛門の生真面目さや誠実さにメロメロ。やがては「真剣」の言葉で結ぶ時代劇愛とその復興を願う心意気に、目頭が熱くなる。新年の一番楽しみな番組は、『新☆暴れん坊将軍』、この作品がなければ、見落としていたかもしれない。
5位 『サユリ』
「一生懸命に生きる」とは、どういうことか。その真髄を、ばあちゃんが教えてくれた。だって、「ババァ覚醒心霊太極拳ベスト・キッド映画」なんて、観たことありますか!?前半の最恐ホラー演出を全て払拭し、霊を恐れることそのものを一喝する春枝ばあちゃんは、ホラー映画が苦手な自分に活路を与えてくれた。そう、怖がるから、恐いのだ。
4位 『ジガルタンダ・ダブルX』
映画の楽しみとはサプライズ、意表を突かれることであるとするのなら、間違いなく本作がベスト1であった。マフィアの王を殺すために映画監督と偽り潜入する警察官見習いと、イーストウッドをこよなく愛する暴力の男。カメラと拳銃を向け合いながら進む映画撮影は一人の傍若無人の男を主役へと変貌させ、正義は現実に波及していく。しかしクライマックスには予想できなかったヘビーな展開が待っていて、フィルムに焼きつけられた叫びはこの現実社会を睨むものであると気付かされる。高い娯楽性と社会批判を内包し、それでいて万人が納得するスターを描き出す手腕に、やはりインドは別格だと唸らされる。
3位 『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』
今年最も忘れがたいヴィラン、いや、悪に数えるのも忍びない強敵なら、真っ先に冬村かえでを思い出す。彼の年越しは、あの狭いテントで身を縮こまらせ、寒さに耐えるものであったのかと思うと、もうそれだけで切ない。
主人公のifであり、社会に適合できない生きづらさの集合体であり、『シン・仮面ライダー』のリベンジですら感じられる池松壮亮の佇まいは、本当におぞましく、同時に感情移入を強烈に促されてしまう。永遠に続いてほしいと願っている主人公二人の命が本気で脅かされるのではないか、と震えた恐ろしさは、『サユリ』よりもホラーだったと言える。
2位 『ラストマイル』
『アンナチュラル』と『MIU404』に『劇場版パトレイバー』と『シン・ゴジラ』が足されて割ってない、と言われたら、本作の凄まじさが伝わるだろうか。我々の便利な日常を支える仕組みの裏に潜む社会問題を暴きつつ、終盤に向かうにつれて「個」へとフォーカスが移り、間に合った人/間に合わなかった人の対比で一連の事件を締めくくり、最後に“こちら”を睨む。社会性とエンタメの融合として申し分なく、ファンサービスをきっちりと入れ込んだ上で、観客の一人一人もこの映画と無関係ではないと発するメッセージは、やはりどうしても「誠実」の二文字が浮かぶ。
1位 『ロボット・ドリームズ』
「泣かされ」の面では今年トップクラス、堂々の1位、そろそろ手加減してくれオブ・ザ・イヤー大賞受賞である。あの一曲の破壊力を増すために積み上げられていく数多の別れと夢が切なさを極限まで堆積させ、ラストで一気に起爆させる構成は、もはや「人殺し」と呼んで差し支えないと思う。
憎たらしいと思うこともある。お前しっかりせぇよと地団駄を踏むこともある。でも、あの夜に感じた孤独から、寂しさから、抜け出したかった。じゃないと死んでしまいそうになって、どうしようもなかったから。先に挙げた『劇場版モノノ怪 唐傘』のように、この映画にも私の断片が「ドッグ」というキャラクターとして存在していて、彼に対する憤りはそのまま真っ直ぐ自分に返ってくるブーメランだ。
そして、生まれたての赤ちゃんのように周囲の光景からいろんなものを受け取り、生の喜びを機械の身体で表現するロボットが、身体の自由を奪われ四肢をもがれ、それでも人を恨まずに世界を見つめ続けたこと。そんな“彼”が最後に見た夢が、もう一度抱きしめてもらうこと。もうこれ以上言葉はいらない(実際本作には台詞がない)のに、ダメ押しで“アレ”が流れるのだ。もう、無理なんよ。勝てない。だって今これ書きながら泣いてんだもん。
いかがだったでしょうか。今年もたくさん、大切な作品に出会えました。唯一心残りがあるとすればワルプルギスが廻天しなかったことくらいですが、納得のいくまで作り込んでほしいし、寿命が伸びた、と喜ぶべきことでしょう。
今年も一年、お世話になりました。来年も一年、元気ハツラツ! ◯ ◯ ◯ ◯まんまん!で行きたいものですね。
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