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少なくとも私が望む続編ではなかった『ビルド NEW WORLD 仮面ライダーグリス』

 平成の残り香を味わっている。2007年放送の『仮面ライダービルド』のその後を描くVシネマ第2弾にしてシリーズ完結編となる『仮面ライダーグリス』を観て、満員の中央線に揺られる月曜の朝、最新話を東映特撮ファンクラブのアプリで観ながら出勤していたことをぼんやり思い出し、その完結も感慨深く感じてしまった。

 この『ビルド』に関しては、TVシリーズの結末がとくにお気に入りだった。強大なる侵略者エボルトを前にライダーたちは苦闘と犠牲を重ねながら、エボルトが存在しないまったく新しい世界を創造するという離れ業なラスト。倫理的な論争や考察合戦がファンの間で巻き起こったことを含め、ビターな味わいのラストには驚かされ、新しい世界で生きることを決意した桐生戦兎と万丈龍我の絆の帰結に涙した。それゆえに、TVシリーズのその後を描くVシネマという平成ライダーお約束の流れと食い合わせが悪く、人気キャラクター復活という企画の前に全ての余韻が打ち崩されたのが前作『クローズ』に対する所感であった。

 それに続く本作では、旧世界の記憶を取戻し再びライダーシステムが実現化してしまった新世界を舞台に、猿渡一海 / 仮面ライダーグリスの恋と闘いが描かれるという。完結編として、未だ宙吊りになった諸問題にどのような決着を付けるのか、新世界に平和は訪れるのか。そうした視点での鑑賞に至ったのが、そもそも間違いだったのかもしれない。

桐生戦兎が創造した新世界では、人体実験を受けた者にだけ旧世界の記憶が蘇っていた。その一人である浦賀啓示を首謀者とするテロリスト集団「ダウンフォール」は政府官邸を急襲しライダーシステムを強奪。その目的は科学の力=兵器による世界の支配と復讐だった。
かつて旧世界でライダーだった者たちも闘いに臨むが、ダウンフォールによって変身能力を奪われてしまう。そんな中、唯一変身が可能だった猿渡一海と三羽ガラスだったが、浦賀の力には及ばず、美空をさらわれてしまう。浦賀を超える力を手に入れるためグリスのパワーアップアイテムを製作する桐生戦兎だが、それは三羽ガラスの命を奪う可能性のある危険なものだった―。

 猿渡一海というキャラクターは、ヒーローとしての熱さや格好よさを体現し、『ビルド』という作品のエモーショナルな部分と深く結びついた人物だったように思う。戦争によって農場を奪われ、北都の兵器として闘う中で三羽ガラスを失いながらも、その意思を受け継いでエボルトと死闘を繰り広げた。ボロボロになりながらも闘い、決して誰も見捨てない、一海のヒロイックな活躍は『ビルド』全体を見渡しても名シーンに数えられるだろう。その一方でドルオタの一面を併せ持ち、みーたんのことになるとやや異常な行動が増えたり、ためらいなく言えば「気持ち悪さ」が増していく、重苦しい雰囲気において清涼剤の役目も務めていた。それを演じるのが『キバ』でおなじみ武田航平、というのもライダーファンを熱くさせた。

 そんな一海の気持ち悪さが全面展開される『ドルヲタ、推しと付き合うってよ』が、実は同時上映ではなく本編と直結したミニストーリーである、という仕掛けから始まる本作。相変わらず美空の追っかけをする一海と、それを見守る三羽ガラス。新世界だからこそ実現した彼らとの再会は、ビルドファンへのご褒美だ。本作はとくにファンサービスに特化した印象が強く、TVシリーズ以来に集結となったキャストの再登場や、ラストのライダー大合戦など、最後のビルドを盛り上げるサービスがこれでもかと織り込まれ、満足度は高い一作には数えられるだろう。

 ただし、それはあくまでこの『NEW WORLD』シリーズとTVシリーズの関係性を飲み込める人限定、という注意書きをしておかねばならない。旧世界の記憶を取り戻したにもかかわらずライダーシステムを再び作り出した葛城忍と、それを防衛システムとして採用しようとする氷室幻徳。モノは使いようとはいうものの、過去の失敗から学んだ様子の見えないキャラクターたちに、どこか空しさを感じてしまう。そもそも、スカイウォールの無いこの国はどのような侵略を想定して防衛システムとしてのライダーを開発したのか。「エボルトの侵略を見越して…」といった台詞でもあれば腑に落ちたが、これでは旧世界の繰り返しである。この新世界にてライダーを登場させるために、キャラクターの成長をリセットさせる必要があったのだろうかと、感じてしまったのだ。

 ビルドの続編と言えば、どうしてもこの問題が付きまとう。新世界に到達したキャラクターが旧世界の記憶を取り戻すことが、果たして善きことなのだろうか。別世界の戦争で奪った命の責任、自らが犯した過ちに対し、別世界とはいえ「自分がやったこと」として認めなければならない。これって物凄く辛く理不尽な話ではないだろか。あるいは、旧世界の記憶がよみがえった場合、新世界で生きた記憶はどうなるのか。共存か上書きか、どちらにせよ、「放送終了した作品のVシネマが作られる」という現実の要請によって、愛すべきキャラクターが背負うものがあまりに重たすぎる。そうした事情を鑑みるに、やはり『ビルド』の続編そのものが難しい企画だった、という印象は免れない。

 そうした『ビルド』ならではの葛藤を除けば、本作単体としては筋の通った一作ではある。ライダーシステムを兵器として悪用するテロリスト、というのは『ビルド』の悪役像としてとても王道だ。わかりやすくハザードのビルドの進化系として現れるこの敵は、旧世界における侵略兵器としてのライダーシステムの在り方を投影したもので、それを正義のヒーローとしてのライダー・グリスが否定する流れは鮮やかである。

 そのテーマを補強するように、葛城巧がライダーシステムという発明を肯定する流れがあり、新世界におけるライダーシステムの在り方へのアレルギーを緩和する働きをみせていた。内海に関しては無理を感じなくはなかったが、首相補佐として人々の先導に立つ玄徳の覚悟、『クローズ』に続いてハザードレベルを上げるためなら非人道的な手段も問わない戦兎など、それぞれが短い出番ならがしっかり活躍の場が与えられ、完結編として充分な満足度を見せてくれる。紗羽さんと玄徳の関係性については「ホテル」という単語のせいでどこか生々しいけれども…。

 『仮面ライダービルド』の集大成として、アクションもドラマもサービス満点という良さはある。が、肝心のエボルト問題には一切触れない点も含め、しこりの残る一作なのは間違いない。『ビルド』の続編という立ち位置を飲み込めるかどうかで、評価は大きく変わるはずだ。

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