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10年を経て振り返る『ウルトラマンX』

 2025年。年明け早々に、「今年で10周年を迎えるもの」をまとめたポストツイートがタイムラインに流れてきた。10年前はまだ学生の身分でいられたことを懐かしく思うし、その頃合いに熱中していた『アルドノア・ゼロ』の総集編+新作劇場版が今年になって上映されるなんて、苦労して生き延びた甲斐もあったというものだろう。

 その作品群の中に、愛しの巨人の姿があった。IP復権の狼煙を上げた渾身の一作、『ウルトラマンX』である。

 今でこそ遠く過ぎ去った過去のように思えるけれど、悪い意味で「ウルトラマンがヤバい」という時期は、確かにあった。素人目に見ても、円谷プロの懐事情の厳しさや、特撮番組とは切り離せない玩具の販促面での苦戦が、作品の出来栄えやイメージを食い破っていると感じられた、冬の時代。総集編番組『ウルトラマン列伝』で食いつなぎ、ようやく始まった期待の新作『ギンガ』は、牧歌的な雰囲気やジュブナイルの魅力こそあれ、ソフビ人形を変身アイテムとして扱い、示し合わせたかのように人里離れた山の近くで取っ組み合うウルトラマンと怪獣の戦闘シーンは、一介のファンとしてももどかしいものではあったのだ。

 そうした見栄えの弱さは続編の『ギンガS』にてある程度改善され、2体目となる主役ウルトラマンのビクトリーや中ボスのファイブキングの存在、防衛隊路線の復活とミニチュアセット特撮の迫力が面白さをグイグイと牽引していった。こうして、わずかではあるが活気を取り戻しつつあるウルトラマンシリーズ、後に「ニュージェネレーション」の屋号でまとめられていく流れの中で2015年に放送されたのが『ウルトラマンX』であった。

 メイン監督には田口清隆氏を据え、その脇を坂本浩一氏や辻本貴則氏などが固める。今のニュージェネのメインを張るようなビッグネームに、まだまだ「新進気鋭」だとか「異例の抜擢」という枕詞が付いてしまいそうなところに、時代を感じる。シリーズ構成4名、脚本に10名と文芸面でも中々に珍しい布陣で、全編を俯瞰してみれば先輩ウルトラマンの客演回と一話完結のエピソードが織り交ざった、バラエティ豊かという言葉に相応しい2クールが持ち味に。

 前作から引き続き防衛隊路線は維持され、主人公の大空大地は特殊防衛チーム「Xio」の一員として、怪獣事案の対応に奔走している。スパークドールも引き続き変身アイテムの座を担うものの、形態変化のために用いられるのはカード型のアイテムで、変身玩具の遊びの拡充や顧客の収集意欲向上にも貢献する上に、やはり見た目としての納得度がソフビ人形とは段違いだ。諸々のガジェットの格好良さ、CV:山村響の機械的な音声がSF的な作風を強く印象付ける。

 どの要素を切り出して『X』らしいと述べるべきかは悩ましいところだけれど、お気に入りなのはウルトラマンと変身者のバディ要素を打ち出した点。演:高橋健介氏が醸し出す、爽やかで誠実そうなイメージをまとった大地に寄り添うのは、ウルトラマンエックス。『ギンガ』以上に掛け合いが膨らんだ本作では、大地とエックスの友情と信頼感が話数を重ねるごとに強固なものになり、一方でエックスの少し天然でノリがいいところは、CV:中村悠一ゆえに全部が面白へ昇華され、好感度が高まってゆく。ウルトラマンへの変身を大地とエックスのユナイトと表現するところに、当時は新鮮さを覚えていたことが懐かしい。

 そうした「絆」を結ぶ物語は、全編を貫く一本の串のように、思い返せば大きなものになっていった。当初は大地が掲げる「怪獣との共存」が主題になるかと思いきや、それはそれで小テーマの一つというか、最終回の後に振り返ってみればより大きなくくりとして「絆」の一文字が表に出ている、というような着地を披露した。

 人間大地ウルトラマンエックスの出会いが怪獣との向き合い方に新たな視点を与え、人を守るという職務との折り合いを模索していく。その想いを仲間に広げ、あるいは託し、背中を預け合うXio隊員とも繋がり合っていく。繋がること、絆を結ぶことを力に変えて闘うウルトラマンなれど、その本質は人間も同様。大地のように自分も怪獣との共存に明るい未来を見出すアスナ、時に衝突しながらも戦友として結びついていくワタルとハヤト、受け取ったネクサスで家族を守り抜いた橘副隊長、娘とのわだかまりを抱えながらもXioの精神的な支柱であり続けた神木隊長。それぞれが他者との関係に悩み、時に傷つき、それでも育んできた「絆」に生かされている。そのサイクルを描くのが、『ウルトラマンX』という物語だ。

 本作を彩るもう一つの「絆」が、先輩ウルトラマンの客演である。『ウルトラマンメビウス』が昭和世代をフィーチャーした共闘で盛り上げてくれたことは記憶に新しい……とは言い難いほどに時が流れてしまったが、『X』は平成のウルトラマンへ照射する。あくまで『新ウルトラマン列伝』の一企画であることに自覚的な本作は、多数のウルトラ戦士が“通りすがる”ことで、エックスと大地が諸先輩方とも絆を結んでゆく。前作のギンガやビクトリーに留まらず、ゼロ、マックス、そしてネクサス。阿部雄一監督渾身の第20話『絆 -Unite-』は、今なお涙なしには観られない伝説のエピソードとして、語り草である。

 こうして振り返ると、『X』を観ていたあの頃のワクワクした気持ちがふいに蘇ってくる。思い返せば、自分にとってウルトラマンに“帰ってきた”のは、『X』に魅入られたからだった気がする。大地とエックスのコミカルな掛け合いに、先輩ウルトラマンに再び会えるファンサービスに、「絆」を問う様々なエピソードに、ビルを壊し人類文明を脅かす大怪獣のスペクタクルに、ウルトラマンを観る醍醐味を再確認した。その10年前の想いが今なお生き続け、ウルトラマンの新作が毎年制作されるまで息を吹き返したことは、いつぞやのゴジラがそうであったように決して当たり前ではなく、であるからこそこの幸せが長く続いてほしいと、遥か空の星を見上げそう願わずにはいられない。

 ニュージェネは今なお脈々と続く、大きな幹となった。一年ごとにコンセプトやテーマを変え、しかし同じ屋号で緩やかに繋がり合う、先輩後輩の関係性。その中で一つしこりが残るとすれば、謎の宇宙怪獣「デザストロ」の存在である。劇場版『ニュージェネクライマックス』でついにその姿が拝めるのでは?と初報時に期待していた彼との決戦は、いつ映像化されるだろうか。『X』10周年のメモリアルイヤー、ぜひとも劇場の大スクリーンで、久しぶりのユナイトを拝みたいものである。

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