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肥大化する家族愛は大気圏をも突破する。『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』

 ワイルドスピードはいい。2時間半座席にただ身を委ね、頑張って働いても一生手に入らないであろう超ド級の高級車がバカスカぶっ壊されていく映像を観ていれば、俗世間での厭なことをすべて忘れることができる。

 今やアクション映画最大のフランチャイズにまで拡大し、その溢れんばかりのファミリー愛と荒唐無稽さでトップを爆走し続けてきた本シリーズ。その最新作で立ちはだかる敵はなんとマジのファミリー、文字通り家族と敵対しなければならない本作は、さらにスター俳優を取り込もうとする貪欲さ、前作を超えようとする意欲に満ちた、真夏の太陽のようにギラギラと明るく光る快作である。

 世界中のファンの愛に支えられ、その期待を背に拡大してきた『ワイルド・スピード』だが、実は現在完結に向けて色々と種を蒔いている最中で、ロック様やジェイソン・ステイサムも加入したご存じドム・ファミリーに匹敵する最強の敵を模索し続けていることがひしひしと伝わってくる。その筆頭がシャーリーズ・セロン様演じるサイファーなのだが、それだけでは筋肉が足りていない。であれば、と白羽の矢が立ったのがあのジョン・シナだ。

 ヴィン・ディーゼルとジョン・シナが兄弟。もうそれだけで一つ壮大な笑い話のオチになり得るし、映画の面白さを十二分に担保している。はじける筋肉、飛び散る汗!と言わんばかりにぶっとい腕がクロスし、凶器と化した肉体がぶつかり合う様は先日観たばかりの『ゴジラVSコング』を思い出させる。ご丁寧に「銃が使えない」シチュエーションを用意しフィジカルでの闘いに必然性を持たせる作り手の生真面目さも笑いを誘う。

 本作は彼らトレット兄弟の確執を軸に、過去と現在の物語が入り乱れるドラマが展開される。取り返しのつかない喪失と罪の意識、それから贖罪。元は輸送トラック襲撃強盗であり、ファミリーの助けを得て幾度となく世界を救い今では真っ当な道を歩く兄ドミニクが、大きな十字架を背負い裏の世界から抜け出せない弟ジェイコブと向き合うことになる本作。ジェイコブは「ドムがもしファミリーと出会わなかったら」を想起させる存在でもあり、守るべき家族がありながらも弟を止めるため危険なミッションに挑まざるを得ないドムの義理人情、そんな彼を放ってはおけねぇ!とばかりに集結するファミリーの愛もたまらない。史上最強の兄弟対決の顛末もドムの家族愛を感じさせるものとなっており、やがてこのシリーズが走り出す未来に期待膨らむ展開やサプライズがたくさん用意された本作は、シリーズに愛着が強い人ほど満足度が高まるだろう。

 過去に向き合う、というのは本作の作り手にとっても大きな目標になったはずだ。監督にはシリーズの立役者の一人であるジャスティン・リンがカムバックし、『TOKYO DRIFT』や『MAX』から意外なキャラクターが再登場するなど本作はシリーズの同窓会も兼ねている。そして何より、みんな大好きハンが帰ってきた。彼の復活はSNSを介したファンの根強い声に応えたものであり、初報のトレーラーが公開された際に全世界のワイスピファンは狂喜に包まれた(そして憎き疫病のせいで一年もお預けにされた……)。

 さて、ハンの復活に際しどのような理屈を持ち出すかとファンはチケットを握りしめ劇場に駆け付けるわけだが、「カート・ラッセル!!!!!!」の大声で黙らせる剛腕さも、ワイスピらしい。何はともあれ、ハンの復活と共にドム・ファミリーの結束はより強固なものとなり、最強の敵サイファーに一発ぶちかます準備は万端といった頃合いだ(一方、ドウェイン・ジョンソンの不在はとても寂しい)。

 個人的には、女性の扱いにも現代的なアップデートを感じさせてくれた。シリーズの原点となるカーレース界隈では、お尻が見えちゃっているような露出度の高いお姉さんがレースの勝者のものになる、いわば「トロフィー」としての役回りを当てはめられることが多かったものの、本作ではそういった価値観は払拭されより健全な映画になったし、主要女性キャラクターも作品を増すごとに主体的にミッションに挑む一個人として描かれているようになった。特に、シリーズ不在の間に設けられたドムとエレナの子を育てることになったレティの心情が明かされたところは、レティ役のミシェル・ロドリゲス姐さんが女性の地位向上を求めて闘ってきた苦労の賜物だと思われる。その時々の「正しさ」を映画に取り込んでいくところも、シリーズが愛される要因の一つなのだ。

 もちろん、シリーズの醍醐味であるカーアクションは、例に及ばず前作越えのド迫力な仕上がりに。車でターザンめいたアクションをする、強力な磁力で車を投げる、車で宇宙に行くなどなど、車を使って出来る限界を追及し続けた本シリーズでも屈指のおバカ具合に、こちらの思考回路はショート寸前。毎度毎度次回作へのハードルを自分たちで上げていく(そして安々と乗り越えてしまう)ワイスピチームの想像力には、もうひれ伏すしか無くなってきた。次はもう地球の核(コア)まで行くとか、裏宇宙に到達するといったファンタジー方向に振るしかもう思いつかない。そしておそらく、私の陳腐極まりない予想は大ハズレして、数年後に公開されるであろう続編にぶっ飛ばされるに違いない。

 価値観を常にアップデートし、アクション面においてももっと早く凄まじく、を追い求め続ける『ワイルド・スピード』シリーズは、何かと窮屈な時代に反抗するかの如くド派手な映像で観客を魅了し、憂いなど抱かせる暇さえ与えない姿勢は混迷極める現代にこそ、ありがたみを感じさせてくれる。残すはあと二作、願わくばホブスも含めた全員集合でアッと驚く強敵を打ち倒してほしい。例えば、メル・ギブソンとか、どうっスかね……??

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