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尺が足りてません『劇場版 ルパンレンジャーVSパトレンジャー/仮面ライダービルド』

 毎年恒例、夏の劇場版の季節がやってきた。最近の子どもたちは行儀よく、静かに鑑賞しているのだが、こういう題材なのだから少しくらい生の歓声が聴けたらいいのにな…なんてのは大きいお友達の戯言である。

『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー en film』

 快盗と警察、二つの戦隊ヒーローが己の正義のために争う『ルパパト』は、TV本編も折り返し地点に突入。大切な人を取り戻すためにお宝を奪還する快盗と、それを追う国際警察。数々の謎と布石を積み上げながら、快盗の正体が暴かれる決定的瞬間に向けて、ドラマは着々と進行してゆく。

 夏の劇場版の戦隊枠といえば、正味30分程度の短編尺しか与えられず、TVシリーズ一本分の“ちょっと豪華版”程度のスケールに着地してしまう。その制約の中で、作品ならではの個性を前面に出した番外編と割り切って製作される分、一見さんでも楽しみやすいのは利点と言えるだろう。

 本作で言えば、オープニングアクションではドローンを用いた縦横無尽のカメラワークで画の格好よさを見せつけつつ、二組の戦隊と怪人の三つ巴となる本作の対立軸を観客に印象付ける。その後、敵怪人の罠によって両戦隊のレッドが異空間に飛ばされ、そこを脱するまでに一時的にタッグを組む、という物語で番外編ならではのスペシャル感を演出する。短い時間で番組コンセプトのおさらいと今作のストーリーを進行させる手際の良さには、毎年驚かされる。

 その上で、Wレッドの一時的共闘という状況が、これまた面白い。相変わらず融通の利かないパトレン1号=朝加圭一郎は「快"盗"と"手"を"組"む"な"ん"て"!"!"」と観客の予想を裏切らない反応を示すも、敵であるはずの快盗が背負う覚悟の一端を察し、一時休戦を了承する。

 一方のルパンレッド=魁利も、自分たちを追う警察戦隊の一人でさえも見捨てない義理堅さを見せ、怪我をしても弱みを見せないよう振る舞う。いつもの軽薄なノリで「お巡りさん」なんて圭一郎を茶化しつつも、根幹の人の良さが垣間見えるあたりが彼らしい。

 そこからは凸凹バディアクションで難を凌ぎ、無事に異空間を脱出。互いが互いを認めつつ、一時的共闘はついに2戦隊6人の同時変身を実現させる。横並びになった快盗&警察戦隊のカットは大スクリーン映えするし、名乗りシーンもきっちり見せる。これぞ劇場版の醍醐味、TVでは中々お目に掛かれないレアショットに、盛り上がらないはずがない。

 その本筋の中で割りを食ったのは、ゲストキャラとして登場した田中直樹演じるエルロック・ショルメだろうか。快盗と警察の闘いに探偵が介入!?という触れ込みだったはずだが、彼が何かしらの推理を披露するシーンが冒頭しかなく、あんまり呆気なく明かされるためキャラクターの正体に関しても驚きが薄い。短い尺の中で描きたい優先順位がWレッドに傾いた証左だろうが、空港に出待ちが出来るほど名の知れた名探偵には見えなかった、というのは正直な感想である。

 とはいえ、Wレッドの共闘、というシチュエーションで観客が期待するものを提示した上で、クライマックスバトルでは両戦隊がコンビネーション攻撃を見せるなど、美味しい見せ場を多く満足度は高い。むしろ、もっと観たい!カットされたシーンを復活させた完全版をソフト化してくれ!といった欲求が募った分、良くできた作品に違いない。もし『ビルド』目当てで『ルパパト』未見の方がいるとして、もし本作を面白いと感じたなら、ためらわずTV本編にも手を出してほしい。そんな『ルパパト』の面白さがつまった30分間だった。

『劇場版 仮面ライダービルド Be The One』

 最終話が迫る『仮面ライダービルド』は、まずは作品世界の設定が独特であった。火星から持ち帰られた、強大なエネルギーを秘めたパンドラボックスの力によって東都・西都・北都の3国に分かれた架空の日本を舞台とし、やがて三国間で戦争が勃発。その後まさかの異星人侵略モノへ転換するという、目まぐるしい一作である。子ども向け番組という性格上、直接的な出血や死の描写はないものの、状況に踊らされその手を汚し、疲弊していく主人公をしっかりと描写し、間接的に戦争の恐怖を視聴者に印象付けるデリケートな一面も持ち合わせている。

 そんな『ビルド』集大成となる劇場版は、主人公である桐生戦兎のルーツに迫り、共に闘ってきた万丈龍我を相棒として取り戻す物語だ。

パンドラタワーを中心に、東都・西都・北都の都知事がそれぞれ就任。三つに分かたれた日本を一つにまとめると約束した東都都知事の伊能賢剛は、同時に「ビルド殲滅計画」を始動させ、全国民がビルドに襲い掛かる。それぞれ都知事となった彼らの正体は、地球を滅ぼすために表舞台に現れた異星人・ブラッド族であった。そして万丈龍我もブラッド族の手下となり、戦兎に牙を剝く。

 本作は、TVシリーズ45話と46話の間に位置する物語で、シリーズの正史としてカウントされている。45話は桐生戦兎のもう一つの顔である葛城巧とその父、葛城忍のドラマの一応の終着点であった。記憶を失い顔を変えられた悪魔の科学者=桐生戦兎は父である忍とどう向き合うか、深層心理に潜む葛城巧の人格と対峙しながら、苦悩していた。しかし、戦争の兵器と思われていたライダーシステムがエボルトを倒すためのものであったこと、息子に見せた父としての優しい一面、その記憶を取戻し、忍の死を看取ることでエボルトとの戦いへの決意を改めるまでが、本作の前段階。

 そして本作では、エボルトを支援し暗躍していたブラッド族がついに活動を始め、日本の三都統一を宣言し、ライダーを排除するよう国民を洗脳していく。戦兎と万丈、記憶を失った科学者と無実の罪を着せられた脱獄犯の偶然の出会いが、ブラッド族に仕組まれていたものだとわかり、戦兎は驚愕する。さらに伊能は戦兎への精神的な揺さぶりを続け、ライダーの存在そのものが戦争を思い出させるものとして市民から忌み嫌われていることを説き、万丈龍我を洗脳。最悪の状況を前に、戦兎は再び闘う意思を無くしてしまう。

 万丈龍我は世界を破滅に導く存在であり、同時に世界を救う希望でもある。その存在の是非について、戦兎と巧はまたしても真っ向からぶつかり合う。エボルトそのものを危険視する巧は、その遺伝子を受け継ぐ万丈を受け入れられない。しかし戦兎は、自らの奥底から響く巧の声を振り切り、万丈を救うために立ち向かう。二つの顔を持つ己を「桐生戦兎」として受け入れ、共に戦い続けてきた万丈を、ついに「相棒」と声にだして認める戦兎。互いが互いを励まし合い激闘を切り抜けてきた二人だけの、特別な絆。『ビルド』本編が繰り返し描いてきた友情の積み重ねの、その極致点を描く。番組の最終回が迫る今、最良のタイミングと言えよう。

 そしてついに至る、二人が一つになる奇跡の変身。番組主題歌であり本作の副題「Be The One」を象徴する、ややコミカルさを交えた『ビルド』ならではの変身シーンは、素直にアガる名場面だ。

 とはいえ本作、重箱の隅レベルのものも含めて、「もう少しこうなっていれば」という印象を抱いたのもまた事実。

 まず、ブラッド族について。物語開始時点から暗躍しエボルトの裏で戦兎らの運命を操っていた宿敵だが、なぜそもそも自分たちで地球を侵略しなかったのか(エボルトに従っていたのか)が描かれず、劇場版のために急きょ用意された後付け感のみが印象に残る。表舞台に出られない何らかの事情があったのか、あるいは利害の一致でエボルトを支援していたのか、それさえわからない以上、唐突感は否めない。

 また、万丈自身がブラッド陣営についた理由はただの「洗脳」によるものであり、万丈側でそれを乗り越えようとするドラマがあれば、戦兎と万丈の絆が真の意味で“相思相愛”に見えたのに、というのは個人的な主張である。もちろん、ラストの表情を見ればその絆を疑う余地などないが、エボルトの遺伝子を受け継ぐ存在だからこそブラッドに取り込まれた(同じライダーである一海と幻徳は洗脳されなかった)以上、己の感情と意思で遺伝子の呪縛を振り払うシーンがあれば、先の戦兎と巧のシーンと呼応する演出になったのではないか。

 これらに関しては、やはりソフト化の際にはフォローがあると、より没入度が高まるのではないかと素人ながら勝手な想像を抱いている。最近のライダー映画では見かけなくなった「ディレクターズカット版」だが、本作でその辺り補完されないものか、と小さな期待を秘めている(これらが脚本上存在していてカットされた、などという確証などないのだが)。

 そしてこの一点だけは、本作を観た全ての方にご納得いただけるはずだと確信している。

この副題で!

この展開で!!

なぜ主題歌「Be The One」を流さない!!!!????

 むしろそのための新フォーム、副題、脚本まで足並みそろえた感さえあるのに、肝心の楽曲が流れない。特撮映画で、ヒーロー映画で、最高のお膳立てを受けての変身シーンがあるのに、流れないのだ。

 せめてここさえキッチリしていれば、細かい欠点を蹴散らすほどの感動と興奮に浸れていたはずなのに、かえって最大の問題点となってしまった。別に特撮ならとりあえず主題歌を流せ!などと言う気もないが、本作に限っては流れない方がおかしい、と思わずにはいられない。

 狙いはわかるし、『ビルド』らしい絆の着地には正直燃えた。しかしある一点キモを外されただけで、全てが台無しになることがある。その意味でも、「こうなっていれば」「惜しい」と思わずにはいられない、集大成の一本であった。

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