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【ショートストーリー】恐怖の大王は今も活動中

 「これだよ、これ。ねえお前知ってる、これ」
 古本屋の一角で、男子高校生が二人、何か面白いものはないかと物色している最中だった。眼鏡をかけたほうが、少し興奮したようすで、友人に一冊の本を示した。
「ノストラダムス?」
五分刈りのほうが、表紙に書かれている文字を読んだ。彼はよく分からないようだ。
「昔さ、流行ったんだよ。1999年7月に人類が滅びるって」
人類が滅びる? 興味をそそられた五分刈りが、立ち読みしていた漫画を棚に戻した。
「なにそれ、ラノベ?」
「違うよ、予言の本」
 眼鏡がノストラダムスの予言について説明した。
「てことはさ。その予言はずれたんじゃん」
「その通り」
 五分刈りは、興味をなくした様子で、立ち読みに戻り、眼鏡は手にした本を改めて眺めると、「これ、買おうかな」とつぶやく。

「1999年 7月 恐怖の大王が現れる」

 この予言は外れてはいなかった。1999年7月に、宇宙から地球を侵略するべく恐怖の大王がやってきた。しかも、ものすごい大群で。数でいえば人類を圧倒していた。そう、数では圧倒していた。ものの数時間で人類を屈服させ、地球を我がものに出来る。彼らはそう考えていたのだが……。

 
 ここは「恐怖の大王軍」の戦略拠点である。会議室では作戦会議が開かれている。
「諸君」
 議長役の総司令官が、口火を切った。
「われわれが侵略を開始してから、この星の時間で二十年以上が経過した」
司令官は、出席者に厳しい視線を向けていく。
 陸軍司令官、空軍司令官、特殊部隊司令官、そうそうたるメンバーである。
司令官は続けた。
「しかしながら、未だにこの惑星を侵略するに至っていない。それはなぜなのか、諸君の忌憚のない意見を聞きたい」
「海を戦場とする兵力、『海軍』が我々には存在しないからではないでしょうか?」と陸軍司令官。
「うむ」
 総司令官はその立派なひげをなで始めた。悩んだときの彼の癖である。
 「恐怖の大王軍」の母星に「海」は無い。地球に降り立ち、最も脅威だったのが、この星の面積の半分以上を占める「海」の存在」だった。
 「それはどうかと思う」
 空軍司令官は陸軍司令官に厳しい視線を向けた。
 「開戦以来、特に目立った成果を挙げていない陸軍の問題ではないのか?」
 会議室が色めき立った。
 空軍司令官は続けた。
 「空軍は、常に行動してきた。どんなに厳しい条件下であっても、ひるまずに攻撃を行った。対して、陸軍は何をしたのか?」
 陸軍司令官は怒りで顔を真っ赤にしながらも、反論できないでいる。
 「あのーお」
 特殊部隊司令官が挙手する。
 「私が思うに、人類に関するデータが間違っていたのが最大の原因だと思うのですが」
 地球侵略を検討した際、決定打となったのが、同盟を結んだ惑星から提供された地球の住民、人類に関するデータだった。
——これなら勝てる。全員がそう確信し、行動を起こしたはずだったのだが……。
すべてにおいて恐怖の大王軍が勝っていたのだが、いざ、人類と対峙して、とんでもないミスを犯したことに気がついた。
 人類に比べたら、彼らは米つぶ程度の大きさだったのである。これでは、軍事力がどんなに優れていても、恐怖の大王軍が数で圧倒していても、勝ち目がないのは当然だ。

 空軍がかなりの兵力を割いて、決死の攻撃を仕掛けたことがあるのだが、
「蚊柱だ」などと言われ、手で払われたり、スプレーを吹き付けられたりした。

 特殊部隊司令官の発言に、その場の全員がうつむいてしまった。
 図星だったからだ。
「だから、もう、今の状況を母星に報告して、撤退するのが一番いいと思うのです」
 空軍司令官は「空気を読めよ」と思い、陸軍司令官は「それを言っちゃあ、おしまいよ」と笑いをこらえた。
 「もうすこしさ……」
 口を開いたのは、総司令官だった。
 「もうすこし、頑張ってみようよ。だめでした、っていうのはいつでも出来るからさ、ね?」

恐怖の大王は今も活動中なのである。

(終)



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