人間失格 太宰治と3人の女たち感想
まず初めに、最高にお酒に合う映画だと感じた。
冒頭はひたすらに愛人2人とセックスして酒を飲むだけでthe俗世って雰囲気。女と酒、薬に溺れ、何度も心中して死にかけながらも幾度となく生還する姿は汚くぐちゃぐちゃになっても「生」にしがみつく感じがした。「心中」することが究極の愛だと思っていた太宰が死ねないのは、死への想いと同時に太宰自身生への願望が強かったのではのではないかとも思う。自分の全てを世に出さないと死ねない想いがあったのではないか、だからこそ「人間失格」を書いて死んだのではないかと。結核に侵され血反吐を吐きながらも酒を飲み、女に溺れ、執筆する姿は人間味に溢れていていた。
後半は妻に焦点が置かれ、帰らない夫とダウン症の子を含む3人の子育てに追われる心の限界が刺さった。妻は1人での子育てに憔悴していたのではなく、太宰が愛人の元に入り浸り、自分以外の女に恋しているのが耐えられないようだった。台詞の端々から仕事のためと言い聞かせているのが伺えるが、それでも1人の女として他の女に目移りするのが許せない風に見えた。妻として、母としての描写が多い美知子だが、時折見せる心情が1人の女として際立たせていた。屑みたいな夫でも、
お見合いだったとしても、太宰の1ファンとして、妻として心から好きだったのだろうと思った。弱さを見せずに家を守る妻がいたからこそ、太宰の帰る場所は必ず妻の元であったのではないかと思った。
愛人だけど太宰の全てを欲した富栄と、妻でありながら作家としての太宰を尊重した美知子の対比が物語を追うごとに明確になっていくのが見ごたえがありよかった。富栄と心中してしまった太宰に怒るわけでもなく、いつも通りの妻、母の顔を演じた美知子は本当に芯のある女性だと思った。
太宰の3人の女はそれぞれ違えど、皆太宰の作品に魅せられた人達なんだと実感した。