映画「オオカミの家」を観て
※ ネタバレ含みます。ご留意ください。
小さな世界が好き
人形が好き。以前、noteにも書いた。
ぬいぐるみと一緒に寝たり、擬人化して何かを食べさせたり、お世話をすると言うより、どちらかと言えば「小さな世界」を眺めたり、生活を再現するのが好きだ。
フィギュア、ミニチュア、ドールハウス、模型・ジオラマ、雛道具。大人になった今も飽きることなく、いつまでも眺めていられる。
小さな人形たちが動き出す、ストップモーションアニメに興味を持つのも、そう時間はかからなかった。
ストップモーションアニメ
クレイアニメーション、コマ撮りアニメと聞いて、すぐに思い浮かぶのは「ウォレスとグルミット」だと思う。
欽ちゃんこと萩本欽一さんが吹き替えをしていた。「ひつじのショーン」も可愛い。明るくて楽しいテレビアニメ。
けれど、それ以上に大好きだった映像作家がいる。
ブラザーズ・クエイ
「ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋」(1984)
「小さなほうき ~ギルガメッシュ叙事詩より」(1985)
「ストリート・オブ・クロコダイル」(1986)
確か上記3本同時上映だったのを、渋谷のイメージフォーラムで観た。
鮮烈だった。
色があっても印象に残らない世界。乾いているようにも湿っているようにも思える重々しい空気感。古めかしい東欧の廃屋、調度品。官能的な仕立て屋の動き。ヤナーチェクの音楽。
ヤナーチェク!
多分、当時2回しか観られなかったけれど、今でも、あれほどの衝撃は忘れられない。
随分後になって、二人がアメリカ人だと知るまで、ずっとチェコ出身だと思っていた。
二人が影響を受けた(こちらこそ)チェコのアニメーション作家 ヤン・シュヴァンクマイエルも追いかけて観に行った。
中でも「アリス」が一番好きだった。
ブラザーズ・クエイとヤン・シュヴァンクマイエル。
あまりにも強烈過ぎて、他のストップモーションアニメを進んで観る気がしなかった。
またストップモーションアニメの制作には途轍もない時間がかかる。
こうして、しばらく観る機会から遠ざかっていたある日。
いつの間にか、けれど徐々に多くX(旧Twitter)に紛れ込んでくる画像・映像があった。
映画「オオカミの家」だった。
「オオカミの家」
チリのクリストバル・レオンとホアキン・コシーニャの二人が作ったストップモーションアニメ、、
え? チリ?
と聞いて、思い浮かんだのはコパ・アメリカで活躍していたサッカーチームくらいで、関連記事を読むまでは、その酷すぎる歴史を正直全く知らなかった。
気分を害する内容で気が引けるけれど、概要だけでも知っておいた方が、この映画の「怖さ」が理解しやすいと思う。
コロニー(コロニア)を脱出した少女マリアが逃げ込んだ先の家で2匹の子ブタと出会う。子ブタにそれぞれの名前をつけて、一緒に暮らし始めるが、、というお話。
これはコロニー側のプロパガンダとして上映されるスタイルを取っていて、実際のコロニーの様子も映し出されている。
逃げ込んだ家の壁に映し出されたマリアの表情と姿形がくるくる変わる。
不意に立体化して表れる。
それでも一向に安定しないのは、マリアが終始不安、不安定だからか。
奇妙な変化は家も同じで、こちらも終始落ち着かない。
常にソワソワ、ザワザワ蠢く。
撮っている側に視点を変えると、始めから終わりまで暗転なし長回し一発撮りみたいな感じで(笑)、あれ撮るの相当大変だったろうなあ。
細部まで確認したくなるくらい、本当にこだわっていて凄い。
終盤、あれ?って思って、帰ってパンフレットを観て確認して。
改めてゾッとしたのは、、マリアはずっとスペイン語で話しているのだけど、ドイツ語で助けを求めるところ。
結局、逃げたつもりが逃げられなくて、しかも逃げたところ(コロニー)に助けを求めることが、もう悲劇としか言いようがない。
助けを求める原因となったのも、元を正せば、マリアも自分がコロニーにされたことを子ブタにしているので、、
何て言うか、もうどうあっても「この世界=コロニー」から抜け出せないっていうのが、もう本当に怖い。
実際のコロニーでも、当時の政権と結託していたので、国外逃亡でもしない限り、逃れられなかったそう。
本当に怖い。
音も怖かった。
獣たち(狼、子ブタ)の息遣い、蠢く家。
壊れかけてるオルゴールのような、オモチャの鉄琴。
何より「マリア」を探すオオカミの甘い声。
もう一度観たい。けど本当に怖い。