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様々な色が舞う時刻(ショートショート)【音声と文章】

山田ゆり
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どちらでも短時間で楽しめます。




おはようございます。
山田ゆりです。

今回は
様々な色が舞う時刻(ショートショート)
をお伝えいたします。



「マオさん、今、出かけられる?集金を2件、お願いしたいんだけど。」
「はい、大丈夫です!」

係長のアツコが集金用のお財布と領収証の綴りを持って近寄ってきた。


出かけられる?と聞いているのに既に領収証を持って来ている。
そんなものだ。駄目って言えない。
私はパートだもん。
それに出かけるのは気晴らしにもなるからラッキーなだけ。


キラキラ光るアイシャドーが映えるその目を細めてマオはアツコへ微笑み返した。

今受け持っている仕事は実はマオには簡単な仕事だった。
イラストレーターでちょっと手直しすればすぐに終わる案件だから。

今日はその他に主任から頼まれているテプラを作ればとりあえずマオのすることはなくなる。


イラストレーターの案件が終われば次の仕事が来てしまう。だから、出来上がりの時間をうまく調整しないとね。


なぜか私は社長や皆さんに好かれている。
この会社、チョロイと思う。
好かれるコツはこれまでの社会経験上、知っている。


パートという立場でもあるから、出しゃばらず、あくまでも自分を前面に出さない。
でも、伝えたいことはきちんという。
そうすると、私が気づかせたのではなく相手が気づいたと勘違いして相手は気を良くする。
それでいいとマオは思っている。

大事なのは自分の意見をゴリ押しせずに
相手に気づいてもらう事。




「久しぶりの連休、結局、ダラダラ過ごして終わっちゃった。」
給湯室で一緒になった正社員のA子さんから話しかけられた。
「そうですよね。そんなもんですよね。」

マオは心とは裏腹に、相手に同調してやり過ごした。


貴重なお休みをただ漫然と過ごすなんてもったいない。


私はパート。他は正社員。
私には保育園児の子どもたちがいる。
皆さんは40代以上で子育てが終了した年代。
私の仕事は9時-16時。皆さんは8時-17時でほぼ毎日残業。

私は帰宅後、趣味のネイルの研究中。いつかは自分のお店を出したいと思っている。

「きれいなネイルね。私にもやって!」と声を掛けてくださる方に、今は勉強のつもりで無料でさせてもらっている。

たくさんのトライとフィードバックを積み重ねている段階だからそれでいい。




***
「ショウコさん、集金お願いしていい?」
マオは入社間もないショウコに集金をお願いした。


マオの子どもたちはまもなく小学校高学年になる。


あれから係長だったアツコが急逝した。
当時のアツコの机周りは異様な雰囲気だった。

たくさんの未処理の書類がクリアファイルで分類され、それを事務用保存箱に種類ごとに入れられていた。

机の周りはその箱が積まれ、彼女の机周りはまるで「要塞」のようだった。


表立って誰も言わないが、彼女の死は絶対過労死だと誰もが認識している。





アツコが亡くなってすぐに社長に呼ばれ、
彼女の代わりをマオにやってほしいと社長から言われた。
勿論、パートから正社員になるということ。

そして、最初は平社員だが、3か月後に係長へと飛び級させるということだ。

マオはそれまでアツコから細々とした仕事を任されていた。
誰もその仕事を知らなかったからマオの経験は貴重なものだった。



マオは社長のお話を次の提案をのんでもらい快諾した。


◆アツコさんが持っていた仕事をできるだけ分散すること
◆サービス残業はしないこと
◆定時で上がることを「当たり前」にすること
◆繁忙期以外は休日出勤を極力しないこと
◆社長ができることは社長がされること
◆特定の人に仕事が集中しないようにすること
◆銀行に行くなど、誰でもできることは誰かにしていただくこと



係長のアツコは本来の自分の仕事以外に、
たくさんの「彼女でなくてもできる仕事」を自分から抱え込んでいた。

なんでも自分がしないと納得しない性分だった彼女は、気が付いたら本来するべき仕事以外のことで溢れてしまい、通常業務が綱渡り状態だった。




人がするべきことは大きく4つにわけることが出来る。
◆「緊急で重要であること」
◆「緊急で重要ではないこと」
◆「緊急ではなく重要なこと」
◆「緊急ではなく重要でもないこと」


特に上に立つものは、「緊急ではなく重要なこと」に取り組む必要がある。
しかしそのためにはまず、「緊急なこと」をやる必要がある。

彼女は常に「緊急なこと」をこなすだけで、いや、それさえもこなしきれずに毎日を送っていた。



「こんなに時間を費やしているのにどうして仕事が無くならないの?」

彼女はその理由が分からなかった。

残業をすればそれらはこなせると勘違いしていた。


彼女は疲弊していた。しかし、それに彼女は気が付いていなかった。

「残業さえすればなんとかなる」
45歳のアツコは自分の体を過信し過ぎていた。


アツコに今一番必要な事は「休むこと」だった。
それには今、持っている仕事を手放すことが必要だ。

社長や主任から「自分でなくてもできることは極力手放してみてはどうか」と言われた。しかし、今握っているこれらを彼女は手放したくなかった。
完璧主義のアツコにとって、今までやっていたことを手放すのは「挫折」であると思っている。

だから、たくさんのモノを握りながら彼女はずっと歩き続けた。


そしてある日、彼女の目の前は真っ白な世界に変わった。



パートだったマオも、アツコの行動は異常にしか見えなかった。



「私は彼女のようにはならない自信がある。」


マオは現在、自宅の一室で
子どものお母さんたちからの要望で
ネイル教室を開いている。




***

「さぁ、あと5分で終業時間です。
皆さん、帰る支度、大丈夫!?」

「はーい!」


明るい声が事務所内に響いた。



仕事用に控えめに施された綺麗な指が、机とキャビネットの行き来をし、様々な色が宙を舞う。

それは終業時刻を知らせる合図のようだ。




今回は
様々な色が舞う時刻(ショートショート)
をお伝えいたしました。

本日も、最後までお聴きくださり
ありがとうございました。 

ちょっとした勇気が世界を変えます。
今日も素敵な一日をお過ごし下さい。

山田ゆりでした。








◆◆ アファメーション ◆◆
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山田ゆり
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