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のぶ代さんのドラえもん【音声と文章】

山田ゆり
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「お母さん、今日、お姉ちゃん、泣いて帰ってくると思うよ。」

会社から帰宅し、車の鍵を置いたわたしに向かって娘が開口一番言った。

「えっ?どうしたの?何があったの?」


ドラえもんの声で有名な、大山のぶ代さんが9月29日に老衰のためお亡くなりになったとのこと。(90歳)
日中、そのような話題に触れる機会がないわたしは一瞬、絶句した。

そうだ。
絶対そうだ。


**

長女はのぶ代さんのドラえもんを見て育った。
長女はあの最初の曲が始まると自分の背よりも高いテレビの前に立って
両手を上げて「やったー!やったー!」と言いながらクルクル回るのが常だった。
小躍りしている初孫を、わたしの両親は目じりに皺をよせてニコニコしながら眺めていた。


喜ぶ娘。
それを見ている幸せそうな私の父と母。
しあわせが溢れていた。

**


それから1時間くらい経って遅番の娘が帰宅した。
ダイニングには私一人だけがいた。

車の鍵を置く音が玄関で響く。
心なしか静かに箱に入れたような気がする。
もしかして、コンビニから食べ物をたくさん買ってきたかもしれない。
娘は喜怒哀楽がはっきりしている。

そして、嫌なことがあった日は、たくさん食べて気持ちを整理する娘だ。



娘がダイニングに入ってきた。
「お帰り~。大丈夫~?」

何も買ってこなかった娘を意外に思いながら私は聞いた。

「えっ!何が?」

良かった。大丈夫だ。

聞くとのぶ代さんの訃報は日中知ったが、仕事がいつも以上に立て込んでいて
落ち込む余裕がなかったとのこと。


その後、ダイニングテーブルに並んで、食事をしている娘の隣でドラえもんの思い出話をした。


娘たちが小さかった当時は、毎週、ドラえもんのテレビを見ていた。
毎回、あの曲が始まると娘が両手を上げてくるくる回りながら小躍りしていた事を話す。
テレビのドラえもんは必ずビデオに録画し、何度も同じ番組を飽きもせずに娘たちは見ていた。

しあわせそのものだった。



やがて食事が終わった娘はお風呂に入り、そして二階の自分の部屋に行った。



もう、こんな時間だ。そろそろ寝よう。

日報を入力していたPCを閉じようとしたら長女が書斎に入ってきた。



「お母さん、やっぱり駄目。悲しくて、悲しくて眠れない。」

涙をボロボロ流しながら娘が近づいてきた。
私は椅子から立ち上がり娘に近づいた。
まっかな目を見つめ、そして娘をハグした。

背中をさすってトントンした。
娘も私の背中をさすっている。

ほのかに甘い匂いが髪からしていた。


「そうだよね。分かる分かる。」


それから娘の話を聞いて、話したことで気持ちが落ち着いた娘は二階に上がって行った。



それぞれの今日が終わった。




翌朝、娘は
「昨日あれから泣きすぎて右目だけ瞼が腫れて一重になっている!」とおどけて降りてきた。

もう大丈夫だ。


悲しいことだけれど、人は必ずいつかは命が終わる。
それは私が30歳の時に弟を亡くした時に痛感した。
それから30年の間に、父、伯母、母、夫 を見送ったから痛いほど分かる。


だから、今、生きていることはありがたいと思う。
自分の力で生きているが、しかし、掌の中でころころあがいている私たちを
ご先祖様は優しい目で見守っていると感じる。

私たちは、生かされていると思う。


ご先祖様には感謝しかない。

ありがとう。




大山のぶ代さんのご冥福をお祈りいたします。








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