満面の笑みの裏側(ショートショート)【音声と文章】
山田ゆり
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※note毎日連続投稿1515日をコミット中!
1500日目。
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、
どちらでも短時間で楽しめます。
おはようございます。
山田ゆりです。
今回は
満面の笑みの裏側(ショートショート)
をお伝えいたします。
「僕はもう限界だ。こんな会社、続けらない。」
深夜帰宅した。
部屋の電気をつけるのも面倒なほど彼は疲れていた。
真っ暗な部屋でiPhoneの光があたる彼の眼は生気を失っていた。
彼はiPhoneをタップし
ある会社に仕事を依頼した。
話しは2か月前に遡る。
人懐こくて何を頼んでも明るく受け答えする20代前半の営業マンがA支店に入社した。
何事も素直に受け入れて行動を起こす彼は
平均年齢43歳のその会社にとって彼は期待の新人だった。
さっそく支店長は入社当日から彼に手取り足取り仕事を教えていった。
来年定年の支店長は彼の入社を一番喜んだ。
何を言っても「はい、分かりました!」
「はい、喜んで!」と明るく答える。
仕事は未経験の営業で全くの未知数ではあったが
彼の何でも素直に受け止める性格が気に入った。
本当は3か月くらい内勤をさせた後にするのだが、支店長は自分の得意先周りに彼を連れて行き、名刺配りをさせた。
期待の新人を得意先へ知らせることができ支店長はご機嫌だった。
彼は営業という仕事は初めてだった。
これまでは事務的な仕事しかやったことがない。
まっさらな状態で入ってきた彼は支店にとって貴重な存在だった。
通常、新入社員にはさせないのだが、残業をお願いしたら二つ返事で受けてくれた。
その顔には一点の曇りもない。
彼の評判はすぐに社長に伝わった。
社長は彼を社内の業務推進委員会のメンバーに追加した。
勤続年数7年以上でなければ選ばれない中に入社後間もない彼を入れることは異例中の異例だった。
その委員のメンバーに抜擢された時も彼はニコニコと喜んで受けてくれた。
これで私が定年退職しても安心だ。
支店長はほっと胸をなでおろした。
これまで営業員が入社してもなぜかすぐに退職してしまい、困っていた。
10か月後に迫った定年退職に本人は勿論、営業所の皆は危機感を抱いていた。
だから彼の出現でやっと、自分の後釜ができたと思った。
営業所の皆さんとも彼はうまくやっている。
とにかく、どんなことでも笑顔で受けてくれるところが凄い。
若いからバイタリティー溢れている。
これほど優れた人格はなかなかいない。
よかった、よかった。
しかし、月のカレンダーが変わった頃
彼は体調不良ということで会社を休んだ。
その後も休みが続いたが周りは
「来週にはケロッとして出てくるだろう。何たって若いんだから。」
と誰もが思っていた。
**残業中のある夜、彼の心の中***
僕は一生懸命それに応えようとしている。
しかし、やったことのない営業で右も左も分からない。
お客様はすぐに見積もりを依頼されるが
どんな材料が必要でその材料の単価はいくらで、
人件費はいくら見積もればいいのか、
納品の期日はどのくらいを見ればよいのかなど、
全く知らないことばかりだ。
それなのに、お客様は「とりあえず見積もりが欲しい」と簡単に言われる。
一生懸命調べてやっと作った見積もりの8割は
「あ、ありがとう。参考にするから」と言われ、そのあと何もない。
入ってまだ一か月の立場でありながら、
大手ゼネコンへ一緒にあいさつ回りをしたり、会合後の懇親会へ出席させられたり
自分の許容範囲は超えている。
残業でこなした仕事を提出してもほっとする暇もなく次の仕事が降ってくる。
この会社には新入社員を教育するスケジュールがない。
「俺の背中を見て覚えろ」的な古い体質。
毎日、行き当たりばったりの仕事をさせられる。
僕はもう疲れた。
こんな会社、未練も何もない。
***ここまで*********
彼の休みが続いた次の週、本社にその文書が届いた。
内容は、彼が退職したいと思っていること。退職するにあたり、その会社が仲介に入ること。
退職に関する書類上の手続きを請け負うこと。
だから直接本人と会社が交渉することは無いこと。
などが書かれていた。
彼との雇用関係はその紙きれ一枚で終わりに向かった。
彼が仲介業者に依頼するほど追い込まれていたとは思ってもみなかった。
何でも頼むと明るく受け答えしてくれた彼。
本来はさせないのだが、たくさんの仕事を入社後早い時期に任せられた彼は
試用期間中ではあるが連日残業をしていた。
支店長はそれを彼の「やる気」と受け止めていた。
頼むたびに彼は明るく受けてくれた。
まだ大丈夫かなと思い、次から次へと彼へ仕事を任せていった。
何たって若いんだから。
それが負担になっているとは全く予想もしていなかった。
彼は退職の仲介会社と契約を交わし、
その後、会社には電話も会うこともせずにその会社を辞めた。
退職を仲介者に依頼するほど彼は追い込まれていたことに誰も気付かなかった。
彼の優しさに支店長を含め周りの皆は安心しきっていた。
満面の笑みの裏側を知ろうともしなかった。
今回は
満面の笑みの裏側(ショートショート)
をお伝えいたしました。
本日も、最後までお聴きくださり
ありがとうございました。
ちょっとした勇気が世界を変えます。
今日も素敵な一日をお過ごし下さい。
山田ゆりでした。
◆◆ アファメーション ◆◆
.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。
私は愛されています
大きな愛で包まれています
失敗しても
ご迷惑をおかけしても
どんな時でも
愛されています
.。*゚+.*.。.。*゚+.*.。゚+..。*゚+
1500日目。
※聴くだけ・読むだけ・聴きながら読む、
どちらでも短時間で楽しめます。
おはようございます。
山田ゆりです。
今回は
満面の笑みの裏側(ショートショート)
をお伝えいたします。
「僕はもう限界だ。こんな会社、続けらない。」
深夜帰宅した。
部屋の電気をつけるのも面倒なほど彼は疲れていた。
真っ暗な部屋でiPhoneの光があたる彼の眼は生気を失っていた。
彼はiPhoneをタップし
ある会社に仕事を依頼した。
話しは2か月前に遡る。
人懐こくて何を頼んでも明るく受け答えする20代前半の営業マンがA支店に入社した。
何事も素直に受け入れて行動を起こす彼は
平均年齢43歳のその会社にとって彼は期待の新人だった。
さっそく支店長は入社当日から彼に手取り足取り仕事を教えていった。
来年定年の支店長は彼の入社を一番喜んだ。
何を言っても「はい、分かりました!」
「はい、喜んで!」と明るく答える。
仕事は未経験の営業で全くの未知数ではあったが
彼の何でも素直に受け止める性格が気に入った。
本当は3か月くらい内勤をさせた後にするのだが、支店長は自分の得意先周りに彼を連れて行き、名刺配りをさせた。
期待の新人を得意先へ知らせることができ支店長はご機嫌だった。
彼は営業という仕事は初めてだった。
これまでは事務的な仕事しかやったことがない。
まっさらな状態で入ってきた彼は支店にとって貴重な存在だった。
通常、新入社員にはさせないのだが、残業をお願いしたら二つ返事で受けてくれた。
その顔には一点の曇りもない。
彼の評判はすぐに社長に伝わった。
社長は彼を社内の業務推進委員会のメンバーに追加した。
勤続年数7年以上でなければ選ばれない中に入社後間もない彼を入れることは異例中の異例だった。
その委員のメンバーに抜擢された時も彼はニコニコと喜んで受けてくれた。
これで私が定年退職しても安心だ。
支店長はほっと胸をなでおろした。
これまで営業員が入社してもなぜかすぐに退職してしまい、困っていた。
10か月後に迫った定年退職に本人は勿論、営業所の皆は危機感を抱いていた。
だから彼の出現でやっと、自分の後釜ができたと思った。
営業所の皆さんとも彼はうまくやっている。
とにかく、どんなことでも笑顔で受けてくれるところが凄い。
若いからバイタリティー溢れている。
これほど優れた人格はなかなかいない。
よかった、よかった。
しかし、月のカレンダーが変わった頃
彼は体調不良ということで会社を休んだ。
その後も休みが続いたが周りは
「来週にはケロッとして出てくるだろう。何たって若いんだから。」
と誰もが思っていた。
**残業中のある夜、彼の心の中***
僕は一生懸命それに応えようとしている。
しかし、やったことのない営業で右も左も分からない。
お客様はすぐに見積もりを依頼されるが
どんな材料が必要でその材料の単価はいくらで、
人件費はいくら見積もればいいのか、
納品の期日はどのくらいを見ればよいのかなど、
全く知らないことばかりだ。
それなのに、お客様は「とりあえず見積もりが欲しい」と簡単に言われる。
一生懸命調べてやっと作った見積もりの8割は
「あ、ありがとう。参考にするから」と言われ、そのあと何もない。
入ってまだ一か月の立場でありながら、
大手ゼネコンへ一緒にあいさつ回りをしたり、会合後の懇親会へ出席させられたり
自分の許容範囲は超えている。
残業でこなした仕事を提出してもほっとする暇もなく次の仕事が降ってくる。
この会社には新入社員を教育するスケジュールがない。
「俺の背中を見て覚えろ」的な古い体質。
毎日、行き当たりばったりの仕事をさせられる。
僕はもう疲れた。
こんな会社、未練も何もない。
***ここまで*********
彼の休みが続いた次の週、本社にその文書が届いた。
内容は、彼が退職したいと思っていること。退職するにあたり、その会社が仲介に入ること。
退職に関する書類上の手続きを請け負うこと。
だから直接本人と会社が交渉することは無いこと。
などが書かれていた。
彼との雇用関係はその紙きれ一枚で終わりに向かった。
彼が仲介業者に依頼するほど追い込まれていたとは思ってもみなかった。
何でも頼むと明るく受け答えしてくれた彼。
本来はさせないのだが、たくさんの仕事を入社後早い時期に任せられた彼は
試用期間中ではあるが連日残業をしていた。
支店長はそれを彼の「やる気」と受け止めていた。
頼むたびに彼は明るく受けてくれた。
まだ大丈夫かなと思い、次から次へと彼へ仕事を任せていった。
何たって若いんだから。
それが負担になっているとは全く予想もしていなかった。
彼は退職の仲介会社と契約を交わし、
その後、会社には電話も会うこともせずにその会社を辞めた。
退職を仲介者に依頼するほど彼は追い込まれていたことに誰も気付かなかった。
彼の優しさに支店長を含め周りの皆は安心しきっていた。
満面の笑みの裏側を知ろうともしなかった。
今回は
満面の笑みの裏側(ショートショート)
をお伝えいたしました。
本日も、最後までお聴きくださり
ありがとうございました。
ちょっとした勇気が世界を変えます。
今日も素敵な一日をお過ごし下さい。
山田ゆりでした。
◆◆ アファメーション ◆◆
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