#10 神からの試練-2
無神論者の月猫が送る、神からの試練パート2。
前回は月猫の病気発症の原因となった、セクハラ強姦未遂事件のおはなしをした。
わたしの生き方そのものを変えに来たそのできごとに並ぶ試練として、今日はもうひとつの話をしたい。
ふたつめは、まだ記憶に新しい、昨夏の出来事。
そう、今回は「突然無一文になった」おはなし。
月猫は障害者年金を受給している。
もちろん、病気ゆえに「働けない」と国から認められているが故だ。
だが、その中でも、放浪生活をしながら、現地の職についたり(投薬で判断力が低下しているときは、それこそ体力勝負の酪農などにも手を出した)、調子の悪いときは障害者支援施設に勤めたりと、ある程度の賃金を得て、なるべく貯金を減らさないように生きてきた。
北海道での生活を終え、全国を旅してようやく決めた最終地。
スタートは入院生活から始まり、減薬に成功し、ようやく自立した生活が送れるようになったころ。
当時わたしはストーカー問題を抱えていた。
しかも困ったことにアパートの隣に住んでいて、身を守るために引っ越しを考えていたころだった。
東京で働いていたころの古い友人から連絡が入り、「格闘技しているひとがいるから、用心棒がわりに付き合ってみたら」といわれ、ある男性を紹介された。
もともと格闘技好きだったこともあり、わたしは紹介されたその男性とよく連絡を取るようになった。
そんなある日。
わたしはめったに風邪をひかないのだが、たまたま調子が悪く、寝込んでいたところに連絡がはいった。
「大丈夫?お見舞い行ってもいい?」
相手は東京。
月猫が住んでいる場所までは車で5時間はゆうにかかる。
移住者としては身近に頼るひともいないわけで、わたしはその言葉にとてもありがたみを感じ、受け入れてしまった。
思えば、これがすべての過ちの始まりだ。
その日は雪がひどかった。
東京から6時間もの時間をかけ、本当にお見舞いにきてくれたことは、ひとりぼっちだったわたしにとって、本当にびっくりするような出来事だった。
そして、その男は家に泊まった。
次の日も、その次の日も、まだいていいかと聞かれる。
「え、仕事だいじょうぶなの」
「俺、経営者だから、現場に仕事任せてるんだ」
だからしばらくは帰らなくても大丈夫だという。
「今まで年金暮らしなら色々我慢してきただろう、俺がいればもう心配いらないから」
そういって、彼はいろいろなものを買ってくれた。
お金に余裕がでてくるまでは我慢しようと思っていた家具や日用品、食費など、とにかくすべてを出してくれた。
「たまには旅行にいこう」
と、温泉旅館を予約してくれたりもした。
「お金のことは気にするな。俺が全部だす。金しか勝たん」
何度このフレーズを聞いたことだろう。
数か月間そんな生活が続き、わたしはどこか気が緩んでいた。
なんなら、今までいろいろ苦労してきたことが、やっと報われた、そんな気すらしていた。
しかし、わたしが椎間板ヘルニアで手術をするため入院をした6月から、状況が変わった。
手術による入院は2週間。
その男が緊急連絡先として登録してくれたから、わたしは入院できたわけだが、その間、留守を預けることになった。
着替えの準備などのため、2~3日に一回は病院にお見舞いに来てくれていたわけだが、ある日から、お金の無心をするようになった。
「見舞いにいくガソリン代がない」
などと始まり、すこしずつお金を貸すことになる。
「どうしていきなりお金なくなったの?」
疑問に思って聞くと、
「実は、サプライズプロポーズをしようと思って、指輪を買ったんだ。カルティエの、200万くらいするやつ」
正直、は? という感想だった。
プロポーズ? まだ付き合ってるのかどうかも定かではないのに?
「東京の家から持ってきていたお金をそれに当てちゃったから、当面の生活費が苦しくて。東京にいけばおろせるから、かしといてよ」
勝手にそんな高額な買い物をされても…と思ってはいたが、「わたしのためにやった」と言われると、なんとも言い出しずらく、かつ入院で迷惑もかけているしな、との思いから、やむなく生活費を貸すようになった。
ただ、あくまでも「貸す」という状況。
その男は、東京にいけば返せるから、と言い続ける。
「退院したら、すごい泣かせるから。待ってて」
退院して玄関を開けたら一面の花で、かき分けて入ると指輪がおかれている、そんな状況説明も受けた。
そこまで言うのってサプライズになるの? と正直思ったが、相手の好意を無碍にはできない。
そう思って、迎えた退院日。
帰ってみると、そこには何もなかった。
(あれ、聞いてたのと違う…)
そう思っても、なかなか立場的に言いづらい。
もしかしたら、ばれてしまったのを気にして、他のサプライズに変えたのかも? そんなふうに思って黙っていた。
しかし、待てど暮らせどなにもおきない。
「あのさ、サプライズって…」
我慢しきれずわたしがその話題を口にすると、
「ごめんごめん、実は実家の母親が会いたがっててさ、一緒に東京から持ってきてくれることになってるんだ。温泉宿予約しててさ。そこで合流する予定だから、待ってて」
しかし、予定の当日。
母親がコロナになってこれないとの一報。
その後も、指輪は福島の実家に届けただの、おばあちゃんが間違って東京の住所に送っただの、状況は二転三転。
その間、彼のもはや「浪費」に近い生活費を貸し続けることになる。
自分では絶対にしないような使い方。
だが、「返すんだから俺の金だ、どう使っても文句はないだろう」といった形で、貴重な貯金が切り崩されていく。
一定額に達したところで、わたしはもうこれ以上は出せないといった。
東京に行けばあるのなら、至急東京に行くスケジュールを組んでいくべきだと主張した。
しかし、あれやこれやの理由をつけて、東京行きは実現しない。
いい加減おかしい、そう思って男を追い出そうとしても、なんだかんだと居座られる。
大阪の時代の親友に思い切って相談してみたら、「早く別れろ」とのことだった。
確かにそうだ。
早く縁を切った方がいい。
でも、そしたら、貸したお金踏み倒されるのでは…?
その思いで、一刀両断できず、「来週返せるから」「この日に入金があるから」とずるずる日にちだけが過ぎいていった。
そして、わたしの疑いがMAXに高まったころ。
男はまた衝撃の発言をする。
「実は一緒にすむための新築の一軒家を買ったんだ。あと、旅行好きだろ?そのために、キャンピングカーも。今度、内装の打合せあるから一緒に行こう」
指輪に家にキャンピングカー。
そこまでされたら、NOなんて言えなくないか?
相変わらず押しに弱い月猫としては、こうもがつがつこられると拒否ができない。
そして、実際にキャンピングカー屋さんに連れていかれ、申込書にハンコを押す瞬間も見た。
家の内見にも行き、オプション工事の見積もりなどにも立ち会った。
しかし、指輪の時同様、肝心の日がいつまでたっても来ない。
スケジュール帳はキャンセルの二重線ばかりで真っ黒になっており、わたしはストレスで気が狂いそうだった。
なんなら、ストレスで歯を食いしばりすぎて、奥歯が縦に割れてしまったほどだ。(歯医者に行くお金もなく放置していたが、あとあと行ったら、縦に割れるのは相当のストレスだし、普通はこの激痛に耐えれないと言われたw)
男の浪費が続き、ついには私の貯金が底をついた。
ただし、月猫は家の金庫に現金を入れていたため、それがあれば当面はなんとかしのげるというつもりでいた。
男に借用書を書かせ、ようやく、追い出しに成功。
これでやっと、ストレスから解放される…
そう思って、金庫をあけたら。
なんと、中身が空っぽになっていた。
なんなら、家に置いてあったブランド品や、貴重品なども、そっくりそのまま姿を消していた。
もう、その場に凍り付いた。
とりあえずすぐに警察に行った。
事情を説明し、お金を貸したこと、金庫からも盗まれたこと、全てを話して助けを求めた。
しかし、警察の対応は辛らつ。
「あなた前にストーカー事件で相談にきてるよね。またなんかもめごと?」
お金が戻らないなら刑事事件にしてくれとも話したが、8人の男性刑事に取り囲まれ、根掘り葉掘り聞かれたあげく、最後には泣かされて帰ることになった。
かくして、月猫は無一文になった。
被害総額一千万円。
障害者になっても、守り抜いてきた大切な貯金を、根こそぎやられた。
しかも、その男を追い出したはいいけれど、今度は隣のストーカー男の対策ができなくなる。
早く引っ越しもしなければならないのに、お金がない。
男に使い込まれたクレジットカードの支払いも迫っている。
ごはんなど食べている余裕はない。
わたしは一週間以上水道水のみで耐え、その後フードバンクの制度を知り、社会福祉協議会へ。
当面の食べ物(といっても期限切れのお菓子など)をもらい、状況を説明し、引っ越しと生活費をどうねん出するかを徹底的に協議した。
ストーカー問題では、女性の権利団体や被害者支援の会などにも協力をあおぎ、交渉のうえ上限10万円までの被害者支援金をもらうことに成功。
なんとかアパートを移し身の安全を確保してから、とにかくすぐに働き口を、と職安に通った。
たまたま紹介された外資系企業に、月猫全力の資料をもってして挑む。末日締、当月払いの会社。なんとしても合格する必要があった。
「こんな職務経歴書ははじめてみた」。
そういわれて、内定をGET。
実に10年ぶりのフルタイム勤務のため、体力が持つか心配ではあったが、やってみればなんとかなるもので。
ギリギリの生活ではあったが、なんとか生きていく道が見えてきた。
そして、今、わたしはその男からお金を取り戻すべく、自力で様々な裁判手続きを実施している。
支払督促。
強制執行。
財産開示請求。
本来は弁護士なり専門家に依頼する手続きだが、気合で自分で書類を作成。
法務局で家や土地の価値を調べたり、銀行に預金額の照会をかけたり。
無料の弁護士相談には、8回ほど足を運んでいる。
すべて、無駄うちにはなってしまったがw
裁判所のかたには本当にお世話になっている。
個人でこの申立てをするというのがかなりのレアケースらしく、わりとしっかりと教えてもらえた。
今も正に戦っている最中だ。
たとえお金が戻ってこなくても。
ただで済ませてなるものか。
その男は、今また別の女性に寄生をしていることがうかがわれている。
おそらくは、わたしから盗んだお金を使って、今はその女性を甘やかしているのだろう。
だが、こんな悪が許されてなるものか。
お金を帰せないならば、相応の刑事罰を受けてもらう。
人生そんなに甘くない。
わたしは、人は性善説に基づいて生きていると今の今まで思っていた。
本当に人を平気で陥れることができるひとなどいない、と。
だが、その認識は甘かったらしい。
勉強料にしては高すぎな金額。
この一連の騒動は、まだ最中ではあるが、間違いなく神からの試練であると思っている。
かなりかいつまんで話をしたが、思い出しただけで正直吐き気が止まらず、何度か筆を止めてしまった。
「貸した金返せよ」。
そんな曲が最近よく頭の中に流れている月猫でした。
今回はいつものように、ここから何かを得られる感じではまとめられず。
こんなこともあるのかというゴシップ的な扱いで、楽しんでいただければ幸いだ。
もし、同じような目にあって悩んでいるかたがいたら。
裁判所での手続きなど、いくらでも伝授しようw
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