世界が変わる音がした。
世界一美しい風景は
キャッチャーマスクから
見えるグランウンドであることを
16歳の夏、僕は知った。
あれから十数年の月日が流れても
あの時抱いた感動を覆す
風景に出会っていない。
おかしな話だなとは思う。
感情が乏しいのか。
単なる野球バカなのか。
真意は僕にも分からない。
でも、僕は未だに野球に魅了され
自らの意志でマスクをかぶり
小高い山に立つ投手が放る
白球をミットを構えて待っている。
少年野球にソフトボール
草野球の練習試合、少年サッカーで
賑わう河川敷の一角。
そこで眠気眼をこすりながら
ボールを追いかけるのは
休日として満点過ぎる風景だ。
草野球の練習という機会は
頭の中にある不純物をひと時だげ
忘れさせてくれる。大事な時間だ。
その相棒とも呼べるキャッチャーミットは
16歳の時、野球部の顧問からキャッチャーに
コンバートを打診されてから使い続け
汗と喜びと悲しみが染み込んだ過去の遺産。
今日もオイルを塗ったミットで
投手が放るボールを掴んだ。
気持ちの良い音が鳴らない。
勿論、技術的な理由もあるけれど
使い古したミットを酷使している気がして
少しだけ、申し訳なさを感じてしまった。
そして過去の場所から進めていない
自分の後ろ姿を見た気がした。
草野球の練習後、友人と共に
スポーツショップに足を運び
新たなミットを手にしたのは
必然だと思うのは、傲慢だろうか。
僕にとっての大金を代価に
手に入れた新しいミットを
実家で型づけする時間は
新鮮であり、どこか懐かしかった。
ボールで型付けしている際に鳴る
乾いた音を聞く度に、心が揺れて
試合に出る未来を想像してしまう。
まだまだ硬さが残り、ボールを弾くから
実戦では使うことはできないけれど
これからゆっくりと時間を掛けて
僕の手、キャッチングに合った型が
作られていく日々を過ごすのも悪くない。
そして良くも悪くも最高のチームで
マスクを被り、美しい風景を見ながら
真新しいミットを投手に向ける。
パチン、と乾いた音を響かせ
白球を掴む瞬間が今から待ち遠しい。
どうやら僕は生粋の野球バカみたいだ。
文責 朝比奈ケイスケ