淀ちゃんのニュースを見て『海獣学者、クジラを解剖する。』を想う
いかに自分が最新ニュースに疎いのかがバレそうだが、淀川のマッコウクジラの件を最近知った。なにやら世間では相当話題になっていたらしい。
自分が知ったときにはもう死んでしまっていたが……。
いつの間にか名前までついていたクジラの淀ちゃんだが、それよりも個人的に気になるのはその後の処理である。
いや別に年始に「大怪獣のあとしまつ」を見たからというわけではないが、死体と一言でいっても15mの巨大な物体なのだ。埋めたら埋めたでその場所は大変なことになりそう。
水産庁によると、死んだクジラは埋めるか焼却処理をするようマニュアルにあるらしい。
ここでふと、以前クジラの死体に関する本を読んだことを思い出した。
タイトルが浮かばないのでKindleの購入書籍を検索すると……これだ。
『海獣学者、クジラを解剖する。』
たしか博物館でクジラの解剖関係の展示を過去に見ていたのがきっかけで購入した気がする。
実際これはとても良い本だったので、買ってよかった。
著者は国立科学博物館で研究をしている田島木綿子(たじまゆうこ)さん。
日々の研究等の他に、クジラなどの海洋生物が浅瀬で座礁したりする現象(ストランディング)が起きた際に、死亡してしまった個体を解剖して、その生物の構造やストランディングに至った原因を探る仕事をしている。
書籍で最初に紹介されるのが、2020年3月末に起きた、熊本でのマッコウクジラのストランディングの話だ。
奇しくも淀ちゃんとほぼ同じ体長16メートルで、体重は推定65トン。
東京大学の博物館に行った際に、日本全国の動物園の死亡した個体の標本を研究していることに触れたが、こうやって漂着した海洋生物(ストランディング個体)も重要な研究対象となる。
生物を研究するにはまずは標本が必須なのだが、海洋生物を人間の力で捕獲するのはかなりの困難が伴うからだ。
著者によると、「1種の動物の特徴を知るには、最低30体の標本が必要」とのこと。
そんな研究にとって重要なものなので、ストランディングが起きた際には全ての業務を中断してストランディング対応にかかる。
なぜかといえばストランディング対応は時間(腐敗)との戦いであり、早いに越したことはないというのと、漂着後に死んでしまった生物は自治体の判断で粗大ごみとして処分される可能性があるからだ。(さすがに死体をずっと放置しておく訳にはいかない)
そして対応するといっても、準備することは山ほどある。
ストランディングした生物の特定、
それに応じたスタッフの手配、
調査道具の準備、
運搬方法の手配、
飛行機やレンタカーの手配、
宿泊先の手配、
その他あれやこれや……
もうなんかこの部分を聞いただけで大変な仕事だ。
しかし本番はストランディング現場での解剖である。
死後間もない新鮮な個体ならまだしも、腐敗した個体の臭いは想像を絶するようで、除菌消臭剤をこれでもかと振りかけても体についた臭いは消えないらしい。
ゆえに、ホテルにチェックインするときは臭いを分散させるため一人ずつ入るし、飛行機に乗る前は絶対に温泉施設で臭いと汚れを落とす。
しかし、湯気に乗った香りで異臭騒ぎが起きるらしい。
(個人的には、一緒に温泉に入っていた地元のおばあさんが「クジラのにおいがするのぉ……」とつぶやいた話は非常に良かった)
その他にも標本作成のあれこれやら、博物館の仕事が知れたり、腐敗した個体の胸ビレの角度で腐敗の進行度合い(爆発までのリミット)がわかるとかいうものまで、もうとにかく色々な知識が得られる。
博物館での研究や海洋生物のストランディングの仕事に興味がある方は、是非とも読んで欲しい本だ。
こういう他分野の仕事内容を知ることはとても面白いなと思う。
※著者による国立科学博物館の裏側を軽く解説した動画↓
(クジラの胃には11の部屋があるらしい)
淀ちゃんが今後どのように扱われるかはわからないが、もう既にストランディング対応部隊が動いてるんじゃないだろうか。
日本では年間300件ほど起きているストランディング。
みなさんもストランディングに遭遇した際には、不用意に近づくのはとりあえず避けて、自治体への連絡、そして地域の博物館や水族館にも連絡してほしい。
地域によってはストランディングを専門としたネットワークがあるらしいので、そこに連絡するのもいいだろう。
【本にあった連絡先一覽】
・ストランディングネットワーク北海道
https:// kujira110.com/
・ストランディングネットワーク茨城県
アクアワールド茨城県大洗水族館
代表電話: 029-267-5151
・国立科学博物館・筑波研究施設
代表電話: 029-853-8901
・神奈川ストランディングネットワーク
新江ノ島水族館
・神奈川県立生命の星・地球博物館
・伊勢・三河湾 におけるストランディング調査ネットワーク
三重大学生物資源学部・生物資源学研究科
・NPO法人宮崎くじら研究会
この他にも自分の住んでいる地域にストランディング対応している団体などがあったりもするので、この機会に検索するのもいいかもしれない。
そういえば、自分が『海獣学者、クジラを解剖する。』を買うきっかけになった博物館を過去の写真を漁って調べたら、大阪の博物館だった。
今回は淀川で見つかったから淀ちゃん。
つまりは大阪での出来事である。
となると、今はこの大阪市立自然史博物館の方々が対応に向けて大忙しということなのだろうか。
今まで得てきたものが、あれこれつながっていくものだなぁ……。
そんなことを思った。
※追加記事のような何か
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