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【読書感想】成瀬は天下を取りにいく【友情と郷土愛】
※ヘッダー画像は『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社 三島未奈)表紙から引用
かいばしらさんという好きなyoutuberが紹介していたので、動画の内容は一切見ずに、Kindleで即購入。
通勤時間にスマホで読みました。
4時間ほどで読めて、各話が短編になっていたので非常に読みやすかったです。
あらすじ
滋賀のショッピングモール「西武大津店」の閉店を知った女子中学生・成瀬は、閉店まで毎日ローカルテレビのキャスターの後ろに映り続けると宣言。その後も「M-1に出る」「百人一首で全国を目指す」など大胆な目標を掲げ、次々と挑戦を重ねる。「百に一つでも花開けば良い」を信条に行動する成瀬と、彼女を支える人々の姿を通して、滋賀のローカル文化とコロナ後の人々の生き様を描く物語。
おすすめ度:★★★★☆…(4.5/5)
総評
本作、非常に読みやすかったです。
文章も会話が多く、各話ごとに何を描きたいか明確になっていて、常に興味を惹かれながら読めました。
話の主軸になる成瀬というキャラクターも魅力的で、ストーリーを牽引していく力がありました。
成瀬というキャラクター
本作の冒頭の成瀬の姿は、コロナ禍でどうにもならない不景気やイベントの中止に対して、文句を言いがちな若者像を超え、不平不満を言わず、テレビカメラの前に無言で立つ姿を通じて、読者である私たちを見つめ返すような実存を感じさせます。
また、勉強も作文も絵も何でもできるようで、実は誰よりも不器用なところは萌えポイントですね。
そんな成瀬が親友の島崎との関係の中で成長していく最終話はグッと来ました。
作中で、成瀬の髪型が話ごとで変わっていくのも、描写に変化があって面白かったです。
成瀬を取り巻く人々
島崎ぃ…ほんといい友達だねぇ。めっちゃいい子。成瀬に依存しすぎてないところもまたいいね。
百人一首の西浦くん、お前は俺だ。そして、俺はお前だ。ほんと良かった、西浦くんの話めっちゃ好きでした。あと、西浦くんの友達の結希人くん、良いやつすぎ…こっち来いよ♂
成瀬のかーちゃん。最後の平和堂漫才のくだりで、心配そうに見ている描写でちょっと泣きそうになりました。なんでも挑戦していく成瀬に対して放任主義なんじゃないかと思ったけど、実は成瀬も気づいていないくらい、とっても愛されているんだなというのが伝わってきて良かったです。
潰れていく地元のショッピングモールたち
人口も経済も衰退する日本では誰もが「地元のショッピングモール」のような、”あって当たり前”だった存在の消失を経験をしているのではないでしょうか。
本作の「西武大津店」も、成瀬のテレビに映り続けるという挑戦虚しく閉店してしまいました。
私にも小さい頃よく通っていた「ボンベルタ」というショッピングモールがありました。母いわく、開店時はえん尾服を着たコンシェルジュがお店選びをサポートしてくれたそうです。
地元を離れてから、何十年ぶりにボンベルタへ行くと、照明は薄暗く天井はホコリで汚れ、店員も覇気がなく、日曜の夕方にも関わらず店内は閑散としていました。
僕はそんなボンベルタを見て「あぁ、なんかとっても寂しいな────
───なんて、気持ちには微塵もなりませんでした。
ボンベルタの思い出は、小学生の頃、山田くん(仮名)と二人で電気屋のロデオマシンでサーフィンごっこをして、店員に死ぬほど怒られた記憶が一番鮮明です。他にも、毎日、何時間も山田くんとボンベルタで過ごしました。
山田くんと疎遠になってから、数年後、ある日山田くんが突然、家に訪ねてきました。
「前みたいに、また、一緒に遊ぼう」と。
でも、僕はその時は部活に打ち込んでいて、とても、山田くんとボンベルタで遊べるような時間はありませんでした。
あんなに一緒に遊んだ山田くんに対して、「部活で忙しいから、もう遊べない」とインターホーンごしに伝えて、それっきり会っていません。
家の窓から見えた彼の背中はとても寂しそうでした。
そんな、忌まわしい記憶とともに、ボンベルタごと消失してしまえ!!と、僕はそう思いました。
その後、ボンベルタは、看板をEIONに変えて、内装もおしゃれになり、華々しく生まれ変わりました。くっそ!!(これ何の話?)
まとめ
冒頭の話だけでも読む価値があります。ぜひお手にとって見て下さい。