友恋
「友恋」
彼女からキスされることはない
まだ心の扉が開いていないから
そんでもって
彼女とのキスは
「いい?」っていう合図から
それが二人の暗黙のルール
キスは究極の会話だ
子犬のように可愛いボクだから
ごくごくまれに気まぐれに
彼女からキスされることはある
直近では
誕生日にリップをプレゼントしたとき
クシャとした笑顔と
あんがとという音声と
薄紅色の甘いリップの味覚
そんな3重取りキス
その瞬間
ボクを育てた祖父母を思い出した
お金というものは
ありがとうと言われたいひとに使うもの
おばあちゃんから教わった
頑固なおじいちゃんは
本当は
ありがとうと言いたいひとからいただくもの
とそっと耳元で補足した
キスはどうなんだ
ありがとうと言いたいのか言われたいのか
誰からも教わっていない
怠惰な日本政府よ!
少子高齢化対策として
トッププライオリティの恋愛リテラシーは
誰から学べばよいのだ!
金融より経済に有効なハズ!!
令和の男女関係は
もはや肉体関係を
必要十分条件としていない
でもキスのない男女関係は不純だ
そんな二人の
大阪クリスマスデート
花柄のロングスカートに
紺のモックネックのセーター姿の
彼女にときめく
今日のボクは
サンタからもらった
いつでもキスできる券を3枚
持っている
そのスペシャルチケットを
彼女に見せたら
わかったとだけ
うつむきながら承認した
照れているのか?
呆れているのか?
怒っているのか?
金色に輝くドリームチケットは
どうみてもボクのハンドメイド
魔法の券の残りはあと1枚
ボクはキスするスキを探してる
一回戦は
他に乗客のいない
JRくろしおパンダ号の1号車両
あまりにも利用客が少ないので
1号車両のグリーン車の半分が
普通指定席に魔改造された
特急ペアシートで
大阪駅に到着し
彼女が油断した瞬間に消費した
キスしたあとチケットを捨てるのがルール
丁寧に二つ折りにして
駅のダストボックスに投げ入れた
二回戦は
人影の少ない中崎町の裏路地
クリスマスなので外国人もマバラ
スッと体を寄せて
鼻が触れ合いそうな距離まで接近したとき
後ろから犬にワンと吠えられた
キスムードが崩壊し
失敗に終わった
そうなると
プランBの発動だ
やっぱり特別な日だから
日常から離れたいと言い訳して
天神橋筋六丁目にある
大阪くらし今昔館へ移動した
大阪の江戸、明治、大正、昭和
おしゃれでおもろい大阪の街を体感できる
特に江戸の街には
恋人たちの為のナイトモードがあって
キススポットの宝庫と化す
夜空に花火が上がれば下心が爆発する
江戸の街は上から見れる展望スポットもあるので
数学的に死角になる場所を厳密に計算し
ナイトモードで街が艶めかしくなるのを待って
江戸の街の一番奥
万能薬「ウルユス」を調製する肥後屋の軒下
瞳で合図してから
少し長いキスをした
2枚目の券は
2つに破ってポッケに入れた
この流れであれば
三回戦は
恋愛初心者から中級者
そして歴戦の上級者も
いずれ帰還するという聖地といえば
バブルの塔
大阪行政混迷の象徴
廃墟の中にそびえ立つ
虚空の大阪コスモタワーではなくて
定番中の定番
梅田スカイビルだ
天国にも通じる
気を失いそうな
エスカレーターの先にある
空中庭園展望台
時は15時48分
街はイルミネーションの点灯を
スタンバイミーしてる
集結した恋人たちの眼下には
グランフロント大阪と
大阪駅周辺の高層ビル群
そして
グラングリーン大阪が広がる
一斉に街のイルミネーションが点灯した時
彼女はボクにキスした
時が止まった
どれくらい時間がたったのかわからない
梅田の街も
彼女の瞳も
キラキラしてる
ボクが最後のチケットを破って
光るイルミネーションの海に
散骨ならぬ散券しようとした時
これもらっておくね
と彼女が言って
最後の券を奪い取り
もう一度
今度はホッペにキスしてくれた
やがてボクには
空中庭園展望台に静かに流れる
きよしこの夜のBGMが消えて
照れ屋の彼女の鼻歌
松山千春の長い夜が聞こえてきた