ぬれねずみの帰る場所

ぬれねずみは帰る場所がありません
なぜならずぶぬれだから
三日三晩雨が降りました
ぬれねずみはさらにぬれて
ぬれぬれねずみになりました
冷たくて寒くて帰りたいけれど
鼻の先から滴が落ちるほどずぶぬれだから
どこにも帰る場所がありません
五日晴天が続きました
ぬれぬれねずみは少し乾いて
またぬれねずみになりました
暑くてつらくて帰りたいけれど
やはり帰る場所はありません
帰る場所のないぬれねずみを見て
皆は思います
あぁはなりたくないな
あぁはなるまい
あぁなったら終わりだ
ぬれねずみもねずみの頃そう思っていました
そしてこうも思っていました
私があぁなるはずがない
私ならあぁなる前にどうにかする
あぁなるなんてなんと愚かな
そうやってそこにいるぬれねずみが
早くどこかへ行っちゃえと思っていました
あの時あのぬれねずみが帰れる場所を
みつけてあげていれば良かった
探してもないのなら
どうにか作ってあげれば良かった
見ておくべきものは見ようとしなければ
決して見えない
あるはずのない未来というものはなく
未来はひっそりとこっそりと
ある日突然思わぬシフトチェンジをする
ねずみはぬれねずみになりました
なるはずないと思っていたのに
帰る場所もありません
あの暖かい場所にはもう帰れないのです
なぜならずぶぬれぬれねずみだから

　すぶぬれに　　なればなるほど　　美しく

　なっていくもの　　これなぁんだ

　　　　　　　　　　　　　　　楝色