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なぜ私たちが壱岐・勝本でマルシェをやるのか?|2024スプラウト壱岐商業高校②

2024年ももう5月が終わろうとしています。

今日も関東・関西では大雨になるようで、関西地区では計画運休が予定されている模様。ここ九州も梅雨の時期にかけては毎年水害が起きていて、ヒトゴトではありません。みなさん、ぜひご無事で。

さて、今日も高大連携アントレ教育プログラム「スプラウト」は平常運行。壱岐商業高校の2回目でした。ただし、前回は対面であったのに対し、今回はオンラインということで、担当に学生は相当に念を入れて準備してきた模様。果たしてその成果はいかに。

加えて、今回は壱岐から進学をした下関市立大学4年生の学生さん、長崎県教育庁で高等教育のアントレ教育を担うNさんと長崎県立大学の起業部に所属する学生さんも参加。壱岐、長崎、教育をキーワードにさまざまな人に関わって頂けるプログラムに少しずつ成長中です。

今回の講義テーマは「経営理念と経営戦略」。前回の個人の一歩踏み出す勇気を意味する「アントレプレナーシップ」と組織的に活動して成果を導く「コレクティブ・ジーニアス」をベースに、どんな展開になるのでしょうか。ぜひご一読ください。

なお、これまでの壱岐商業高校での「スプラウト」活動記録はこちらのマガジンをご覧ください。

今回のテーマ①:理念→戦略→計画の概念理解

「スプラウト」自体は2019年にスタートしたが、カリキュラムを固定して授業を始めたのは昨年から。昨年は走りながら形にしてきたが、今年はそれに上積みをしていくことを目標にしている。

しかし、いくら教材があるとは言っても、他人が作った資料は喋りづらい。そのプロットにどんな意味があるのか、どんなコンテクストがあってそのワークなのか。字面で何を喋れば良いかは書いてあるものの、どう伝えるかはその文章や資料を読んだ学生の理解に依存する。工夫をするのだったら、1から作った方が良いのかもしれないとすら思う。と言っても講義はやってくる。前回講義からあっという間に1ヶ月が経過した。

スプラウトでは定番のスライド。「経営理念」は企業・組織の目的「なぜ?」を示す。

すでにこれまでの私たちの取り組みに関心をお持ち頂いている(いるのか?)皆さんはご存知だろうが、当ゼミでは「理念→戦略→計画」という基本的なフレームワークを用い、大学生が高校生を導きながら、高校生が主体になってマルシェを開催できるように導いている。

理念は会社の存在意義であり、目的を表すものとして。

こちらも定番。企業活動は価値の分配を行うためにある。付加価値をどう生み出すか。

その理念を実現に向けて活動するものの、自立した活動して継続できるように価値を生み出し、それを分配する機能を有すると説明している。

戦略はポーターの競争戦略論をしっかり理解する。

そして、その価値を生み出すためのアプローチとして競争戦略があり、大きくはコストリーダーシップと差別化があるのだと説明する。極めてオーソドックスな内容。

ただし、高校生には抽象度が高くてなかなか理解できないであろう。例えば、ここでコンビニ3社の理念、戦略をWebや実際の活動を通じて知るグループワークを行っているが、実際には壱岐にセブンイレブンはない。聞いたことはあるが、日常にはないもの。その企業がどのような戦略で経営がされているかなんて知らなくても良い。しかし、彼・彼女たちは真面目に検索したり、ディスカッションしたりしながら、それぞれの企業の特徴を把握しようとする。

今回は概念理解だけの計画。計画策定は第4回にて会計を絡めて学習する。

そして、計画だ。恐らく(自分のことを振り返ってみても)この計画策定が彼・彼女たちにはイメージが湧くであろう。マルシェとは、「お店が集まるイベントなのだから、売りたいものを売るためにお店を呼んでくれば売上が上がる」と考えても良さそう。過去2年間もどうしても具体的な話が先行して、「なぜ勝本でマルシェを開くのか?その意味は?」と問われてもよくわからなそうな顔をしていた。

そりゃそうだ。あくまでも学校の行事だもの。が、その結果売上が上がるには上がったが、「なぜ」に答えが見つからなかった。「なぜ?」「どうして?」という抽象度の高い問いに対して、浅い答えが出てくることが多かった。果たして今年はどうか。

今回のテーマ②:「なぜ私たちがマルシェをやるのか?」を言葉にする

2コマ目。ここからグループワークが続く。

経営理念を決めるワーク

まず1つ目は「マルシェを行う目的・理念を決める」がテーマ。ここでは目的を設定するために理念を考えるところからスタート。

自分たちで主体的にマルシェを行う理由付けを「なぜ壱岐でビジネス?」から考えるワーク

講義ではソフトバンクを例に自分たちの想いを当てはめながら考えられるように導いていく。

今年はソフトバンクの例を用いてみた。

こうして1から考えると難しい目的設定も、ワークシートにすることで高校生が自分の言葉でで話しやすくする。極めて抽象度が高い議論になるのでありきたりな言葉になりそうだが、頭にボヤボヤと浮かんでいるイメージを言葉にすることを繰り返すこと、そのイメージを説明する語句を覚えていくことで概念操作ができるようになっていく。その感覚を身につけられるようにしている。

そして2つのグループから出てきた理念に相当する現時点での想いがこれ。

壱岐にありふれたモノを意味をつけることで付加価値を生み出し,来るお客様に壱岐の魅力を再発見してもらう。

Aチームの考え

親子連れに多く来てもらい,そうした人たちに来て良かったと思ってもらえるような企画にしたい。

Bチームの考え

わずか10分程度の話し合いであったが、双方ともイメージをもとに自分たちがマルシェにどんな人を呼んで、どうなってもらいたいかがよく表せている。

特に、Aチームは高校生に来てもらいたいけど、単にその場で楽しいだけでなく、「壱岐を自分たちのふるさととして思ってもらえる場所に」という思いが示されている。具体的には「将来ふるさと納税とかで、壱岐に住まなくても壱岐と繋がっていたいと思ってもらえる食(にフォーカスしたい:意訳)」というのは面白い視点。Bチームも昨年までもマルシェをよく見て学んでいたからこそ出てくるアイデアであり、過去2年間と視点の当て方が異なっている。こうしたところにフォーカスできたのは素晴らしい。

戦略を決めるワーク

続いてこの理念、目的をもとに戦略を考えていくワークへ。ここでもワークシートを用いて、以下のような議論を進めていく。

朧気ながら言葉にできた概念をより具体化していく

わずか15分程度のグループワークで高校生たちはどこまで具体的な顧客像を作り上げられるか。大学生によるファシリテーションを通じて高校生の考えをさらに広げてあげられるか。

私は管理者としてブレイクアウトに入らず、自分が映るだけの画面を眺めている…。

15分後、議論を終え、高校生の発表に。どうしても理念が詰まり切っていないのでなかなか戦略に落とすところまでは進まなかったようだが、こんなコメントが出てきた。

壱岐から将来出ていく若者をターゲットにし,食べ物を通じて壱岐との関わりを持ち続けるようなマルシェにしたい。

Aチームのコメント

強みとして若さ,発想力があること,弱みとして大人と比べて知識が浅い,動ける範囲がまだ狭い。ターゲットは子どもと高齢者をターゲットにする。

Bチームのコメント

Aチームは先の議論を展開。具体的な内容までは踏み込んでいなかったようだが、壱岐側で諸々調整をお願いしているMさんからも「高校生がマルシェ会場に大量に集まって、壱岐産品を味わってるようなシーンが作れるだけでも面白いマルシェですね」というコメントがあった。このアイデアは筋が良さそう。実際に勝本地域では漁協とまちづくり協議会で連携して海産物を使った朝ごはんイベントをやっていることもあり、そうしたものをうまく活用することもできそう。問題はどうやって訴求するかだけれども…。

Bチームのアイデアも基本地元密着だが、高校生にできるだけ安くではなく、どこにどんな顧客がいそうか、ただ休日に家で過ごすのではなくて自分たちが1から創り上げるイベントにどう関わってもらえそうかを考えているのが良い。

今日は時間が無かったが、ここからの詰めを次回の授業日までにできたら面白いマルシェができるかも。Mさんが「同じ若者ターゲットでも、今まで出てきがちだった、都会のものを持ってこよう的ではないアプローチなのが面白いですね」と言うのはまさにその通り。壱岐の人が気づいていない壱岐の面白さをどう高校生が解釈して伝えるか。3年目を迎えるマルシェは新たな展開を見せるかもしれない。

ふりかえり:今日のまとめ

こうして今回の講義は終了。初めて講義をしたKくん、お疲れさまでした。そして、オンライン講義で前回の対面と違う難しさを感じたことでしょう。コンテクストを共有していない中でコミュニケーションを図る難しさがわかっただけでも進歩。

終了後、さっそくふりかえり。講義を担当したKくんを起点に、参加した学生それぞれからコメント。だいたい上記のような話に落ち着くのだが、壱岐商業のプログラムは他と違って大学生も主体的に関わりながらマルシェを創り上げていくことが求められる。つまり、今日の2つのアイデアをベースにどこに落としどころを持っていき、関係各所との調整、出店店舗へのオファー、予算見積もりなどを進めていくことが必要になる。(どこでもそうだが)傍観者ではいられない。大学生が高校生の主体性を引き出しながら、ある程度のお膳立てを進めることが必要になる。

また、今回のふりかえりには長崎県立大学の学生が参加してくれた。彼からも的確なコメントがあった。特に「自分たちも高校生にこうしたワークをしたりしますが、ここまで方向性(ディレクション)が決まっていて、役割分担して授業できるってすごい」(意訳)というとてもありがたいコメントをもらったし、「具体と抽象のやり取りがすごいなと思いました」(意訳)とちゃんと狙いをついたコメントをしてくれた。

『具体と抽象』と言えば、ゼミ3年生の4月課題図書。どこまで読み込めているかはわからないが、こうした指摘をゼミ外からしてもらえることで何かに気づくと良いのだが(笑)。

長崎県教育庁のNさんからも「大学生が高校生にこうした距離感で寄り添うのっていいですね。私たちがやるとそれこそ先生と生徒になっちゃう」という話もあり、改めて「スプラウト」の持つ価値を確認して頂けたのだとしたら嬉しい。

こうして高校生の可能性を感じながら、他大学の学生に自分たちの取り組みを見てもらったことで、ゼミ生たちは何を感じたのだろう?

(だいぶできているのに)できていない、まだまだやるんだと満足しないのが良い。目に見えない飢餓感。「当たり前」の水準が少しずつ上がっていく実感。気づけば昨年見上げていた上級生と同じ立場になっていく。自分たちが高校生に影響を与えているという事実を理解しているのか、していないのかはわからないが、少しずつ進歩しているのが良い。

私たちは私たちにできることを淡々と進めていくだけ。この地道な活動があらゆる人々のアントレプレナーシップに気づく種蒔きをしている。花が咲くのはもっと先。

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