成長続ける食品宅配市場
飲食業界や小売業界では、宅配サービスが急速に拡大しています。noteでも海外の無人配送・自動運転やフードデリバリー市場について取り上げてきましたが、今回は「食品宅配市場」について、雑誌「食品商業」副編集長の三浦慶太さんに現状をレポートしていただきました。
長引くコロナ禍の影響を受けて、食事・食料品の宅配サービス競争が激化
矢野経済研究所は、2020年度の食品宅配市場規模(主要8分野合計値)を前年度比114.3%の2兆4,969億円と推計。新型コロナウイルス感染拡大の影響で宅配需要が急増し、二桁成長を記録した。少子高齢化や女性の社会進出といった社会的背景とともに、近年は食品宅配サービスが年々成長してきたが、コロナ禍を背景に大きく市場規模が広がった。
それに伴い、業態間の競争も激化。これまでも安定した需要のあった生協やネットスーパーのさらなる成長に加えて、コロナ禍で在宅ワーカーなど新たな顧客層を掴んだ外食チェーンやファストフードのデリバリー、コンビニの宅配事業などが、今後さらに伸びていくと予想されている。
今後の展望としては、食品宅配市場は2020年度から2025年度までのCAGR(年平均成長率)が3.3%と順調に推移し、2025年度の食品宅配市場規模(主要8分野合計値)は2兆9,321億円に達すると見られている。
これからもフードデリバリーの日常利用はある程度定着し、コロナ収束後も生活の中にあるサービスとして成長すると考えられる。
食品宅配で圧倒的なシェアを持つ生協の強み
共同購入として始まった生協の食品宅配事業は、個配となって組合員を中心に利用者が広がり、現在、食品宅配市場で圧倒的なシェアを持つ。ネットスーパーやネット通販の追い上げもあるものの、その牙城を崩すのはなかなか難しいと言われる。
その生協の宅配事業の特長をまとめてみた。
① 生鮮宅配に強い
アマゾンフレッシュなどはまだ展開年数が浅く、主にスポット的な注文に対応している。生協宅配の共同購入は約40年、個人宅配は約30年の歴史があり、週1回など定期的に購入する習慣が組合員に根付いている。
② 国内最大の宅配物流インフラ
長年の歴史の中で特に生鮮物流の技術を進化させ、独自の配送網とノウハウを築いてきた。現在は温度帯の物流センターを全国に130カ所設け、ラストワンマイルを担う2万人規模の配達スタッフが1,000万人を超える宅配利用者に週1回定期配達している。
③ 利用者の要望に応えられる物流・配送システム
玄関先までコールドチェーンを構築した強みを生かし、数年前には乳幼児食の冷凍食品シリーズを投入。物流・配送システムの完成度の高さで、組合員のさまざまな要望に応えられる。
④ 利用者の生活リズムに組み込まれた購入方法
生協宅配では実店舗と同様、生鮮商品を軸に多品種の商品がまとめて購入される。そうした利用方法が組合員の生活リズムに深く組み込まれ、定着率を高めている。注文書に対する受注率は平均8割強と、圧倒的なリピート率の高さを誇る。
⑤ 商品力の高さ
「産直商品」は単なる産地からの直送商品ではない。生協が独自の原則を盛り込んだ協定を生産者と結び、その基準に沿って生産された商品で、安全・安心を追求している。
⑥ 「思ったほど高くない」価格
生協宅配の商品価格はネットスーパーに比べて安くはない。しかし、ある消費者調査では、生協宅配の価格が「それほど高くない」、「市場価格による変動が少ない」、「安心・安全な商品が有機商品の宅配会社に比べて安く買える」といった声が多い。
⑦ 定期宅配というビジネスモデルの強さ
週1回の決まった日に配送する仕組みであるため、計画的な仕入れや人員配置が可能。発注予測が難しい「即日宅配」よりもコストを低減でき、その分の原資でサービスや商品の強化を図ることができる。
⑧ 買い物困難者への配慮
配達手数料は生協によって異なるが、多くの生協で子育て世帯や高齢者世帯を対象に、手数料の割引制度を導入している。
⑨ コロナ禍の中で若年層に注目された利便性
コロナ禍による在宅時間の増加で、20代から40代の若い世代の加入や利用が増加した。スマートフォンから注文できるようシステムを強化したことも要因のひとつ。特に目立つのが、共働き家庭による個人宅配の利用増である。
⑩ 事業への共感、信頼性
生協は元来モノを売ることが仕事ではなく、組合員の力を結集し、共通の目的である全員の生活改善に取り組むことがミッションである。その一貫した事業コンセプトが、生協宅配への信頼性を高めている。
ネットスーパーやネット通販は、システムありきのビジネス。しかし、生協の宅配事業には、コールドチェーンのシステムと合わせて、長年培ってきた信用と顧客との絆が強固であり、それが財産でもある。
最近は組合に加入する若者も増えており、他業界の追い上げはあるが、生協の座は揺るがない。
スーパーの宅配、リベンジが始まっている
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、あらゆる業態が宅配サービスを強化している。既存店舗を持つ小売業は、店舗がそのまま倉庫も兼ねているため、通販サイトのような大がかりな物流倉庫を新たに用意することもなく、追加の設備投資をほとんど必要としない。
新規出店を伴わずに新たな商圏を獲得して売上高の拡大を見込めることも、ネットスーパーなど宅配事業への参入を後押ししている。
しかし、セルフサービス・セルフセレクションを基本とするスーパーマーケットでは、ピッキングと配達のノウハウの蓄積が少なく、これまで何度も宅配事業に参入したが、経費の増加分に見合う売上が取れず、採算が合わずに撤退を繰り返した。今でも利益の出ているスーパーはごくわずかだ。
そうした中、三重県北部を地盤とするスーパーサンシだけが長年利益を挙げている。事業化成功の秘密は、高密度配送と顧客の開拓力と囲い込みにある。そして、ライフ×アマゾン、西友×楽天と、IT関連企業とタッグを組み、双方が得意とする分野で協業を果たし、成果を挙げているチェーンも出てきた。さらに、移動販売のとくし丸も全国各地のスーパーと契約し、移動販売車輌台数を増やし続けている。
ライフラインとも言えるスーパーだが、過疎化が進む地域では、店を維持することは難しい。「買い物難民」と言われるような生活者の期待に応えるため、スーパー各社は宅配や移動販売など試行錯誤している。
いよいよ宅配に本格参入するコンビニ
コンビニ各社も、食料品や日用品のデリバリーサービスの本格導入を進めている。ローソンはウーバーイーツなどギグワーカーを使った宅配を導入しており、2021年度中に3,000店まで増やす計画だという。
また、セブン&アイ・ホールディングスは、各地域で物流専門会社と提携し、最短で30分以内に商品を届けるサービスを2025年度に実現するとしている。これまで実験を繰り返してきたが、お客からの注文を受けたが欠品で配達できず、商品交換などお客とのやりとりが煩雑になっていた。それが、ほぼリアルに店舗在庫とネット在庫をリンクできるようになり、欠品による煩雑な業務を回避できると見込んだためだ。
全国で2万店を超えるセブンイレブンの店舗で宅配サービスが始まれば、ネットスーパーそして生協の宅配事業にも大きな脅威になる。だが、買上点数はスーパーのようには多くなく、注文点数が少なく配送効率はよくない。しかし、小さな店舗で抱えられる在庫は限られ、まとめ買いへの対応は難しい。
そのため、店舗からの配達に加え、同じグループのスーパーやネット通販用のセンターからも配達する体制を整えてくるはずだ。
高齢化が進む中、買い物困難者の問題も深刻化する。身近にあって便利なコンビニが、さらに宅配まで本格化することで、インフラとしても役割が一層増してくる。
ゴーストキッチンやダークストアも本格化
コロナ禍で最も影響を受けたのが、パブや居酒屋など酒類を提供する飲食店だ。これらは度重なる営業時間の短縮要請で窮地にある。一方、食事主体のファストフード業態は、いち早くテイクアウトやデリバリーを強化し、コロナ禍前より売上を伸ばす店も出ている。
同じ食事主体の店でも店内飲食は激減し、家賃など固定費負担がのしかかる。そこで、注目されているのがゴーストキッチンだ。イートインスペースを持たないので厨房スペースだけで営業でき、複数の店でシェアするケースも出てきた。だが、デリバリーコストはかかり、店内飲食なしに店の認知度を上げるのに苦労する店も多く、簡単なことではない。
また、コロナ収束が見通せない中、業態転換も進んでおり、唐揚げやとんかつといったスーパーの惣菜コーナーでも人気の商品の専門店も数多く登場し、テイクアウト、デリバリーが好調である。そして、店をデポと配達拠点専用として、店売りは行わない宅配専門のダークストアにも注目が集まる。
その一例が、2021年8月に東急東横線学芸大学駅近くにオープンした、宅配のみの食品スーパー「OniGO(オニゴー)」。店舗販売は行わず、店舗販売は行わず、「10分で届く宅配スーパー」というキャッチフレーズで注目を集める。
その一方で、2020年9月に日本に上陸したフードデリバリーサービス「foodpanda(フードパンダ)」は、食料品や日用品などを即時配達するダークストア事業「pandamart(パンダマート)」をはじめていたが、突如、2021年12月に親会社の独デリバリーヒーローが2022年3月末までに日本から撤退することを発表。2022年1月末でサービスを終了する。
パンデミックで広がった巣ごもり消費で、デリバリー需要は高まったものの、宅配事業への参入が増え競争が始まり、配達要員の確保も難しく人件費も上がっている。こうした状況から撤退を決めたのではなかろうか。
だが、高齢化や過疎化、働き方の多様化で、ネット通販はじめ宅配事業の必要性は高い。人手不足やローコストオペレーションなど課題は多い中、ラストワンマイルにおける競争は激しさを増している。
リアル店舗の価値を見直し強化しながら、新しい販売チャネルとして食品宅配を模索する動きは広がるのではなかろうか。
(文:「食品商業」副編集長 三浦慶太)
「生協宅配」、「ライフ×アマゾン」、「西友×楽天」、「セブン&アイ・ホールディングス」、「パブや居酒屋など酒類を提供する飲食店」の取り組みと、国内でも食品宅配市場の動きが活発化してきていますね。
レポート冒頭でも書かれていたように、食品宅配の市場規模は拡大傾向にあり、飲食店や小売店舗にとって大きなビジネスチャンスであることは間違いないでしょう。一方、さまざまなプレイヤーが参入して競争が激化している側面もあり、今後はいかに差別化し、顧客ニーズに合わせたサービスを展開できるかがポイントになりそうです。
その際に、長らく日本に根付いている生協宅配の「商品力の高さ」や「質の高い物流・配送システム」「共働き世帯や高齢者のニーズに応えるサービス」といった特長に学んでみるのも、実は有効な視点かもしれません。
また、当社出資先であるダブルフロンティア社も「ツイディ」というお買い物代行サービスを展開しており、スーパーと連携して宅配サービスを提供するなどコロナ禍でニーズが拡大しています。このように、スタートアップとの連携によるサービス展開にも大きな可能性がありそうです。
東芝テックCVCでは今後も、店舗の課題解決につながる新しい価値創造を、スタートアップの皆さんと一緒に目指したいと考えています。出資や協業について相談してみたい方は、公式サイトよりお気軽にお問い合わせください!